媚薬スライムは客観的だとスケベなモンスターです。


 スライム討伐作戦。


 その具体案を話すために近場の洞窟に3人で入る。




「ピンク色のスライムの弱点は知ってるよ。」




 そんなカイザーの一言にジャガーが食いつく。




「弱点って、見る限り普通のスライムのようなものではない、ですよ。」




 それはそうだよ。


 媚薬スライムは言うなれば、「歩くローション」と考えてもらえれば良い。水であろうと、太陽の光で干からびるのを待っていたら、あの大きさでは相当掛かるだろう。それがローションであるならば尚更だ。


 まして、そんな生物が生命力が豊富である亜人、それもレアモノを吸収し続けているのだ。そう考えると途方もない年月で生息し続けるだろう。








 だけど、こんなストーリーあったようななかったような。


 あと少しで思い出せそう。








「なら、どうするんですか?」




 妹のリナさんは俺にすり寄りながら問いかける。




「溶かす。」


「「溶かす?」」


「ああ。いいか、作戦はこうだ。」








【リナSide】




 リナはカイザーの話した作戦の定位置についていた。




 ほとんどカイザーに忠誠を誓っている彼女が思わず呆然となるほどには馬鹿げた作戦だった。いや、作戦ですらない、真実なら私一人居れば解決するというわけだ。




 少し離れた木の上でカイザーと兄のジャガーが私を見守るように付いてきている。




 前方10mほどしたところにいるのはピンク色のスライム。私たちの家族が囚われているのも見える。最近色々なことがありすぎた。


 今までの思い出を振り返る。スライムに一族の皆が囚われたこと、兄と一緒に逃げ出したこと、魔王軍に潜入したこと、そして、カイザーに出逢ったこと。




 比率で言うなら、カイザーのペットのなった(なっていない)ことが99%の比率を占めている。だから無条件で、あの人のことは信用している。




 そうしてスライムを倒すためにリナは覚悟を決めた。








【???Side】


 スライムに近づいてくる銀虎族の少女。


 以前、私が造り上げた最強のスライムによって手に入れた貴重な被検体達の身内か何かだろう。その傍には同じ銀虎族の青年が一人、そして、




「ふふっ。」




 傑作だ。鬼族が一人。


 魔族の中でも怪力に優れた一族ではあるが、それでも普遍的な一族の一つ。銀虎族に劣るような種族だ。それが助っ人だと考えた女性はあざ笑った。




 今まで隠れ住んでいた人脈も殆ど無いような二人が見つけたのは一人の鬼族、更に言えば子供。まだ15にも満ちていないような少年を頼るとは。


 堕ちましたね。




 まあいい。貴重な被検体がわざわざ帰ってきたのだ。それを追い返す必要も無い。




 私が開発したスライムは変異種、いやより特異な個体だ。決してこの世に生まれることはなかったイレギュラー。私が生み出した最強のスライムはありとあらゆる物理を無視し、この世の奇跡として扱われる魔術の現象をも透過する。


 


 さらに一度捕まったならば、人としての許容限界を超えるような快楽が流し込まれる。それはありとあらゆる存在にとってまったく未知の存在。世界を獲ることも不可能ではない。




この生体兵器の名前は、




 シュウゥゥゥゥゥゥゥ。




「はい?」




 完璧なスライムが、私の開発した超越存在が目の前で溶けていた。
















 俺の教えた作戦を忠実に行おうとする銀虎兄妹。最初に疑いはしていたけども、リナの方はすぐに信じてくれて、ジャガーは渋々、本当に渋々。


 妹にそんなことやらせられるかーっと言っていた彼は未だにこちらを睨んでいる。尻尾がガクガクに震えているが、見なかったことにしてあげた。




 確かに馬鹿げた作戦ではあるが、俺の知識が正しいか。この世界は本当にゲームの世界なのかを確かめる一つの検証になる。




 遠くから誰かが見ているが気にせずに実行する。








 覚悟を決めたリナはスライムの前にいた。カイザーいわく、スライムは全身が五感を感じる器官であるから、すでにこちらを見ているらしい。液体が目の役割を果たしているとのこと。




 故に、




 チュッ♡




 投げキッスした。








 世界の時が止まった。そんな気がした。


 さりげなく前に回り、リナの投げキッスを見ていたカイザーとジャガー。それはもうウキウキである。何度も『可愛い』と呟く二人。正直キモい。




 すぐに変化は起きた。


 目の前のスライムが急に揺れ始めたのだ。




 小刻みに。




「今すぐ離れるぞっ!」




 傍に居たジャガー、そしてスライムを見上げるリナを直ぐに抱えてその場を離れる。


 忘れていた。




 約10m程のスライムが一斉に溶けた場合、その体中の液体が辺りに飛び散るのだ。




「キュウウウウウウウウウウウンッッ」




 スライムは気色悪い声、悲鳴?を上げながら沈んでいく。いや、丸い形を維持できなくなっていく。張りのあったボディは段々と溶け出すように周りに広がりながら、溶け出していく。








 ここで媚薬スライムの特徴を説明しよう。


 彼は自らがエロい存在であるという事実を知らぬままに生まれてしまった。故にエロという概念を知らないスライムだったのだ。交尾から生まれたわけでもない。そもそもスライムに交尾という概念は存在しない。




 綺麗な水と環境、そして魔力が混ざることで生まれてしまうのがスライムだ。




 それ故作られた彼は、エロという概念を知らずに育ってしまった。そうとてつもなくエロい存在であるはずなのに、彼は女を知らないピュアモンスターだったのだ




 そんな彼には物理、魔法に対しては無敵に近いが、唯一っ、








 エロスに対して耐性がない。








 そうしてエロを知らないスライムは地面に溶けていくのであった。


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