第195話 海辺の村にて

 数日間強い風に見舞われはしたが、魔物に襲われる事はなく、船旅は終わった。


 船を降りたら海岸が何やら騒がしい。

 老若男女の人だかりができて、わいわいやってるのが見えた。



「あれは何かしら?」

「急ぐ旅でもないからちょいと見てみるか」


 俺はそう言って皆を誘い、人の多く集まる浜辺に向かった。



 近くに行くと村人達は流れついていた大量の貝を拾っていたのが分かった。



「見てのとおり、美味い貝が沢山取り放題だ! 春あたりにたまに有る事なんだが、今がチャンスだぞ! ざるとか道具を使わず、手で取る分には許可が出てる!」

「数日前、風が強かったせいか大量の貝が流れ着いたのさ、今夜は貝パーティだ!」

 

 なるほどな、漁村の村人達はこれで盛り上がっていた訳だ。



「へー、ホッキ貝に似てるな」

「だとすると炭で焼いて、バター醤油がいいやもしれませぬ」

「そうだな、せっかくのただ食材だし、袋ひとつ分くらいはもらっていくか」


「えー、貝〜? 私はパス」

「じゃあミレナは子供たちの様子を見ててくれよ」

「しょーがないわね」



 見ればもう犬耳の子供たちは貝を拾い始めていた。速い!


「あ、もう、早速! あんまり海に近づき過ぎないで!」

「見つけて拾うのが楽しいんだろう、ほら、この袋の中に入れな」

「「はい!」」



 俺は水がきれる網目のある袋を渡した。

 子どもたちも楽しそうに砂浜で貝を拾い集めている。



「わあっ! 波が!」

「ほら、服が下着まで濡れるわよ! 欲張って深みに行かないの!」



 子供の腕を掴んで引き戻すミレナ。

 子どもの面倒見てるとママっぽいな。


 ややしてミレナ以外の皆は袋いっぱいの貝が採れてご満悦だった。


「もー、子供達の服がびしょびしょになってるじゃないの」

「まあ、それは着替えればいいよ」


 俺がそう言うと、


「ほら早く水で流して、真水の方よ! ほっとくと肌が荒れるから!」


 ミレナがまたママっぽくなってた。


「しからば拙者が!」『スキル、ウォーターショット!』


 ビシャーッ!!


「キャハハハハハ!」


 猿助さんが魔法の水で子供たちの肌を濡らした塩水を流してやってるのだが、子供たちにはかなりウケていたので彼も満足げ。



「早く宿に行ってこの子達を温かいお風呂に入れたいんだけど、風邪をひく前に」

「例の天然温泉まではまだ距離があるみたいだから仕方ないな」


 俺は貝の砂出し用の海水をペットボトルに入れてから、近くの宿に向かった。



 * * *



「ちょうど泊まれるとこがあってよかったわ」

「そうだねミレナさん。あ、翔太、貝の砂出しはどうする?」

「宿の人に台所を借りれるか訊いてみよう」



 そして無事に台所を借りれたので、海水につけ、砂出しして翌日に食べることにした。



 女子と男子に別れて部屋を取り、泊まった。

 温かい風呂にも入った。


 夕食は宿が出してくれた魚料理を美味しく食べた。

 貝は自分等で獲ってきたと言うと、サバの塩焼きや、海藻サラダなどを出してくれたのだが、美味しかった。


 * * *


 そして翌朝。

 一晩海水に漬けておいた貝の殻をむいたときに、砂を多く含む内臓(ウロ)を取り除き、丁寧に水洗いし、バター醤油焼きとお味噌汁を作ることにした。



「見た目はキレイだ、部分的にピンクが入ってる」


 宿の庭先を借り、土鍋で米を炊きつつ、味噌汁も作り、貝を網の上で焼いていく。

 そしていいタイミングで醤油とバターを投入!


「わあ、香ばしい美味しそうな香りが……あ、土鍋ご飯も炊けたし、ご飯もよそうね」


 ご飯くらい自分でつげるんだが、何故か皆に甲斐甲斐しくご飯をよそってくれるカナタ。


「ありがとうカナタ。ところでご飯にワカメ混ぜてもいいかな?」

「いいよ~、美味しいよね、ワカメご飯て」



 さて、炊きたてご飯に混ぜるだけのワカメを投入してご飯は完成。

 そしてバター醤油の匂いに食欲を掻き立てられたとこで、いざ実食!



「この貝、味もジューシーで美味いでござるよ!」

「身が柔らかくて美味いな」


 長生きエルフのジェラルドも納得のお味。


「貝から出る濃厚な出汁のおかげで味噌汁も美味いぞ、ミレナもこれなら食えるだろ」

「そうね! …………まあまあね!」

「スピカちゃんとステラちゃん、二人とも、美味しいでござるか?」

「「うん!」」


 なお、ドールの二人にはプリンをあげて、美味しそうに食べてるし、ラッキーにはお肉をあげた。


 朝からご馳走さまでした!












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