ガラスの天才に転生した俺は、病魔を治して無双する ~元の身体の持ち主が愛犬になってしまったが、天賦の才であらゆる理不尽を凌駕する~
純クロン
第1話 転生
『プロ野球の美心川選手が引退を発表。ガラスの天才の悲劇』
そんなスマホのニュース通知を見て眉をしかめながら、俺は自宅でゲームをプレイしていた。
「はぁ……羨ましい」
――ガラスの天才。
それはガラス細工の天才職人……ではなく、ガラスのような繊細な身体を持った優れた人物のことをさす。
主にスポーツ選手に使う言葉で、人並み外れた才能を持ちながら怪我などで全力が出せない者への名称だ。
もしこの天才が存分に力を振るえたら……そんなロマンを込めてのあだ名。
俺からすればすさまじく羨ましいものだった。
天才、成功者。誰もが羨む言葉だ。そして自分は人より優れていると思ったことも、大抵の人間はあるだろう。
俺だってそうだ。昔はもっと自分が優秀だと思っていた。他人よりもきっと優れていると勘違いしていたんだ。
そのメッキがはがれたのは中学生の時だ。俺はテニス部に所属していたが一番下手で、勉強も学年最初のテストはほぼ最下位だった。
流石にこのままではマズいと必死になって勉強した。おそらく勉強時間は学年でもトップクラスだっただろう。
それでも学年の真ん中より下程度だった。部活も朝練居残りと必死に頑張ったが、結局一番下手なのは最後まで変わらなかった。
それは高校生になっても同様だ。俺は毎日テニスの朝練をこなしつつ、勉強もしっかりやっているがあまり成績はよくない。
辛い。自分が本当は、無能に位置する側の人間だったことに。
だが嘆いてもなにも解決はしないのは、中学生の時点で痛感していた。曲りなりにも勉強は頑張ったら一応は盛り返せはしたのだ。
なので必死に頑張って、頑張ったが……。
友人たちの会話が聞こえてきてしまったのだ。
「神崎って無能だよなぁ」
「それな。あいつ、運動もまったく出来ないのにテストも俺以下の成績じゃん」
「優斗なんて毎日野球部で遅くまで練習して、その上で学年上位の成績維持してるのにな」
「天才と無能を比べてやるなよ。神崎が可哀そうだろ」
「あいつ、テニス部でも新しく入ってきた後輩より下手らしいぜ」
思い出したら泣けてきた。特に優斗ってのが、うちの学校のガラスの天才なことが余計に響く。
一年の時から野球部のエースで四番、学年の成績もトップクラス。今は怪我しているらしいが、次の夏には優斗がいれば甲子園も狙えるとか。
俺だってかなり頑張っているのに、なんでここまで差が出るんだよ。こんなのもう才能の差でしかないだろ……。
思い出すだけで辛くなる。ガラスの天才? 天才なんだからいいじゃないかよ!
俺は丈夫な粗大ゴミだぞ! 壊れなくてもゴミに使い道はないんだよ!
毎日真面目に勉強してても、結果が出せないんじゃどうしろってんだよ!
「はぁ……くそっ。なんで俺は天才じゃないんだよ……あー学校滅ばねぇかな」
ちょうどプレイしているゲームのストーリーが佳境になった。
いまやっているのはファンタジーRPG、『救世の勇者と破滅の魔王』。
このゲームにおけるガラスの天才のキャラ、テスラ・ベルアインが病気で死亡するところだ。
このテスラというキャラは、あり得ないほどの才能を持っていた。
剣を練習すればすぐに師匠を超えて上級者の域に辿り着き、魔法を学べば大賢者が後継者に指名するほど。他にも大抵のことは完璧にこなす超人だ。
ゲーム内の全スキルを覚えることができて、ステータスも最強。
唯一の欠点は病気持ちで好きに動けないこと。
このゲームはターン制バトルだが、テスラは一ステージにつき三ターンしか使えない縛りがある。
だがそれでもなおチートで、なにせこいつはHP以外の全ステータスがラスボスより高いのだ。
このゲームの最速クリアを目指す場合、テスラの使いどころが腕の見せどころとまで言われているくらいに。
だがテスラは病気が悪化して、ストーリーの途中に十九歳の若さで死んでしまう。さらに話を進めていくと、彼が死んでから少しあとに治療法が確立された。
まあバランス調整というか「もうテスラだけでよくね?」となるのを避けるためだろう。扱いに困ったのもありそうだ。
そんなこいつだがプレイヤーからすごく人気が出た。人気投票で主人公にトリプルスコアをつけての一位だ。
正直そこまで行くと主人公に魅力がないのではとも思うが、そのためかテスラ主人公の続編発売の発表もされている。
俺は続編どころか、まだこのゲームをまだクリアしていない。だがその噂をSNSで聞いた時に「死んでいるのに続編?」と気になって、続編をネタバレ覚悟で調べたことがある。
確か天才魔法使いが死ぬ直前のテスラの魂を過去に送っていたとか、そんな後付け設定だった気がする。
明らかに無理やりであるが、どうしてもテスラ主人公の続編を出したかったのだろう。後付けするのはよくあることだし。
『ああなんという……彼ほどの才を失ったのは世界の損失だ……』
『なんでよりにもよって彼が病に……他の者がなっていればと思いたくなるよ……』
ゲームは進んで「治療法が間に合っていれば」と、テスラの死を知り合いなどが惜しむ展開だ。
「はぁ……惜しまれるだけいいじゃん。いいよな、天才は……」
テスラと俺は真逆だ。
新しく入ってきた後輩より下手な俺と、後で学んで師匠を飛び越えて行くテスラ。
見ていてもう腹が立ってくる。俺がテニス部を辞めたとしても、誰も惜しみはしないだろう。
天才は人生の勝ち組で無能は負け組。そんな現実をゲームですら見せつけられる不快感。
よく天才だって努力していると言う奴もいるが、無能はサボってるとでも思ってるのかよ。
こんなゲームもうやってられるかよ。
「ああくそ……俺も天才に生まれたら勝ち組になれたのに……ん、あれ」
怒りのままにゲームの電源を切ろうと手を伸ばすが、フラリと身体のバランスが崩れて地面に倒れて行く。
その着地点には、ゲーム機があって……。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
目を覚ますとそこは知らない部屋だった。
俺はベッドに寝ているようで身体を起こ……せない。何故か首もあまりうまく回らず、困惑しながら頑張って周囲を見る。
全体的に洋風の作りの部屋で、アンティークな木の家具がところどころにあった。
昔に観光で見たことのある、中世ヨーロッパの屋敷の部屋に似てる気がする。
「ワン! ワン!」
しかもベッドの足もとでは少し大型な犬が吠えていた。こいつも見たことがない。
……なんで俺はこんなところで寝ているんだ? そんなことを考えていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「ミーナですよー、入りますねー」
「あ、はい」
し、しまった!? 思わず返事してしまった!?
すると扉が開いて、メイドのような服装の女性が入ってきた。
「テスラ坊ちゃまー、今日の体調はどうですかー? 」
ミーナと名乗った少女はそんなことを告げながら、俺の側へと寄って来る。
「テスラ坊ちゃま、今日も元気そうでなによりですー」
俺はメイドに微笑みかけられながら、頭を撫でられていた。正直可愛い少女なので少し照れる。
テスラ坊ちゃまって誰? と思ったが、彼女は俺の方をジッと見ていた。それにこの部屋はそもそも二人しかいない。
……もしかして、俺のことをテスラ坊ちゃまと言ってる?
「なにを言ってるんだ? 俺はそんな名前じゃ……」
「なにを言ってるんですか? 寝ぼけてるんですか?」
ミーナは冗談かなにかと聞き流し、手元にあった本を開き始めた。
よく聞けば自分の声も変わっている気がする。普段よりもだいぶ高くなっている……。
部屋に大きな鏡があるのを見つけたので、俺は跳び起きて鏡の前へと立った。
「なっ……!?」
俺は鏡に映った姿に絶句した。
雪のように白い髪や肌、目は虹色に輝いている。しかも身体もかなり小さく幼い……俺はこの姿に見覚えがある。
ゲームでのテスラ・ベルアインが、このような特徴を持っていた。
確かゲーム内でのテスラは十九歳だったが、今の俺はたぶん五歳くらいだ。
だがそれ以外はテスラとしか思えない特徴を揃えていた。特に七色に輝く目なんてあり得ない。
「テスラ坊ちゃま、朝食のお時間なのでそろそろー。それにしてもバーナードはどうしたのー? いつも大人しいのに今日は吠えてー」
ミーナがやはり俺のことをテスラと呼んだあと、近くにいた犬にじゃれ始める。
よくよく部屋を確認すれば旗が飾ってある。そこに描かれた背中に翼を生やした馬の紋章にも、俺は見覚えがある。
『救世の魔王と破滅の勇者』における人気キャラ、テスラ・ベルアインのマントについていた紋章と同じなのだ……。
……え? これどうなってるんだ? 夢か?
-----------------------------------------
ガラスの天才の対義語は鉄クズですかね。
あるいは無事な駄馬。無事これ名馬とも言いますが。
故障しなかったサイレンススズカを見てみたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます