第179話 覚悟完了してた

 翌朝はアニソンのアラームで目が覚めた。


「あ、これ猿助さんのスマホの音か」

「おはよう翔太、猿助さん」

「おはよう、二人とも」

「ハッ! 猫耳美少女っ!!」


 猿助さんも今ので起きたっぽい。



「どうやら皆、起きたな」

「あ、エスタ氏! 昨夜のアレは夢では無いでござるな!?」

「ああ、押入れを確認して見ればいいじゃないか」



 猿助さんはそれはそうだと頷いてから押入れのふすまを震える手でそっと開けた。



「おおお……やはり、ある!」

「ああ、あるともー」


 俺がそう言うやいなや、猿助さんはもう我慢できないとばかりに、左手の小指だけ、押入れの奥に突っ込んでいた! 思い切りがいいな!!


 そして小指の抜き差しもしてる。


「入ったああっ!! で、ござるっ!」

「「おめでとう」」

「感謝感激でござる!!」



「猿助さんは会社の方は大丈夫? ここから出社して間に合う?」


 カナタが毛布を畳みつつ訊いてきた。



「あ、俺が車を出そうか?」

「大丈夫でござる! 今から退職届を書くので!」

「お、おう、頑張れ」


 目を爛々と輝かせ、猿助さんは退職届を書くというので、俺は魔法の風呂敷から紙とペンと封筒をあげた。


「い、今の、手品でござるか!?」

「あ、俺は魔法のカバンと魔法の風呂敷を持ってるんだよ」


「!! まるで某猫型ロボットのようでござる! 凄すぎる! 流石にファンタジーな世界を行き来してるだけはありますな! あ、紙とペン、ありがとうでござる!!」


 猿助さんはそう早口でまくし立てた後に、えーと、退職届の書き方ァ〜などと言いつつ自分のスマホで検索を始めた。


 その隙に俺は朝食用にと、簡単にコンビニのタマゴサンドとインスタントコーヒーを用意してから、皆で朝食を食べた。


「じゃあ退職届を出してデスクの荷物を受け取り、また連絡するでござる!」

「分かった、一応ここが今の俺達の日本の本拠地な」


 俺はペロっと住所を書いたメールを猿助さんに送った。


「かしこまり! で、ござる!」



 猿助さんを見送ってから、カナタと二人でスーパー銭湯で朝風呂にしようかってことで行った。


 それから買い出しの続きをした。


 何しろ神楽舞の時は場所が祭り会場のようになるから弁当もかなりの数を注文しないとだし。

 買い物をしつつ、猿助さんはどこに連れてってあげれば喜ぶかな? などと話をした。



「やっぱりケモミミの多い地域かな」

「ジェラルドさんに尋ねればきっと分かるよね」

「そうだな」


 俺はお昼頃にファーストフードの店のドライブスルーで買い物をした後、河川敷の駐車場に車を停め、通信ブレスレットでジェラルドとミレナにもまた一人、連れてくと思うと簡単に状況説明の連絡をした。



 こちらの春の河川敷にも菜の花が咲いていた。

 今日はよく晴れてるから散歩してる人もわりといる。


 菜の花を眺めながらカナタと二人でテイクアウトしたハンバーガーとポテトを食べた。



「お、あそこガサガサをしてる人がいるな」



 水辺の生き物を探してる。

 小さなエビとかがいそう。



「まだ早春の川の水は冷たいだろうに頑張るね」

「ああ、頭にカメラついてるから同業かもな」


 それから河川敷から車を移動し、八百屋とかを見て野菜や美味しい果物を買った。


 苺とパール柑とはっさくなど。



 ドラッグストアではティッシュ、トイレットペーパー、薬と化粧水等のコスメも購入。


 夕方にはとんかつ屋さんでとんかつを食べた。


 衣はサクサク!! 美味い!!


 デザートはコンビニのアイス。


「バター味、クッキー入り」

「うん、コレも美味しいね!」


「ああ、でもSNSで評判のシャインマスカッ◯ボンボ◯とやら、コンビニ3件回っても見つからないな」

「転売屋が買い占めたみたいだね」


 残念だ。

 俺もティッシュなどの転売はしてるが根こそぎはやってないぞ。


 スマホに通知が来た。

 メッセージを確認してみたら、猿助さんとは5日後にまた会うことになった。

 退職してアパートも解約してきたけど、その後に親の顔を見てくるらしい。

 それはそうだな、家族がいるから。


 俺は彼とまた合うまで仕事用の原稿をしつつ、仕入れ用の通販到着を待ったりした。


 * * *


 それから5日後、俺達は別荘地の駅に集合した。

 車で駅まで猿助さんを迎えに来たのだ。

 そして猿助さんはえび千◯ちらしの駅弁をお土産に俺達に持って来てくれた。美味そう!




「親兄弟に会って、じいちゃんばあちゃんの墓参りもしてきたのでもう悔いはないでござる!」

「そ、そうか、了解」


 彼はどうしても手持ちしたかった漫画はスーツケースに入れて来てたけど、ひとまず人目を避け、家の駐車場で俺の魔法の風呂敷に入れてあげた。

 ちなみに猿助さんの引っ越しの荷物はこの後、俺の家に届く手筈。



 しかし彼は荷物の出し入れだけでいちいち感動してくれる。

 だが、拍手はいらない、人前ではやめてくれよ?






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る