第2話 

「子どもが生まれるタイミングで、家を買おうと主人と話していました。それまで住んでいた賃貸マンションは手狭で、音も響きますし。小さい子が住むには、不適当だと思ったんです。ほら、下の階のクレームとか嫌じゃないですか」


「なるほど?」


「うち夫婦ともフルリモートで仕事してるんです。だから、住むのは都内じゃなくても良くて。どうせだから、自然が多くて、子どもが走り回れるような土地がいいねって。物件価格も安いし。あと、私、狭い家で育ったので、大きい家に憧れがあって」


 生活の話を少し深掘りして聞けば、さやかさんご夫妻はそれなりに裕福なのだろうということが察せられた。


「それで引っ越されたのが、この『▪️▪️▪️』って町だったんですね」


「はい。不動産屋さんに紹介されたんですけど。リニアモーターカーの駅がもうすぐ開通するそうで。都内にだって、二時間あれば行けちゃうんです。実際に町に行ってみて、すぐ気に入っちゃって」


「それは便利そうなところですね」


「ですよね? 子供もまだ十ヶ月でよく熱を出したりしますし、大きな病気になったりした時に、都内の医療機関にがんばればかかれるっていうのはいいなって。あと、私は実家が都内なので、里帰りもしやすいですし」


 彼女が購入を決めたのは、中古の輸入住宅。売り手は▪️▪️▪️の地主だという。


「その物件、地主さんのセカンドハウスみたいなかんじだったんでしょうか?」


「もともと地主さんから他の方がその土地を買い取って、家を建てて住んでいたらしいです。でも、その方が出て行くことになったので、また、地主さんがそこを買い取ったと聞きました」


 僕は手元の手帳に、ペンをはしらせる。興味深い。なぜ、地主は一度売った土地を買い戻したのだろうか。


「では、本題にいきましょうか、なぜ、あなたはその町が妙だと?」


 さやかさんが、唾を飲み込んだのが聞こえた。


「上手く話せるかわからないんですが、お話しします」



 緊張した声色で、彼女は自分が体験したことを話し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る