オタギャル!──オタクなギャルが義妹になりました──
アトラック・L
第1話 僕に義妹が出来た日(1)
父が再婚することになった。二年生になって、新しいクラスに慣れてきた四月の半ばの事だった。
僕──
この時期になると、生徒たちは皆グループを作っていく。ぼくは元来のコミュ力不足により、見事ぼっちの座を欲しいがままにしていた。まぁ、一人は気楽だから好きだし、いじめられているわけじゃないからいいけど。
対照的に、クラスの中心にいるのが
長良さんは教室のど真ん中あたりに席を構えていて、その周囲には取り巻きが何人かいる。飽きもせず、毎日似たような話をしている。やれ新作フラペチーノがどうとか新作コスメがどうとか。
「くぁ……ねむ」
まぁ、僕には関わりのない世界だ。僕は日陰者で、彼女は陽の者。接点なんてあるわけがない。
僕は寝不足気味で重たい
昨夜は楽しかった。深夜アニメを観て、そのままの流れでSNSで感想会。マイナーなアニメだけど、僕と仲の良いアカウントの人と盛り上がれた。深夜四時とか五時まで盛り上がってしまったせいで、今日は寝不足である。
僕は机に突っ伏した。ホームルームまで三十分ほどあるから、少し仮眠を取ろうと思ったのだ。
と、視界に長良さんが欠伸をしているのが入った。
「どしたん? 寝不足」
「ちょーっちね。昨日遅くまで起きててさぁ」
「今日二限赤城じゃん。寝たらマズイよ」
長良さんも寝不足なんだ、と僕は思いながら意識を落として行ったのだった。
なぜだかわからないけれど、
僕はいわゆるオタクだ。幼い頃からヒーロー番組に育てられ、小学校高学年になる頃には深夜アニメを観始めていた。好きなジャンルはファンタジーとSF。ラブコメは苦手だけど、萌え系と百合は大好き。
主で使っているSNSはTX。一番仲のいいアカウントは
家庭環境は少しだけ複雑で、父親と同居している。母親は父さんと離婚して、今はどこにいるのかもわからないそうだ。
と、言うようなことを初対面の新しい母親に話すわけにもいかない──別にオタバレするのはいいのだけど、自分から言うことではない──ので、どんなプロフィールを用意したものかと悩む。
そういえば、娘が居ると聞いていた。ちょっと不安になりながら、まだ明るい帰り道を歩く。
「って、あれ」
いつもは視界に入ることのない髪が見える。小柄な体型の少女だ。
赤く染まったロングヘア、改造した短いスカート。紛れもなく長良さんだ。彼女こっちの方面だったのか、なんてぼんやりと考える。
しかしそれにしては様子が変だ。慣れない道を歩いているような、そんな感じ。
「うーん、こっちかなぁ」
彼女はメモ書きを手に、右に曲がるか左に曲がるかで悩んでいるらしい。さて、どうしようか。声をかけるべきか否か。
悩みながら横を通り過ぎる。まぁ、いきなり声をかけられても困るだろうし、変態のレッテルを貼られるかもしれないからスルーするに限る──と、
「あっ、木曽っちじゃん!」
目を付けられた。
「き、木曽っち?」
「あれ、違った? 木曽くんだよね」
意外だ。僕のことを覚えていたのか、長良さん。
「まぁ、そうだけど」
「だから木曽っち」
……この距離の詰め方。ギャル特有の距離の詰め方だ。正直言えば、苦手である。
「いやー、知り合い見つけれてラッキー」
「言うほど知り合いか、ぼくたち」
「知り合いじゃん。一年の時も同じクラスだったし」
いや、その程度で知り合い扱いされても。
「……はぁ。で、なに? なんのよう?」
「いやー、こっちに引っ越すことになったんだけどさ。あぁ、今までは裏手から帰っていたんだけどね。それでさ、今日帰る場所がわかんなくなっちゃって。
「あぁ──それなら右側だぞ。僕もその近くだから、案内ぐらいならできるけど」
「やーりぃ! いやぁ、助かるわ」
長良さんがガッツポーズを決める。髪がふわりと揺れて、甘い匂いがした。シャンプーの匂いか、柔軟剤の匂いだろう。あるいは香水か。
いずれにせよ、いい匂いだった。
僕たちは帰り道を歩く。不思議な感覚だ。クラスの人気者、長良めぐみと一緒に歩いているなんて。
「木曽っちさぁ、アタシと話したことなかったよね。なんで?」
「なんでって、接点がなかったからじゃないか」
「それもそっか」
ギャルとオタク、接点なんてあるわけがない。結局のところそれに尽きる。
「じゃーさ、教えてよ。木曽っちの事」
「僕のこと? 知ってどうするのさ」
「クラスメイトじゃん。話のキッカケにかるかなーって」
なんだそれは。彼女の言葉は一見筋が通っているようで、その実全然筋が通っていない。僕が訊いたのは、知ってどうするという話で、彼女は知る理由を答えたのだ。
まぁ、その程度気にするほどでもないか、と僕は考えた。どのみち、ありきたりなことしか話さないのだから。
「僕のことね……まぁ、普通の高校生だよ。流行りには
「む……なーんかありきたり。特筆とか言うあたりに自分頭いいですけどって思ってそう」
「別に。本はそれなりに読むから、そこで覚えただけだよ」
本──それこそラノベから純文学まで一通り読みはする。ラノベに偏っているのはご愛嬌。
「そっかぁ、そっかそっか。アタシも本はそれなりに読むよ」
「本当か?」
疑いの目を向ける。彼女が本を読んでいるイメージが湧かないからだ。
「あっ、ひどーい」
そう言いながらも笑っている彼女を見て、なんとなくクラスの中心になった理由を察する。
誰にも分け隔てなく、すごく明るく接する事ができる。それが彼女の強みで、きっとだからこそ誰からも愛されるキャラとして確立したのだろう。
僕にはないものだ、と羨ましくなった。
と、ふと疑問を抱く。彼女はなぜ、こんな時期に引っ越しをするのだろうか。
「しかし変な時期に引っ越しをするんだな」
「あー、アタシのママが再婚するからさ」
へぇ、と僕は思う。再婚かぁ、大変だな。
……再婚? なーんか、聞いたことのある話というかなんというか。まさかね。
そうしているうちに、時雨団地についた。僕の家は団地の外れにある一軒家で二階建てのさほど大きくない家。
「着いたよ。じゃあ、僕はこの家だから」
「……うそ」
長良さんがスマホを見て、それから僕の家を見る。じっくりと見比べているかのようだ。
「木曽っち、これ」
長良さんが見せてきたスマホの画面には、紛れもなく僕の家が写っていた。
「……もしかして父さんの再婚相手って」
「……まさか、ママの再婚相手って」
僕たちはほぼ同時に声を出し、
「木曽っちのお父さん⁉︎」
「長良さんのお袋さん⁉︎」
同時に叫んだのだった。
これが始まり。僕にギャルの、一月だけ下の義妹が出来た日のことだった。
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