第5話 世直し系ダークヒーローになろう

 これは持論だが、ダークヒーローと悪役ヴィランを分つ最大にして決定的な違いは利己的か利他的かの差だ。


 ダークヒーローの中には悪役とさして変わらないキャラもいるし、なんなら世間から見たら悪だ。


 それでも両者を分つ物があるとすれば、それは行為の理由や結果が、利己的か利他的かに繋がるかどうかの差だろう。


 たとえ悪党でも結果として善行につながるなら憎めない悪としてのダークヒーローになる。

 たとえ善人でも結果として笑えない悪行を成すなら悪役となる。


 逆に表面的には善人でも根底に悪意が滲み出ていればそれは悪役だ。

 そして偽悪的に振る舞っていても善意で動くなら正しくダークヒーローだ。


 理由か結果が利己的なら悪役。

 理由か結果が利他的ならダークヒーロー。


 これこそが俺の提唱する悪役とダークヒーローの曖昧な垣根を分つ確固とした柵であり、常に意識しているセーフラインでもある。

 因みに優先度合いとしては結果>理由だ。


 ぶっちゃけ俺は善人ではない。

 ダークヒーローになるために悪人を倒せればそれでいい。

 その過程で他者に危害が及んでも大して気にはしない。

 だがダークヒーローと悪役の垣根は曖昧だ。


 よって俺は利他的になること、つまり人助けを基本理念としてダークヒーロー活動を行っている。


 とりあえず悪で以って悪を制し、善を助ける。

 それが俺のダークヒーローとしての方針だった。

 

「……さて、準備は整った」


 だがこれからは違う。

 護堂ヒイロとの出会いによって、俺は大義を得た。


 正直彼の言う通りの差別が実在するとは思わない。


 そりゃあ国家規模の闇の計画によるものだとしたら実に俺好みで素敵だが、現実は良くも悪くもいい加減なのだ。


 大方高ランクのスキル使いが戦力として重視されていた頃の法律や風潮が未だに尾を引いている、辺りが妥当なところだろう。


 けれど細かいことはどうでもよかった。


 スキルのランクによって差別される腐った社会を変える……というのは大袈裟だが、☆0狩りという明らかな悪を見つけた。


 能力で調子に乗った不良に誅を下す。

 そう、世直し系ダークヒーローとしての道を見つけたのだ。


「名付けて☆0狩り狩り……!スキルを悪用する連中なら潰しても誰も文句は言わないだろ」


 倒すべき悪がいない。

 属すべき組織が見つからない。

 そもそも為すべき正義が定まらないと、昔の俺は言った。


 ならば今はどうか?


 倒すべき悪が見つかった。

 属すべき組織は自ら作ればいい。

 為すべき正義は、他の誰かから借りればいい。


 悪の敵ダークヒーローに対する正義の味方ヒーロー

 魔王に対する勇者。

 護堂ヒイロのお陰で、漸く俺の夢は完成へと一歩踏み出したのだ。


「コードネームは色々考えたが……やはりこれがいいか。悪魔の王とはカッコいいにも程がある」


 ここは異世界だ。

 なればこそ、魔王の称号を冠するこの悪魔の名前はコードネームにピッタリだった。


「組織の名前も最高にカッコいいのを考えた。衣装も王道のマントに仮面を取り寄せて準備は完璧。あとは派手に宣伝するだけ」


 ダークヒーローにはやはり組織が必要だ。

 既にある組織のエージェントになる道も捨て難いが、都合よくあるわけもない。こうなったら自ら作るしかない。

 

「では――参ろうか」


 最後に口調とキャラを変えて準備完了。

 適度に騒ぎを起こして周囲の目を惹きつけるべく、俺は街中へと繰り出したのだった。




「こちら第二エリアB-1地区より!例の『黒衣の男ブラッキー』が現れました!」

「至急☆5御門零の応援を求む!奴に対抗できるのは彼女しかいない!」

「クッ、なんて逃げ足の速さだ!」


 いつものようにそこら辺にいる暴漢こと☆0狩りと思しき連中をド派手にぶっ飛ばした俺は、現在警察とのランデブーに興じていた。


 今回は目につくように動いたのでパトカーの数も普段より多い。それに伴い一般人の野次馬も増えている。

 狙い通りだ。


 地球都市はいくつかのエリアで区画整理がされている。

 俺が最初に転移してきた第一エリアは異世界人を招くために中世ファンタジー風な作りをした建造物が多かったが、この第二エリアは現代的な街並みが再現されている。


 中でもこのエリアは商業施設などが集中している区画だ。

 そのため地球都市で一番人口密度が高く、人目を集めるにはうってつけの場所だった。


 そのまま大通りの交差点近くにある商業施設の時計の上に立つと、眼下の民衆を睥睨する。


「とうとう追い詰めたぞ!犯罪者め!」

「今度こそお縄につけてやる!」

「貴方を捕まえてセンパイに褒めてもらうんだから!」


 誘い込まれたとも知らずに意気揚々と吠え立てる警察の愉快さに嘲りを隠しきれず、口元が歪んでしまう。


 ふと耳に意識をやると、パトカーのサイレン音が次々に聞こえてきた。警察がここへ集まりつつあるのだ。


「なにあれ?」

「最近ネットで噂されてるアレじゃね?犯罪者狩りだっけ」

「ああ、悪いヤツを懲らしめてるって話題の!」


 一般人モブたちも規制が追いついていないのか、呑気な顔してスマホで俺を撮影している。


 頃合いだろう。

 時は満ちた。予め用意しておいたスポットライトで自分を照らし出す。

 そして今、唄いだす。


「我が名はベルゼブブ!魔王ベルゼブブだ!貴様ら愚鈍な警察が『黒衣の男ブラッキー』と呼称し追跡していた咎人にして、これより大いなる正義を為す者!!」


 魔力によって振動を強化した声で街中に言葉を響かせる。


 それだけではない。

 指を鳴らし、この日の為にハッキングで仕込んでおいた映像を大型ビジョンで流す。


「☆0への差別!それを見逃す権力の腐敗!それを是とする国民の堕落!ああ気に食わん!そのような国、魔王たる我が統治する価値もない!」


 人々は突然始まった演説にすわ何事かと足を止め、傾聴する。


 それはただの面白半分、興味半分でしかないのだろう。

 きっと明日や明後日ワイドショーを賑わせたとしても、一週間後にはすっかり忘れ去られてしまっている。

 その程度の関心しか持たないのだろう。


「――なればこそ、我が手ずから破壊しよう」


 だからこそ、高らかに宣言しよう。


「この腐敗し、堕落し、落魄おちぶれた国を我が正そう!我が裁こう!我が導こう!真に正しき善なる社会を、悪によって成し遂げよう!☆0を狩る者たちよ、貴様らは狩られる側の恐怖を思い知る時が来たのだ!」


 今日この時のためにこしらえた漆黒の外套マントを翻す。

 新調した革のブーツをカツンと鳴らす。

 まだ見ぬ敵を指し示すように前方へ手を伸ばす。

 黄金に染まる瞳 (カラーコンタクト)で睨みを利かす。

 この国を支配する王に対する宣戦布告を今、言い放つ。


「『善の正しさは悪によってのみ証明されるNO DARK NO LIGHT』――力と正義を持て余す者達よ、電子の海の深層にて汝らを待つ!!叛逆の旗を振らんとする者達よ、今こそ我が膝下へ集うがいい!!!!」

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