第3話 ヤンデレのレーヴァ
ひとまず、迷宮の外に出た。
運良く出口の付近だったらしく、ダンジョンでモンスターに出会うことなく出ることができた。
「なあレーヴァ。いくつかききたいことがあるんだけど」
安全が確保されたところでレーヴァに尋ねる。
『なんでもきいてください。マスター』
「うん。じゃあ聞くけど、恋人っていうのはその、契約者のことを便宜上そう呼ぶの?」
『はい? どういうことですか?』
「俺が知らないだけで、魔剣の契約者っていうのは『恋人』っていう呼び方をするのが一般的なのかなと。いわゆるあだ名」
恋人と彼女は呼んでいた。
しかしそれが俺の知っている意味と同じとは限らない。
「恋人」というのは魔剣の契約者のことを指しているだけかもしれないじゃないか。
『そんなことはありませんよ。恋人というのは、互いに愛しあい、交際している関係のことです』
俺の知っている意味と同じだった。
「レーヴァ。俺は人間で君は剣だよね」
『はい。種族を超えて二人は愛しあっていますね』
「俺たちはさっき会ったばっかりだよね」
『はい。運命の出会いでしたね』
「恋人になった記憶がないんだけど。いつのまにそういう関係ってことになったの?」
『契約しましたよね』
「え?」
『契約しましたよね?』
契約?
いや、確かに契約はしたけど。
レーヴァを引き抜くために、所有者となる契約だ。
え、あれのこと?
あの契約ってそういうものだったの?
てっきり、魔剣とその所有者になるための契約だと思っていたんだけど。
「あれって、レーヴァの所有者になるための契約じゃないの?」
『はい、そうですよマスター。わかっているじゃないですか』
「魔剣の所有者っていうのは、別に恋人じゃない気がするんだけど」
『え、恋人って意味ですよ?』
「?????」
『恋人になる契約ですよ』
ねえマスター、と。
そう彼女は優しい声色で言う。
『マスター。私、言いましたよね?』
『病める時も健やかなるときも二人は永遠に一緒って言いましたよね?』
『私の全てをあげますって言いましたよね?』
『代わりに貴方の全てをくださいって言いましたよね?』
『私は言いましたよね?』
『マスターはそれに契約しましたよね?』
『そうですよね??????』
怒涛のように頭の中に言葉が流れ込んでくる。
そういえば、言ってた。
確かに契約の承認のときに言ってた。
病める時も健やかなるときもって言ってた。
あの時はミノタウロスのことで精いっぱいだったからスルーしてたけど、そういうことを言っていた。
いや、でもそれ俺が契約を結ぶと言ったあとに付け足したじゃん。
事前に提示されていない条件を付け足してるじゃん。
後だしじゃねえかよ。
詐欺だよ詐欺。
『マスター』
と、レーヴァが俺のことを呼ぶ。
こころなしか、先ほどよりも声色が冷たい。
なんというか、こう。
ゾッと背筋が凍るような、感情が死んでしまったような冷たい声色だ。
『契約しましたよね?』
「えっと……」
『契約しましたよね病める時も健やかなるときも永遠に一緒だって契約しましたよねそれってつまり婚約ですよね私たちは婚約者ですよね恋人ですよね私たちは愛し合っていますよねそんなことは当たり前ですよねあはは何を当たり前のことを聞いているんでしょう私ったらおかしいんだからでもでも言葉にして確認しておきたいことってあるじゃないですか言葉にしなきゃ伝わらないことってあると思いますもちろん私とマスターはいつでも思いは通じ合っていますげも言葉にすればもっと通じ合えると思うんです互いの思いをきちんと言葉にしておかなかったからすれ違いがおこって悲しい結末に終わるという愛もあると思うんですもちろん私とマスターとの間にはすれ違いなんて絶対ないですしそんなことありえないことはわかっていますし万が一億が一の可能性もないですけどあり得るわけがないんですけどそんなことは神様だってできませんしというか私たちの間を邪魔するやつは神様でも許しませんしそんなことしたら神様だって殺してやるんですけどって何の話でしたっけああそうです互いの愛を言葉にしておくことが大事って話でしたねマスター私は思うんです互いの思いを言葉にして伝えあって愛を確認すればきっと幸せになれるはずですあ思いを伝えなければ幸せじゃないっていうわけじゃないですよ私はマスターと一緒にいられるだけで幸せですしマスターも私と一緒にいるだけで幸せですよねでも愛を伝えあうことでもっと幸せになれるんですよきゃっ私ったら愛を伝えあうだなんてもうはしたないそういうことじゃないんですよマスター決してエッチな意味で言ったわけじゃないんですそんなことばかり考えているふしだらな女ではないですあ勘違いしないで下さいねマスターとそういう行為をしたくないというわけじゃないんですよもちろんマスターとエッチなことをしたいという思いはありますむしろそういうのは望んでいますしマスターから誘って下さるならどんとこいって感じですしマスターから誘ってこなくても私の方から誘ってみたりとかしたいですしああでもどうしましょう初めての時はどちらから誘うべきでしょうかやっぱりこういう問題はきちんとしなければいけないと思いますやっぱりきちんと言葉にして確認しておくことは重要ですよねそうですよねマスターこれからももっともっと私と話し合いましょうねずっとずっとずっとたくさんたくさんたくさんたくさん話し合いましょうね愛し合いましょうねマスター愛してますマスターも私を愛してますよねそうですよね?』
『ね、そうですよね?』
「……………………うん。そうだな!」
やっっっっっっべええええええええええええええええええええええええええええええええ!
なんだこの魔剣、ヤンデレじゃないか!
いやいやいやいや。
なんで魔剣がヤンデレなんだよ!
確かに何を要求されてもいいとは思っていたよ!
思っていたさ!
でもこれは予想外すぎるだろ!
もしかして俺は、生き残るためにものすごくやばい契約を結んでしまったんじゃないのか!?
なにか手を出してはいけないものに手を出してしまったんじゃないのか!?
しかし、もう遅い。
俺はヤンデレの魔剣と契約を結んでしまったのだ。
今さら後悔しても、もう遅い。
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