ネタにされなきゃ、普通に強い
毎度の如く前世のエロ知識のせいで色々と台無しにしてしまうカイザー。
そういう設定がある方も問題はあるがなっ。
「これがっ、族長の本気かっ!?」
「………父、匂いも強くなってる。」
己の父の本当の力におののくジャガー。途中から完全に崩れてしまったキャラも父への対応も変えるつもりのないリナ。
それほどにまで、凄まじいというべきだろうか。
エロゲのネタに使われていたのが嘘のようにその実力は本物に見える。
名前 ジュゴン 種族:銀虎族Lv76
【スキル】獣化、本能、爪牙術
【体質】野性味のある筋肉、発情期多め
いや、ネタだったわ。
「別にあんたと争う理由はないです。」
「私にはある。」
リナから話は聞いていた。優しい人だと。
この世界を変えるかも知れない運命の人だと、恋を知った生娘のようにはしゃぐ愛娘。
ならば、私はその男の本質を知らなければならない。
そんな想いが1に、リナをたぶらかしたクソガキに対する怒りが9のジュゴンだった。
対してカイザーは、なんともいえない時間が頭の中で流れていた。
エロゲの世界の常識と今目の前の現実のギャップの差をより深く感じていた。
普段何気なく見ていた光景やCGにはもっと深いストーリーがあったことに感動していた。
怒りに震えるジュゴン。
自分がプレイしていたゲームの奥深さに感動するカイザー。
お互い考えていることは違えども、真剣な雰囲気をしている故に、周りから見れば一触即発の雰囲気には違いない。
どちらが先に動いてもただではすまない。周りの銀虎族はなるべく邪魔にならないように離れている。円形になるような人だかりが二人を囲んだ。
「先手は貰おう。」
ジュゴンは感情は怒りで満ちていながらも、頭の中は冷静になっていた。
すでに負けていたから。
昨夜の記憶は確と残っている。自分の中の本能が暴れ出したことも、人に見せられないような状態になったことも。しかし確実な敗北は肉体に刻まれていた。
我が部族をこともなく一蹴したその実力を決して侮ってはいなかった。
万全にカイザーの隙を突くように背後から飛びついたジュゴン。
対して未だ感傷に浸っているカイザー。
絶対強者であろうとも一度の油断が勝敗を分ける。ジュゴンはそれを知っていた。しかし同時に知らなかった。
ジュゴンは世界でも数えられる中に居るほどには、限られた強者の中の一人。
故にそんなジュゴンが弱者として戦法をとれば、安全だと、プライドをなげうってまでこの一瞬の勝負に賭けたのだから、大丈夫だと、
油断をしていたのはジュゴンだった。
手の巨大な爪がカイザーに刺さる直前、本能が警鐘を鳴らした。
今まで生きていた中で最大級のもの。
確実にとったと思われる攻撃。振り向いてもいないカイザー。
自分の五感は勝利を確信している。
だが、自分の第六感は死を予感している。その認識の違いがジュゴン自身の隙になってしまったのだ。
瞬時で自分の愚かさを知った。その一瞬の空白後、赤い衝撃が走った。
最初の動き出しには気付いていた。
例え思考が他の部分に回されていても、体が瞬時に気付くように鍛え上げたのだ。分からないはずがない。
自分に迫るジュゴンの鋭い爪を左の掌で粉砕し、そのまま右ストレートを放った。ただ、それだけ。
この規格外の鬼に直撃するまでの時間は十二分に遅すぎるものだったのだ。
「もう、終わりですかね。」
返事を期待して話しかけるも、起き上がる様子もない。
手加減はした、それでも元々の力が薄れるわけではない。
その証拠に巨体ごと吹き飛ばされて、森の木に衝突したジュゴンは気を失っているようだった。
亜人の象徴をも一撃で仕留めたその力を周りの者は恐れるように見ていた。
「陛下っ、大丈夫?」
「うん、俺よりお父さんの心配をしてあげて?」
ぶっ飛んだジュゴンよりも真っ先に自分に近づいてくるリナ。複雑な表情で注意しながらリナを撫でるカイザー。無言で受け入れるリナ。
周りからはどこか仲睦まじい関係のように見えた。
族長を倒した実力を恐れる者も多かったが、リナへの対応を見るに優しい性格をしているのも分かった。
「ワハハハハハハッ。」
「ど、どうした族長?遂に歳で頭までおかしくなったか?」
「ハッ倒すぞ、ジャガーっ!」
ジャガーの老害発言にブチ切れるジュゴン。元々家族にはこんな感じなのだろう。先ほどの丁寧な言葉遣いとは別の荒々しい雰囲気を感じる。
しかも獣の姿のまま、話しているので余計に怖い。
「あ、あのー、体の方は?結構強めに叩きましたけど。」
「ん?ああ、今の状態だと特にタフネスが上がるので、なんとかなりましたよ。それでも気を失うとは陛下も凄まじいですな。」
先ほどのリナのことでブチ切れていたおじさんとは別人に見える。
「確かにリナのことに対しては怒り狂っていますが…。」
「あっ、そうなんですね。」
「それでも凄まじい雄を連れてきたのだと褒めてやりたい部分もある。」
亜人にも強さを尊ぶような習性があり、強い血筋を残すために同じ種族同士を番にして子孫を繁栄させた方が強い血は残るだろう。
それに周りは悪の所業で満たされている。
急激に増えている魔王に、いくつかの場所で感じられる強力な力。
その一つがこの少年だろう。
ジュゴンにだけ分かったことがある。古代から存在する種族の頂点として、その才能を分け隔て無く伸ばし、体を鍛え上げて、強くなったと思っていた。
だからだろう、亜人という中で頂点に立つほどの奥義も修得したジュゴンだからこそ、分かったのだ。
丁寧に倒された。
慢心をされていたわけでもない。相手を見くびっていたわけでもない。
ただ壊れないように、いや壊さないように、私を攻撃した。
とてつもない屈辱を感じた。とてつもない壁を理解した。しかしその力の奥に感じる矛盾を感じ取った。
その事実を知ったジュゴンは何も言わなかった。
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