第184話 再びの精霊祭

 春の花の咲く花畑に到着した。

 黄色やピンクの愛らしい花達が咲き誇っている。


 せっかくなのでカナタにもゴスロリ系からかわいい村娘の服を着てもらい、撮影することにした。

 今のミレナの服と合わせたかったのだ。


「ミレナかカナタ、どっちか花冠とか作れるか?」

「作れるけど」


 俺の問いにすかさず答えたのはミレナだった。


「そういやミレナは竹で小屋が作れるくらい器用だったな! じゃあ花冠を作って二人で被ってみてくれ」

「作ってるうちからカメラはまわすでござる」

「確かにそれはとてもいい案だ、流石猿助さん」


 花冠を作る女の子、絵になる!


「ついでに花冠を作ったらミレナ氏はそれをカナタ殿の頭に飾り、その後、もう一つ作ったらそれをカナタ氏がミレナ氏の頭に飾ると完璧でごさるよ」


 まるで百合営業みたいだけど確かに!!



「パーフェクトだ。編集で花冠をカナタが作ってるように見せれば!」

「ぼくもミレナさんが作るの見ながら作ってみるから、多分大丈夫だよ」


「なるほど、頑張れ」

「これそんな難しくもないわよ〜」


 そしてお互いの頭に花冠を被せる二人の美しく尊い映像が撮れた!



 撮影してから花畑から離れ、村の祭りの会場付近まで来た。


 結構な数の出店が並び始めてる。

 ほとんどがまだ準備中ではあったが。


「あ、精霊祭に合わせて魔道具屋も来てるわよ」


 見れば並ぶ出店達の中に魔道具屋の看板が確かにあった!



「なんと、魔道具屋とな!」


 猿助さんが目を輝かせた。



「よし、猿助さんの魔法のカバンもあるか見てみよう!」

「! 拙者の魔法のカバン!?」


「準備中にすみません! 亜空間収納の魔法のカバンはありますか?」

「ああ、はい、ありますよ」


 店主に尋ねたらいい返事が返ってきた。


「やった!」

「おおっ」

「こちらの二点とかいかがです?」

「なるべく沢山は入るやつがいいんですが、その青と赤だと、どちらが沢山入りますか?」

「なるべく沢山ですか、では……こちらの蛇柄はお値段がだいぶ高くなりますが沢山入りますよ」


 全く違うカバンが出てきた。


 俺は貴族のような格好はしてないから、多分あんまりお金の無い一般人だと思われたんだろう。


 まあ、いいや。一応値段を訊くか。



「その、蛇柄のはおいくらですか?」

「金貨10枚です」


 俺が最初に買ったのは確か金貨5枚だったし、倍額だな。でも昔と今じゃ稼ぎが違う。



「買います」

「ええっ!? 金貨10枚は大金でしょうに、拙者の為にそんないいものを!?」


「あっちでも仕入れ頑張って貰うし、これくらい平気だよ」


 貴族の令嬢達が太客だし、こちらの資産は増やしやすいんだよな。


「か、かたじけない」


 俺があっさりと金貨を払うと店主は満面の笑顔で、「では早速登録をしましょうか」

 と、針を出してきた。


 一瞬ビクッとする猿助さん。


「カバンが盗まれて悪用されないように登録で血が少しだけいるけど針で指をちくっとするだけよ。誰かにどうしても一時的に貸す必要がある時も特別な術式が必要になるわ」


 ミレナが説明を入れてくれた。


「そうでござるか、利き手じゃなくても大丈夫でござるか?」

「どちらでも大丈夫ですよ」


 猿助さんは左手の小指を差し出した。

 あまり使わない指にしたようだ。


 そしてチクッと刺して登録が終わった。

 俺が治癒魔法をかけようかと言ったらこれくらいなら舐めてれば大丈夫だと言われた。


「おめでとう、これでどこでもお気に入りの漫画を持ち歩けるよ」

「ありがとうでござる!」


 猿助さんは魔法のカバンを大事そうに胸の前で抱えた。


 本当は風呂敷型の方がいいんだけど、防犯面で問題が出るからむやみに作れないらしい。

 確かに目立たないように物を懐に忍ばせる事ができるからか、作りやすそうでもなかなかないわけだ。


 魔法の帳面に収納魔法の風呂敷の大サイズを✕5とか書いたら怒られるかな。


 もうあんまりページ残ってないから迂闊に使えないんだよな。

 ひとまずはカバンで頑張ってもらうか。


 そして俺達は宿に戻って駅弁とフライドチキンとビールで乾杯した。

 精霊祭の前夜祭と改めて猿助さんがこちらに来れたお祝いだ。

 ちなみにフライドチキンは日本で買っておいたものだ。


「猿助さんのお土産の駅弁うま~い」


 猿助さんが俺達の為に手土産に美味しい駅弁を買ってきてくれてたのだ。

 えび千◯ちらしのやつ。


「エビだな、美味い」

「だよな!」


 エビ好きのジェラルドも気に入ったようだ。


「猿助さん、ぼくの分までお土産ありがとね!」

「なかなかイケるわね」


「いやいや、皆様が気に入ってくれたなら何よりでござるよ」


 それからミラとユミコさんは1つのソフトクリームを二人で小さなスプーンを使い、仲良く食べている。

 体が小さいのでそれで十分なんだそうだ。


 この日の夜も美味しくて楽しいものだった。

 心地良い春の宵。


 * * *


 翌日に精霊祭の日が来たので、日が暮れてから祭り会場に向かった。

 夜の闇の中に蛍火のような光が空中に舞っている。


 キャンプファイヤーのような火を囲んで人々は踊り、歌い、酒を酌み交わす。


 そんな人々の様子をその村の古い大樹は静かに見守っている。



「あ、綺麗な踊り子さんだ」


 カナタの声に振り返ると、確かにいた。

 急遽祭り用に作られたステージでは旅芸人の美しい踊り子が今から舞うようだった。

 せっかくだし、見て行こう。


 手足に鈴をつけた踊り子が歌のサビ部分で一層激しく舞う段階になって、蛍火のような光は大樹の周囲に集まり、それから上に向かうように螺旋を描いて大樹を包み込み、それはクリスマスツリーのように輝きを纏った。


 ただしその光はLEDではなく、精霊の放つものなので、ずっと幻想的で見惚れる。

 俺やカナタや猿助さんの人間組は思わずその様子に見惚れていた為、カメラはミラが代わりに撮影してくれていた。



 舞の鑑賞の後はずらりと並ぶ出店では串焼きやパイやパンを買ったりして楽しんだ。


 猿助さんもとても楽しんでいるようだった。

 見知らぬケモミミっ子が近くを通る度に感動してるし。


 さて、精霊祭を楽しんだ後は神楽舞だ。

 こちらは俺達の主催だし、がんばらないとな。

 


「エスタ氏、いや、もうこちらでは翔太氏と言ったほうが混乱がなくていいでござるな」

「ん、ああ、そうだな、それでいいよ」

「それでこの祭りの後のスケジュールはどうするのでござる?」


「あ、そうだ、神楽舞の前に猿助さんを花街に案内するんだった」

「花街!」


 俺の言葉で猿助さんの背筋がビシッと伸びた。




























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