拾った魔剣がヤンデレすぎて、無双はできてもハーレムができない

沖田アラノリ

第1話 魔剣との出会い



「うおおおおおおおおお! 誰か助けてえええええ!」



 場所はダンジョン。

 俺は叫びながら全力で走る。


 後ろに迫るのはミノタウロス。


 3メートルほどの大きな肉体。

 それを支える強靭な筋肉。

 そして手に持つ巨大な斧。


 全てが強力で凶悪だ。


 新米冒険者に毛が生えた程度の俺ではなんともならないことは明らかだ。



「うおおおおおおお!」



 大声を出しながらダンジョン内を走って逃げる。


 俺の名前はユーリ・クローター。


 少し前に冒険者になったばかりの若手冒険者だ。

 三か月前、ギルドで登録して幼い頃からの夢だった冒険者になった。


 俺も男だ。

 冒険者となったからには一旗あげて栄光を掴みたいと思っている。


 冒険者たちの中でも最高の強者と言われるAランク冒険者になり、名を上げる。

 そうすれば金も地位も手に入り、順風満帆の人生だ。


 女だってより取り見取りだろう。

 ハーレムを築くのも悪くない。


 ハーレム。

 いい響きだ。

 そうだな、冒険者として大成したら美女を何人も囲ってハーレムを作り、毎日楽しむとしよう。



 そんな妄想を行いながら俺は冒険者になった。


 そして新米と言われるEランクから抜けだしてDランクに上がったのが1週間前。 


 初めてのランク上昇にテンション上がって、「せっかくランクも上がったことだし少し上のダンジョンに挑戦しよう」とかふざけたことを考えて実際に挑戦したのが今日。

 そしてミノタウロスに見つかり一瞬で逃げることを決めたのが、1分前。



「甘かった! 考えが甘かった! 俺にこのダンジョンは早かった! なんだよミノタウロスとかAランク冒険者が戦うクラスの奴だろやべえよ勝てねえよ誰か助けてえ!」



 ダンジョン内で叫びながら走り回るが、しかし誰も助けに来ない。

 誰もいない。


 入ってから薄々感じていたが、今ならはっきりとわかる。

 俺、入るダンジョンの難易度間違えたわ。


 ダンジョン内を走り回り逃げるが、しかしいつまでも逃げられるものではない。

 人は全力で走り続けることはできない。

 次第に疲れがたまり、速度が下がっていった。


 後ろを振り向いて確認すると、ミノタウロスは勢いを全く落とさずにこちらを追いかけている。


 やばい。

 このままだと追いつかれてしまう。

 というか、追いつかれた。

 すぐ後ろには、ミノタウロスの姿があった。



「グオオオオォォ!」



 ミノタウロスが雄たけびと共に斧を振り上げ、こちらに振り下ろす。



「うおおおお!」



 俺は腕を振り上げ、手に持っていた剣でミノタウロスの斧を防ぐ――。



 パキッ。



 ――ことはできずに、あっさりと剣が折れた。


 あ。

 これ、終わった。



 しかし、幸か不幸か斧が剣に当たった際の衝撃で俺はずっこけ、しりもちをつく。

 そして横向きに斧がフラれ、先ほどまで俺の頭があった位置に斧が通過する。


 あっぶねえ……!

 

 近くの壁に寄りかかって、安堵する。


 あのままだったら、斧が当たって死んでいた。

 こけたおかげで斧を避けることができた。

 九死に一生とはこのことだ。


 ミノタウロスの振った斧は俺の体には当たらなかったが、しかし近くの壁に当たる。

 その衝撃で壁が崩れて、壁に寄りかかっていた俺は背中から倒れた。



「うわああああ!」



 すぐにどこかにぶつかると思っていたが、しかし倒れる勢いは途中で止まらずに床に寝転んでしまう。


 床?

 それは壁の向こう側に空間がなければありえないことだ。


 しりもちをつきながらたどり着いた場所を見渡すと、そこは小さい部屋になっていた。

 飾りなどはない、ただの四方に壁があるだけの狭い空間。



 そして、その部屋の中心には剣が一本刺さっていた。



「剣?」



 ダンジョンの誰もいない空間に突き刺さる剣。

 異様な姿と言ってもいい。



「グモオオオオオオオ!」



 ミノタウロスが咆哮する。

 俺に斧が当たらず、死んでいないことに気づいているのだ。


 部屋や剣を見ている場合じゃない。

 一刻も早く逃げなければ。


 と思ったのだが、位置関係が不味い。

 俺は部屋の中にいて、ミノタウロスは部屋の入口――入り口と言うか、ミノタウロスが斧で壁を壊した箇所――に陣取っている。


 幸い壁に開けた穴が小さいせいで体格の大きいミノタウロスは入ってこれない。

 そのためここにいる限り襲われることはない。

 ないが、しかし出ることもできない。


 俺が部屋からでるには、ミノタウロスがいるところを通らなければならない。

 ミノタウロスも俺が出るのを大人しく許してくれるわけがないだろう。


 じゃあずっとこの部屋の中にいて奴が諦めるのを待っていればいいじゃないか。

 そう一瞬思ったが、そううまくはいかない。


 ミノタウロスは斧をふるい、自分が壊した壁の周囲を更に壊し始めた。

 自分が通れるくらいの穴を作ろうとしているのだ。

 部屋に入って俺を仕留めるために。


 これはまずい。

 これではいつか穴を広げ、ミノタウロスは部屋の中に入ってきてしまうだろう。


 しかし俺は逃げることはできない。

 いわゆる袋のネズミだ。



「どうする……?」



 逃げることができないなら、迎え撃つしかない。

 戦うしかない。


 とはいえ俺の持っている剣は折れてしまった。

 武器がない。


 これでは立ち向かうことなんて……。


「あっ」


 剣、といえば。

 あるじゃないか。この部屋の中に。


 部屋の中央にある剣。

 なぜここにあるのかは知らないが、ちょうどいい。

 使わせてもらおう。



「というより、もうこいつしか頼るものがないんだけどな!」



 俺はすぐに剣の元に駆け寄る。



「頼む! 抜けてくれ!」



 剣の柄を手に取り、思い切り上に引っ張る。



「頼む! 今はお前だけが頼りなんだ!」



 一人叫びながら俺は剣を引っこ抜こうと力を入れる。

 すると。


『ねえ』


 と、頭の中に声が響いた。


「え? え? なんだ?」


 声が聞こえてきたため周囲を見渡すが、俺のほかにそこには誰もいない。

 いるとすれば、壁を壊すミノタウロスのみだ。


『ねえ』


 再度、頭の中に声が響く。



『貴方は私が欲しいのですか?』


「誰だお前は? どこにいる?」


『私は貴方が今手にしている剣。魔剣レーヴァテインです』


「魔剣!?」



 ぎょっとして魔剣を見る。



『驚いている暇はありません。貴方は危機に陥っているはずです』


「あ、ああ。いま絶賛大ピンチだよ」



 今こうして会話(?)をしている間にも、ミノタウロスは壁に穴を広げていく。

 あの穴がミノタウロスが通れるくらい広げ終わった後、俺はミノタウロスに襲われてしまうだろう。



『私と契約を結びますか?』


「契約?」


『魔剣である私、レーヴァテインと契約を結びますか?』


「どういうことだ」


『私は魔剣。その所有者に絶大な力を与えることができる剣。あんな牛の一匹程度なら瞬殺できるほどの力を与えることができます。しかし契約を結んだ相手でなければ所有者になることはできません』


「それってつまり、お前と契約すればあのミノタウロスを倒せる力を得られるってことだよな」


『ええ、もちろん』


「お前と契約すれば、俺は生き残れるってことだよな?」


『ええ、もちろん』



 そうか。なら――



「なら迷うまでもない。契約? ああ、いいぞ。契約でもなんでも結んでやるよ!」



 それでこの場が助かるのならな!

 

 正直、怪しい取引だとは自分でも思う。

 契約というからには何かしらの対価を支払う必要があるのだろうが、しかしそんなことを尋ねている暇はない。


 仮に聞いたとして、納得ができないからと断ることもできない。

 断ったらその時点でミノタウロスに殺されることが決定してしまうのだから。


 例え契約の証に何を要求されようと、いまここで殺されるよりずっとマシだ!



「契約を結ぶぞ、魔剣レーヴァテイン!」 



『承認』



『契約はここに結ばれました』

『魔剣レーヴァテイン』

『冒険者ユーリ・クローター』

『病める時も健やかなるときも』

『二人は永遠に一緒です』

『私の全てをあげます』

『代わりに、貴方の全てをください』



 その言葉が頭の中に響き、その後は手に抵抗がなくなり剣が抜ける。



「な……!」



 なんだこれは。

 力があふれてくる。


 今まで手にしたことのない力を全身が巡っていく。



「グモアアアアアアアアア!」



 ついに壁が壊され、室内に入って来たミノタウロス。

 雄たけびを上げながら、斧をもってこちらに突っ込んでくる。

 

 先ほどまでは実力が天と地ほどの差があった。

 しかしいまは、それを感じない。

 いいやむしろ、今は俺の方が強い。



「死ね」



 一閃。


 ただ魔剣を横薙ぎにふるう。

 それだけでミノタウロスの強靭な肉体は切断され、先ほどまで俺が恐れていた怪物はあっけなく死亡した。


 ミノタウロスの死体が転がり、あたりは一気に静かになる。



「すごい。これが魔剣の力か」



 驚愕しながらも、俺は魔剣を見つめる。

 確か、魔剣レーヴァテインといったか。


 これは俺の実力じゃないことはわかる。

 全ては魔剣から得た力だ。


 先ほどレーヴァテインは所有者に絶大な力を与えるといっていたが、しかしこれほどとは。



「お前、すごいんだな。これほどまでの力を持っているなんて」



 素直に褒めると。


『褒めてくれて嬉しいです。マスター♪』


 頭の中に先ほどの声が響いた。

 レーヴァテインの声だ。


 あれ?

 さっき何か気になる単語が聞こえたな。



「マスター?」


『はい。マスターはレーヴァの所有者になったのですから、これからはマスターと呼びます』

 

「あ、ああ。そうか。よろしくな」

 

『はい。よろしくお願いします。これからは恋人として、永遠に愛を育んでいきましょうね?』



 ……んん?

 いま、なんか変な言葉が聞こえなかったか?

 

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