トラウマが出来た熱いnight


 辺り一帯水浸しになった崖の地帯。


 いや、言い換えよう。


 周り全てが何やらピンク色の怪しい雰囲気漂う場所になってしまった。カイザー命名ピンク崖。




 野生のモンスターがたむろする険しい環境を保つ地帯が、とてもイヤらしい雰囲気になってしまった。媚薬スライムから飛び出た3000倍の体液がそこら中にばらまかれ、むせかえるような空気が籠もっている。




 なるべくそういう成分を摂取しないように意識して呼吸をする。いや、そもそも自分に毒とか媚薬とか効くのか?まあいいか。




「ジャガー、リナ、大丈夫そうか?」




 腰に抱えた二人に声を掛ける。俺が洪水になるリスクを考慮していなかったため、二人に被害が出るところだった。慌てて抱えたが大丈夫だっただろうか。




「は、はい♡大丈夫っ♡」




「へ、陛下、いや旦那♡俺はっ、はぁ♡大丈夫だぜ♡」




「ぎゃああああぁぁぁぁぁっ。」




 思わずジャガーのみぶん投げてしまった。




 こ、こ奴ら。発情してやがる。








 ここで説明しよう。


 亜人とは、人よりも発情期が多いちょっとスケベな生物である。それ故に感度3000倍のスライムが溶けた時の空気を吸ってしまうとなると、強制的に発情してしまうでしょう。お気を付けください。








 ぶん投げなかったリナを腰に抱えながら、投げてしまったジャガーが大丈夫か。確認。下は崖だが、彼は中々に頑丈なので大丈夫な、はずだ。




「はぁ♡主、良い匂い。雄雄してる♡はわぁぁぁ♡」




 なんだ雄雄って。なるべく冷静さを保てるように、頭の中で素数を数える。




 1,むにゅ♡、2、はぁ♡、3すんすん♡




 ダメだ、エロいことしか考えれない。先ほどから俺のお腹や胸に体をすり寄せるリナ。匂いを嗅ぐリナ。スタイルも良いので俺の中の理性は暴発寸前だ。








 そんな俺に救いの手が、




「むっふぅぅぅぅ♡そこの鬼族の少年いい筋肉をしているな♡惚れ惚れするほどに、な♡」




「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっおらぁっ!!」


「ぐふっ♡」




 来るわけもなく、また思わず殴ってしまった。いやっ、そりゃあ殴るよっ!!あんな筋肉ムキムキ全身の変態おっさんが来たらそりゃあ殴るよ!!


 しかも目に♡マークとか誰得じゃいっ!!失せろっ!!




 そんなアクシデントによってエロい気持ちが消え失せたカイザー。しかしそんな彼に第二、第三の魔の手が襲いかかる。




「坊や♡おじさんと相撲をしよう♡」


「俺の筋肉を見なさい♡そそるだろう♡」


「添えるのは腰だけ♡」




「あぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁあっ………。」




 子供の絶望に満ちた悲鳴がその一帯に響き渡ったとさ。




 終わらない♡








 汚いシーンが続くので、それまでエリスの視点でお楽しみください。








「ん?」


「どうされましたか、姫?」


「いえ、今確かに陛下の悲鳴のようなものが。」


「?何も聞こえませんぞ。」




 気のせいだったのでしょうか。




 今現在私たちは、魔王から取り返した城で現状の体制を立て直していた。主に逃げ出していた、あるいは減ってしまった兵をかき集め、城の修繕に回した。主に子供、女性が多く、動かせる兵は少ない。ただでさえ少なかった兵は内乱で減ってしまったのだった。




 また財政もランドが国の金庫から好き放題使っていたらしく、とても厳しい状況だった。




「あの穀潰しめ。国を悪くしかしておらん。」




 そんなガルドの言葉にその場に居た役人は何も答えられなかった。ランドに金の使い方を進言した役人は直ぐに処刑されてしまったらしい。あとの役人は首を縦に振り続けるイエスマン人形に成り下がってしまった。


 役人達は自分たちの失態からか、恥辱からか、顔を地面に向けたままだった。




「顔を上げてください。」




 エリスの声にゆっくりとしかし恐れながら顔を上げる役人達。視線に写ったのは姫が頭を下げる姿だった。




「私がランドに王位を譲ったばかりに申し訳ありませんでした。」


「や、やめてください。」




 そんな恐れ多い姿に役人達も、思わず声を上げてしまう。




「いいえ、やめません。皆さんが闘っている時に逃げてしまったのは私です。国が腐敗に満ちようとしている中でも、今まで国が最低限維持されているのはあなたたちが戦っていた何よりの証拠です。」




 王女の言葉に涙がこぼれたモノもいた。違うと言いたかった。私たちも逃げたのです。貴方の父を慕っていたにもかかわらず、暴力に屈してしまった。命惜しさに国の中で隠れていたのです。




「私に出来る事は、もう一度あなたたちが誇りを取り戻すことが出来る国を作ることです。わからないことも多い未熟な王女ですが、もう一度力を貸してください。」




 そう嘆願する王女に誰も何も言えなかった。


 王族だった。成人に満ちていなくとも、国の責任を負おうとするその姿はかつての王を幻視させた。








 一人、また一人とその場に膝を着き臣下の構えをとる役人。


 全員がその場に跪いた。




「私達からもお願いします。」


「もう一度誇りを取り戻すチャンスをくださりありがとうございます。」








 陛下、こちらはお任せください。


 あなたは貴方の為すべき事をしてください。












 そうエリスに願われるカイザーは追われていた。


 呼吸が追いつかない。いつもならこんなはずではないのに。


 極度の緊張感。怯えている体、慣れない事態は頑強な肉体を持っているカイザーをも鈍らせた。魔王の一角を殴りとばし、龍を手中に収める王は恐れていた。




 奴らを。




「大胸筋の味を知っているかね♡」


「君の筋肉は硬そうだ♡」


「じゅるるるるるっ♡」


「最後の奴はとりあえず気絶しろぉぉぉっっ!!!」




 舌なめずりしていた一際大きい個体を殴り飛ばしたカイザーはそのまま他の奴も流れで制圧する。


 殴ったり、気絶する度にはあっ♡とか、ぬぅんっ♡とか言うの本当にやめて欲しい。




 そう、彼はまだ戦っていた。




 襲いかかる銀虎の一族を相手にしながら、未だに媚薬の効果は切れていなかった。


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