忘却の場所

10まんぼると

忘却の場所

 机のスマホが震えている。何度目の着信だろうか。もう辞めて欲しい、うんざりだ。幼少期に決別した人とは会うつもりなんてないんだから。


 俺には双子の弟いた。両親と4人で東京に住んでいた。元々、岡山に住んでいたが幼稚園の途中くらいで、東京に移動した。親の実家が岡山にあり同じ大学で出会ったらしい。でも、そんな親との生活は安泰ではなかった。母も父も拘りが強い人でそれが原因で言い争いをいつもしていた。


「どうして分かり合えないんだろう」


俺は、子供ながらに思っていた。親同士が喧嘩をしているとその子供にも悪影響を及ぼすと言われているが、それが影響したのかは分からない。でも、弟とはあまり仲が良くなかった。


 俺が小学生2年生だったある日、父が酒に呑まれながら家に帰ってきていつものように口論となっていた。会社の取引で上手くいかなくて、少し神経質気味だった父が普段より多く飲んだのだろう。いつもは口論だけだったはずが、母の顔に1発、手のひらで叩いてしまった。僕は父を止めようと押さえつけたが、さすがに力の差がありすぐに跳ね除けられてしまった。この出来事がきっかけで、離婚の話が出てすぐに引っ越すことになった。弟は反省している姿を見て、父とこの家に残ることになった。俺は、弟とは違い手を出されたから、母と共に実家へ向かった。抵抗しようとした俺が悪いとはいえ、あまり一緒に過ごす気にはなれなかった。


 岡山に着くと昔4人で住んでいた頃の記憶が蘇ってくる。実家はとても優しくしてくれた。東京と比べると田舎だかその生活も風情を感じる良いものだった。そんなゆとりのある生活のなか1本の電話がかかってきた。


「たすけて...。お父さんを救って...」


弟からだった。話を聞くと俺が岡山に来たあと、仕事のストレス発散の的が弟になり、暴力が止まないと。お父さんを救ってというのは弟なりの父への優しさだろう。とりあえず父にはバレないように、新幹線のチケットを手配し弟に岡山に来るように言った。そして、父との連絡手段をを全て遮断した。目を閉じると、トンネルを抜け出そうとしている、1つの高い人の影と2つの低い影が楽しそうに映った。

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