冤罪というのは周りの視点で決まる
森の中から出ようとしていた。
しかし、
「やっぱり森の中に籠もってたから匂いとかあるかな?」
元現代人の俺としては、異世界になかなか対応できず、かつての現代を思い出すとどうしても気になってしまう。森から出る前に、近場にある川か、池を探すために森を彷徨っていた。
思えば森に入ってからレベルを上げることと、食事を取る以外のことをしていない。いつから俺は半野生人になってしまったのだろうか。
元の紳士的な(自称)オーガに戻るために水浴びをしたいが、もちろんそんなものは見つからない。水分も魔獣などから取っていたため、気にする必要も無かったがこんなことになるなら場所を把握しておけば良かったと後悔しつつも、足を進める。
【???Side】
二体の魔人がオーガの村に向かっていた。
ばれるはずがない、ゾルディスは確かに追っ手をまく際に、己の得意とする幻惑の魔法を辺りにばらまいた。確かにごまかすことは出来たが、それは雑兵のみ。
魔王軍にいなかったはずの四天王はそれに気付いた。
新たに魔王を襲名したランドが連れてきた二人はすぐに四天王に就任した。もちろん、一悶着あったがすぐに納得もした。
ただ、強かった。
魔族にとって、強さはほとんどにおいて優先される基準。特にランドが魔王になったことで其の風潮がより強くなっていた。
「それにしても、うちの馬鹿殿はどうにかならねぇのか?雑用も政治も全部部下に任せている割には、少しのミスで殺されてるんだが。」
「………馬鹿だから仕方ない。」
「あのでかい頭には何も詰まってねぇんだろうな。」
一人は比較的一般より背の高い男性。しかしその肉体から見られる歴戦の痕、そして迸る魔力の大きさからただ者でないことは予想できる。
もう片方、男の声に言葉少なに返事を返す、体をローブで覆った人物。
顔は中性的であり、絶世の美男子にも見えるし、美しい美女にも見える。声は高いがどこか凜々しさも感じるので、なんとも言えない。ローブで体型を隠していることからもより謎が深まる。
「まあどうせ後で鞍替えすればいいだけの話だけどな。」
「………イエス。」
なんであんな小物に俺たちが付き合わなければならないのか。
強者とされる魔王を軽蔑しながら、二人は歩く。
「森を突っ切って行く方が早くないか?」
「………悩む。」
目の前にある森、深淵の森。ここら一体に住む者なら誰でも知っている森、危険な魔獣が縄張りを維持しているので中々近づくことが出来ないとされる。
しかし、
「まあ、急いで突っ切れば奥のにも気付かれないだろう。」
「………囲まれたら、面倒。」
二人には関係なし。森の中で自分たちと渡り合えるものは限られている。それに突っ切るだけならスピードで押し切れる問題だ。深淵の森の主の怒りを買うようなことをしなければ問題は無い。
「………?兄さん、気配。」
「ん?魔獣じゃないのか?」
「人。」
自分よりも索敵能力に関しては優れている妹が言うなら間違いないが、それが何者かという問題が出てくる。深淵の森、低位の魔人ならば逆に獲物として扱われる危険区域に指定されている。
少なくともそこから生還できるだけの実力があるのは確かだ。敵か味方は分からないが。
万が一に備えて、身構えだけはしておく。
「やっと出れた~。」
森の中から出てきたのは、一人の少年だった。
見た目からして鬼族。通称オーガ。ガタイは一般的なオーガと変わらない程度の大きさ。………危険視するほどではないか。
相手もこちらに気付いたのか、声を掛けようとした。
「おい坊主。そこを動くな。」
「ん?」
俺の声に反応して、とりあえず足を止める子供。鬼族からの偵察という可能性を捨てきれない。
「何で森の中にいた?」
「何で?って修行?」
「深淵の森の中でか?」
「うん、族長からも許可は取ってたし。」
嘘を言ってる様子はない。族長というと、おそらく。
「鬼族の長、ガルドのことか?お前血縁者か何か?」
「ガルドさんは、俺の師匠だね。」
「なるほど………。」
恵まれた人材という訳か。鬼族の中でもたまに強い奴は生まれてくる、そこでガルドに師事している期待の小僧と言ったところか。
「わかった。すまんな、いきなり不躾に。こちらも森の中から出てきた奴を警戒していたんだ。」
「こっちは別に大丈夫だけど。こっちからも質問いい?」
「あー、答えられることならな。」
「自分の村に戻りたいんだけど、今ここがどこか分かる?」
(厄介なことになったな。)
別に教えてもいい内容だが、一応武力行使をする可能性もある村の奴に正直に道を教えるべきか。早めに仕事を終わらせたいこちらとしては、厄介な位の実力者が居ると面倒くさくなる。
只でさえ、元四天王のガルドとゾルディアに対応しなければならないので、その上で+1となりうる戦力が加わる可能性は潰しておきたい。
妹に視線で合図する。こちらから先に仕掛けようと、無言の意思疎通で切り出そうとする。それに対して返ってきた答えは、予想を反するものだった。
(ダメ。)
否定。
あまりに鬼気迫った顔で首を横に振るので、思わず漏れ出ていた殺気が霧散する。この経験は何度かある。妹のセンサーに引掛かった相手だという証拠。
何かを測る、索敵能力や相手の解析において妹の右に出る者はいない。俺はそのことを身を以て知っている。確かにある、その感覚に何度も命を救われている。相手との実力差をきちんと見分けている。
目の前の少年に手を出すのは不味い。
そう妹が判断した。
「いや、すまんな。自分たちも今どこにいるかっていうのが分からないんだわ。」
「あぁ、そうなんですか。分かりました、自分で探してみます。」
「ちょっと待って。」
そのまま別れようとしたら、女性の方が声を掛けてきた。中性的な美人さんだった。
「はい、なんでしょう?」
「………匂いを嗅いでも良い?」
空気が凍った。
いや、別段こちらは気にしていないが、男性の方がそういうリアクションをしている。何言ってんだコイツ、みたいな。
「何を言っているんだ、お前。」
あっ、言うんだ。
「別に変な意図はない。嗅いでみたいから、嗅がせてといっただけ。」
「いや。ちょっと臭いと思うんで。」
「そういうスキルだから気にしないで。」
「おいぃっ!?」
美人さんからもカミングアウトが。
スキルだったらいいのだろうか?
そんなことを疑問に思うも美人さんは俺に抱きついてきた。
そして俺の首元に顔ごと近づけてきて、深呼吸するように大きく息を吸った。
「あぁぁっ♡」
その後、とろけるような甘い声を出して地面に崩れ落ちた。
様子を見ると、どうやら気絶しているみたいだ。
「すいません。お連れの方、倒れたみたいですがどうしま」
「てめぇっ!?俺の妹に何しやがった!?」
「えっ!?そうなります!?」
その後VSお兄さんとの戦いが始まったわけだった。
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