魔王?エロゲのモブだろ?




「まだ見つからねぇのかっ!?」








 玉座に響き渡る怒声。怒りを解放させる姿は当に暴君。


 それを聞いた玉座の間に居る部下達は、そんな魔王の顔を見ることが出来ず、うつむくしかない。派遣した四天王がいるにも関わらず、未だエリスは捕まっていなかった。




 新たに任命した四天王を派遣すればすぐに捕まると思えば、そんなこともない。普通人を探すのに時間が掛かるものだが、ランドは頭が悪かった。王の器ではなかった、時間が経つ度に気に入らないと部下を殺し続けている。




 己の持つ力を部下を殺すことに発揮する。とても愚かで見るに堪えない王だった。




 しかし誰も逆らわない。何故なら、


 


 強いから。




 強者に従うという昔ながらの魔族の掟に引っ張られるものも未だ多い世の中で、ランドという強者はクズでありながらも、魔族という種の本能に従っているに過ぎない。強者は何をしても許される。弱ければ奪われて、殺される。


 正真正銘、先代の魔王の血を受け継いだ実力者










「お前がランドか?」










 扉の爆散。


 玉座の間に居た者達は突然の事態に慌てふためく。襲撃だ、一応新たな魔王、ランドが就任して初めての襲撃だった。もちろん近くに居た兵や騎士達はすぐに臨戦態勢を整えた。しかし、意味をなさない。


 その次に破壊された扉の方から飛んできたのは、膨大なまでの殺気。物理的な圧のようなものが兵を退かせた。それ尻餅をついている者も居た。


 壊れた扉から入ってきたのは二人。




 一人はランドに命じられてエリスを捕まえに行った現四天王の一人、ジャガー様だった。外からの者であるにも関わらず、圧倒的な実力でランドに気に入られた猛者、のはずだがやけに覇気がない。


 


 そしてもう一人。それを見た瞬間、殺気の正体が分かった。この子供だ。


 見た目から成人もしていないだろう鬼族の少年が恐ろしいほどの圧を身に纏い、そこに立っていた。圧倒的強者がそこにいた。自分たちとランドに感じたような強者の掌の上に居るような感覚だった。




「おい、四天王。あいつがランドだよな?」


「はい、その通りっす。」




 少年に媚びるように答えるジャガー様。それだけで二人の力関係が理解できる。崩れていく扉。尻餅をつく兵士。たった一瞬でその場の空気を変えた。


 しかし、当然この方が黙っていない。




「おい、お前等は誰だ?」




 魔王ランドをよく見るものたちは理解した。ブチ切れ直前だ。城を壊したこともそうだが、自分を呼び捨てにする輩など許せるはずがない。暴力と傲慢を兼ね備えた魔王ランドが訪問者達に牙を向ける。




「ああ、俺は鬼族の戦士長カイザーだ。」




 鬼族の戦士長。


 その名は、子供が軽々しく名乗って良いものではない。古参の兵なら誰もが知っている。過去四天王を勤め上げた鬼族の戦士ガルド、彼の称号を只の子供が持っている。その言葉は自然とその場に居た者達の耳に透き通るように届いた。


 


 圧倒的な圧、それに加えて扉を破壊した力、どちらも規格外のモノだった。戦士長と言われても納得できるだけの強さがそこにはあった。




「それで?そのカイザー君が何のようだ?うちの部下まで来てるみたいだが?」




 ジロリとジャガーを睨むランド。しかしジャガーはどこ吹く風というように視線をこちらに向けようともしない。それにますます腹が立つランド。彼の理性の線は既にちぎれ掛かっていた。




「お前の所の部下が俺を襲撃した、だから仕返しに来たんだが?」




 当たり前のように語るカイザー。それにブチ切れるのはランド。お互いの間で途方もない圧がぶつかり合った。








「クソガキがっ!!粋がるんじゃねぇっ!!!」








 即座に玉座から飛び降り、カイザーに飛びかかったランド。そのままカイザーに向け拳を振り下ろす。成人男性の身の丈ほどの巨大なこぶしがカイザーと衝突する。


 その場にいる殆どのモノが予想した。少年が良くてミンチ、または赤いシミになるだろうと。しかしジャガーだけは違った。








(ランド、残念だ。あんたも俺と同じなんだよ。)








 ジャガーはランドを哀れに思った。ジャガーは既に敗れていた、故に身の程を理解できた。彼は思いのほか賢かった。








 次元が違うと理解できたのだから。








「がぁぁぁぁっ!?」


「ふーん、柔いな。」




 響くランドの悲鳴。兵士は何が起こっているのか理解できない。無傷なカイザーと、腕が折れているランド。殴りかかったモノと殴られたモノ、それぞれ反対で一方的な結果が起きていた。


 痛みに震えるランドはしかし、その場でそんな隙を晒してはいけなかった。




「おい。」




 小さく聞こえた声とともに衝撃。


 腹に爆発的な熱が湧くとともに、視界が瞬時に入れ替わった。








「うそ、だろ?」








 目の前にある光景。それは一般の兵士からは予想も付かないモノだった。仮にも魔王。実力も魔王と言っても過言はなかった。暴力で支配されても、一向に逆らうことも出来なかった。


 そんな恐怖の象徴が天井にめり込んでいる。頭から。足だけがぶら下がって。既に気絶しているのか、何の反応も起こさないのが怖かった。




「まあ、こんなもんか。」




 そんなランドに対して、期待外れとでも言うように呟く少年カイザー。




(魔王と言っても、せいぜい下級の魔王、いや中ボスくらいがせいぜいだろうな。)




 実は既にランドにあった瞬間にステータスを確認していた。




名前 ランド 種族:魔人族Lv54




【スキル】威圧、脅迫、暴君の素質


【体質】筋肉質




 ここはエロゲの世界だ。


 俺のように強さだけを求めてステータスを上げるものは殆どいないだろう。エロゲのスキルが生えない代わりに戦闘系のステータスの伸びは早い。


 そして、この魔王ランド。恐らくはモブキャラ。スキル欄と体質欄にエロゲにまつわるモノがない。なので、余り気にせずぶっ飛ばしたが良かったのだろう、多分。




 気配を探っても、もう気絶しているようなので帰るつもりだ。


 よほどの馬鹿じゃなければ、もうこちらには手を出してこないだろう。


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