第10話 ぐすっ
「………あなたはイケメンだ」
「はい」
「あなたが懸念事項で書いていた通り、会う回数を重ねるごとに光り始めた。すごく輝いていて、眩すぎて。正直。何度。目が潰れたんじゃないかって。心配になった」
「はい」
「でも。目が潰れても。構わないって。ずっと。目が潰れたって、その眩さは見える。ずっと、その眩さを見ていたいくらい。あなたはイケメンだ。ずっと。ずっと。あなたはイケメンだ」
「ありがとうございます。でも。ぼくは、ぼくは。気づいたんです。思い知らされたんです。ぼくは。顔だけのイケメンだって」
「そんな事はねえ。そんな事はねえ!あなたは顔だけじゃねえ!全部がイケメンだ!」
「いいえ!ぼくは顔だけのイケメンです!あなたみたいに全身全心がイケメンじゃない!」
「いいや!全部がイケメンだ!」
「いいえ!顔だけのイケメンです!」
「いいや!全部がイケメンだ!」
「いいえ!顔だけのイケメンです!」
「ちょ。っと。落ち着きなさい。ほら。座りなさい。二人とも」
刑務所の職員に注意されたぼくと仙田さんは、いつの間にか立ち上がっていたらしく、しかもパイプ椅子を後ろに倒していたらしく、元に戻してから座り直して、仙田さんが言葉を発するより先に、ぼくの話を聞いてくださいと言った。お願いしますって、頭を下げて。そうしたら、仙田さんは黙って頷いてくれた。ありがとうございます。ぼくはお礼を言って言葉を紡いだ。
「確かに。ぼくは全身全心がイケメンだと思っていました。その中でも特に顔がイケメンだと自負していて。けど。正直、顔がイケメンだからと、顔に頼り切って、ほかの身体や心をイケメンにする事を怠っていたと、あなたが詐欺者だと告白して、謝罪した時に痛感しました。自分から犯罪者だと言ったその強い覚悟と、ぼろぼろの全身から引き寄せるイケメンに、ぼくはイケメンとしてまだまだだと思い知りました」
そう。本物のイケメンとは。
引き寄せるもの。
決して、立ち去らせる存在ではない。
「だから。ぼくは市認定の人間レンタルサービスに登録しました。色々な人に出会って、色々な要望に応えて、イケメンだと微笑んでもらえるように」
「美紀彦さん」
「あなたに。出所したあなたにイケメンだと微笑んでもらえるように。目を潰さずに済むように。ぼくは。成し遂げてみせます」
「………おう」
「泣かないでください。ぼく。ぼくも。泣いちゃうじゃないですか」
「もうとっくに泣いている。俺も。美紀彦さんも」
「ううう。仙田さん。早く。早く」
「職員さん」
「何ですか?」
三十分の面会時間終了後。
牢屋に戻る俺は前を歩く職員さんに宣言した。
一日でも早くここから出る。
出て。
「好きだって、告白します」
「………ぐすっ。ああ。一日も早く。あなたならきっと。社会復帰できますよ。だって、あんなイケメンが待っていてくれるんですから」
「………ぐすっ。ばい。早く。告白、しないと。あの人。誰かに持って、いかれる」
「………うん。うん」
(2023.9.27)
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