第173話 ミレナの少し孤独なグルメ其の二
「あ、そうだ、ミレナ」
「なに?」
私は仕入れに行くショータとカナタを見送る為に朝から起きていたんだけど、そんな私にショータが声をかけてきた。
「仕入れに行く前に預かってた鳥、返しておくな。あと、これは唐揚げ粉とビールと焼き鳥のタレ、それをどうやって食うのかしらんから適当に渡しておく」
ショータは魔法の布から私が預けた獲物と料理に使える物を出して渡してくれた。
「ありがと」
「じゃあ、店とかなんか売りたい物とかあれば好きに使って売っていいから」
「特にないけど、分かったわ」
そう言ってショータはカナタと大樹の元へ向かった。
あ、その近くの森に家を持つエルフもドール二人を預かって一緒に行ったわ。
途中まで道が同じだから。
残るは犬のラッキーと私。
私は午前中に神楽舞の練習をしていたらお腹が空いて来たので、カフェのキッチンを借りて唐揚げを作る事にした。
せっかく冷えたビールももらったし、これは唐揚げを作って食べるしかないと思った。
お肉を半分使って残りはタレ焼きと塩味の焼き鳥にしてもいいわね。
私は普段、ショータがやってるように唐揚げを作った。
ジュージューといい音をさせて揚げている。
揚げる時の油跳ねが嫌なんだけど、フタのようなものもいつの間にか導入されていたので、それでカバーする。
しばらくせっせと揚げていき、お箸で一つつまみ上げ、味見をしてみた! 美味しい!
せっかくだし、我慢できずに魔道冷蔵庫に入れたビールも一本開けた。
プシュっと音を立てたビールを喉に流し込む。
「ハーッ! 美味しっ!」
そして私は油から離れた場所に、ビールを置いた。アルコールが入っているからね。
でもその時カランとカフェの扉が開くベルの音が鳴った。
「すみません、店主仕入れの為、今は閉店中…」
私がそう言いかけて顔を上げたらなんと、
「あらー、美味しそうな香りがすると思ったのに」
「あ、伯爵令嬢のカロリーン様」
貴族だわ! もー、開店中じゃないのに無遠慮に入って来るんだから!
「今日はお父様の使いでね、花粉症のあれこれがかなり売れてるから、それの代金をついでがあったから私が直々に届けに来たのよ」
ショータが言ってたロイヤリティとかいうやつかしら?
「ああ、それはわざわざありがとうございます」
私が預かって金庫か魔法のカバンに入れておけばいいわよね。
私は手を洗って慌ててお金を受け取り、魔法のカバンに入れた。
「こちらの受取リにサインをお願いいたします」
「あ、はい」
おつきの侍女がサインまで求めてきたからサインをしていたら、
「一つ貰うわね、あら、美味しい!」
いつの間にか伯爵令嬢が唐揚げの側に移動してた!
「私もいただきます。本当に美味しい!」
護衛騎士までも!
こらー! あなた達! まだ食べてもいいとは言ってないわよ!
貰うわね。いただきます。
じゃないわよー!
これだからお貴族様は!
「銀色のこれ、飲み物よね?」
あっ!
勘が鋭い! てか、嗅覚が!?
「あ、お嬢様っ! それは私の飲みかけのビールです!」
飲みかけだって言ったのに令嬢は気にせずにぐびーっと飲んだ!
伯爵令嬢! 自重して!!
「はー、のど越しがいいわね! 面白い味! ほろ苦で、この唐揚げと最高に合うわね!」
「この店の唐揚げ弁当は美味しいですからね」
そう言いつつ、勝手に騎士達まで私がせっせと揚げた唐揚げを食べていく!!
お前達ーーっ!!
なんてことを! 私の唐揚げが!!
でも相手が貴族なので平民は逆らえない!!
揚げた全ての唐揚げを伯爵令嬢と護衛騎士が食べつくしてしまった!
酷い!
「ありがとう、狐のお嬢さん、とても美味しかったよ」
美味しかったよ。
じゃあないっていうのよ!
その後、唐揚げに手を付けた5人の騎士達はそれぞれ金貨を1枚ずつカウンターに置いて、唐揚げとビールを飲み干した伯爵令嬢は一人で金貨5枚を置いて行った。
「あ、ありがとうございましたーー」
ちょっと悔しいけどさっきの唐揚げだけで金貨10枚も稼げたから許してあげるわ!!
カフェに一人残った私は揚げ物を置いていたのに空になった金属のトレイを眺めて、ため息を一つついた。
残りは焼き鳥にしようかと思ったけど、やっぱり油がもったいないし、まだ一個しか食べてないから続きを揚げていくことにした。
まだ冷えたビールは魔道具の冷蔵庫に入っているし、私は新たに一本開けて、ぐいっと飲んだ。
そしてテンションを上げてから唐揚げを揚げた。
そして揚げたての唐揚げで一人と一匹でパーティーをしたわ。
冷たいビールを飲みながら。
あ、ラッキーには味をつけてない肉をあげたわ。
骨はないやつね。
「はーっ、美味しっ! でも貴族ってあつかましいわよねぇ、金貨を置いていってなければキレそうだったわ! ねぇ、ラッキー?」
「ワフゥ……」
昼間っから飲んでしまったけど、まぁ、このあと仕事があるわけじゃないし、いいでしょ。
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