エロゲのヒロインに求められる物
「というわけで、帰ってきた。」
頭を抱え込むように抑える爺二人とこちらをやけに熱の籠もった眼で見つめる姫様。
ついでに未だ縛られているが、意識はある四天王ジャガーの妹。更に言えば、付いてきたジャガー、帰れよ。
「ガルド、お主の孫なのは理解していたが、その規格外差は計り知れんな。」
「放し飼いした幼犬がフェンリルになった気分じゃよ。」
「途方もないとはこのことですね。素晴らしいです。」
何故だろう、全く称えられていない感じ。姫様だけちょっと優しい。さすヒロ(さすがヒロイン)。
それは認識の違いだった。
カイザーにとっては、ストーリーに出てくる中ボスを倒した位の感覚。しかし、この世界の住人からすれば、国の一勢力を拳一つで殴り飛ばす圧倒的な力。それはもう大問題である。
何より、他の魔王達が黙っていないだろうし、この件はすぐに噂が広まるだろう。何よりも、何が目的で敵対したかも定かになる可能性が高い。その危険性はカイザーを除いて、その場の誰もが理解していた。
「カイザー、お主はこれからどうするつもりじゃ?」
「これからって、何を?」
「お主は魔王を倒した。素質も器もなくとも、持つ力は魔王と認められていたランドを、だ。お主は村に収まっていい器じゃない。」
ガルドの言葉にその場に居た者達は同意するように頷き、カイザーのみが首をかしげている。
「っていっても、どうしろと?」
カイザーは困った。爺さんが困るぐらいには今回の件は大事だったことは察したが、本来の予定ではこのまま深淵の森の住処を行き来したりしながら、有意義な毎日を過ごすつもりだった。戦士長というのは、ぶっちゃけ強ければなれるものだし獲物も自分で仕留めればいい。
カイザーは前世とは違うアウトドアな生活に適応していたし、快適に過ごしていた。
故に一生をここで過ごしても何の問題もないな、なんて考えていたが。
「な、ならば魔王になりませんか?」
唐突にいかつい男どもの話し合いの場に可憐な声が響く。魔王の娘エリスだ。輝くほど眩しい顔をこちらに向けているので、雑草(男)の中に一凛の花エリスが咲いているようだった。
エロゲのヒロインだった彼女で何回お世話になったか、前世の俺の恩人ともいえるだろう。そんな彼女だが、初めて会った時以来、ずっとこちらに意識を向けていた。
なんだかんだ彼女の叔父さんを倒したから少し恨まれていたりするのかと思ったが、敵意は含まれているように見えなかった。なのでひとまずその話を聞いてみる。
エリスも話を続ける。
「魔王ランドを倒したことで、あなたの名前は良くも悪くも広まりました。そのカイザー様がどこの勢力にも所属していないということは大きな問題になります。」
「大きな問題?」
「単独で魔王と対峙できる戦力はどの国、人間、亜人、魔族、どの勢力に対しても欲してやまないもの。それが根無し草の、それもまだ12歳の子供ならどんな手を使ってでも、手に入れる国は多いでしょう。」
そこまで言われれば俺でも分かる。強大な力を持っている子供を脅すなり、洗脳するなり、手段はいくらでもあるのだろう。人質を取られでもすれば、最悪な事態になる。
自分にそれがくるのは流石に鬱陶しい。
「今ならランドを一撃で倒したカイザー様なら、戦力的にも魔王だと民も認めますし、求心力なども王家に連なる私がいることで補えます。」
「ふーん。」
確かに良い案、なのだろうか?
でも魔王になることで厄介事も増えるメリットも出てくる。何よりこの世界を知っている俺にとって魔王とはエロい奴くらいしか予想できない。オーガの脳筋思考に染められた俺ではそぐわないのではとさえ思う。
そんな風に悩んでいる俺を見て、エリスは意を決するように言った。
「もしカイザー様が魔王になってくれるのであれば、私の身も心もすべてあなたに献上します。」
唐突に爆弾を持ちこんできた。
エリスの話をうなづきながら聞いていた爺さんもゾルディスさんもエリスの言葉に腰を抜かしたのか、目を見開き驚愕をあらわにしている。
更には、
「私にはある条件下で、魔力を無限に生み出す能力が備わっています。」
さらなるカミングアウト。
幸い部屋の中にはゾルディス、ガルド、俺、エリスさんしかいない。ゆえに話したのだろうが、俺は大丈夫なのか?
「私がそれを以て貴方にお仕えするので、その魔力をどのように使ってもらっても、私をどのように使っていただいてもかまいません。」
エリスは文字通り自分のすべてを賭けて、カイザーを王に据えようとしていた。彼女には後がない。おそらくランドのこと、そしてエリスのことは各々上位の魔王には知られていることだろう。
ならば、どうなるか。
争奪戦だ。
後ろ盾もなく、一人の勢力。まず間違いなく、ほとんどがそれに参加するだろう。
十二歳で魔王を半殺しにするポテンシャル、これからも成長していくであろう最強の魔王。ならば、今のうちに囲っておいた方がこれからの王家の為になる。そんな打算もあるのだろうことが窺えた。
(姫様。)
それを察して、彼女の特殊体質を恨むゾルディス。未だ成人にも満たない彼女に世界は理不尽にも襲いかかってくる。そんな世界に怒りを抱いた。
そんな適当な建前を話した姫の内心は、
(この人が、私の未来の旦那様!あんなに魔力を放出したのは生まれて初めて。)
発情していました。
(彼女はヒロインです。)
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