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「何で、俺なんだよ? 管轄が違うだろ?」

 そのドスの効いた声が聞こえた時、服部裕一がまず思ったのは「何で、警察署の真ん前でヤクザが偉そうにしてるんだ?」という事だった。

 ワインレッドのワイシャツに白いネクタイとクリーニングから戻ってきたばかりのように綺麗な白い背広の上下。靴はワニ革らしい表面の傷一つ無い真新しいピカピカの……茶色というより赤に近い色の革靴。

 さほど長くもない髪には整髪料によるものらしい光沢が有る。

「そっちの課長さんと部長さんの許可はもらってますんで、さっさと来て下さい」

 警察署に似つかわしくない作業着の男が、これまた警察署に似つかわしくないヤクザ風の男の手を引き、ヤクザ風の男は舌打ちをしながら嫌々付いて行っているようだ。

 一昨日、内海冬美のペンネームで作家をやっていた服部の弟の妻が都内で事故死した。

 続いて昨日、妻の遺体引き取りの手続きと、警察の事情聴取の為に愛知から上京した服部の弟が宿泊していた新宿区内のサウナで心臓発作。

 警察としては変死扱いの為、服部は、会社を休んで形式上の事情聴取を受けに新宿署に来ており、それがよやく終った所だった。

「何なんだ……一体?」

 警視庁新宿署の玄関先で服部は呆れた声で、ヤクザに見える男を車に押し込む……勤め先の現場にも居そうな作業着の男を見ていた。

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