第168話 エルフの少女と穴を掘る

 川辺から離れると今度は粘土質の赤土に囲まれた沼があった。


 沼の水は泥の色で下は見えない。

 ナマズとかはいそうな雰囲気。


 そこで一人のエルフの少女が泥まみれになって竹のスコップのようなものを手に、沼の縁を掘っている。

 髪はプラチナブロンドにツインテールだ。

 美しい!


 そして掘っているのはまるで鍵穴みたいな形……細い通路の先に丸い穴ぼこ。

 隠れ家みたいな場所に枝付きの葉っぱを入れて、数日放置し、魚が入れば出入り口の通路を一気に塞いで逃げ場を無くしてから掴み取りをする予定な気がする。


「ビオラ、さては魚を取る罠を作ってるな」


 ジェラルドも魚を捕る罠だと言うからビンゴだろう。

 そんで名前がビオラちゃんていうのか。

 花の名前だな。



「あ! ジェラルドだ! お帰りなさい!」

「帰ったと言うかちょっと寄っただけだが、あまり一人で村の外に出るなよ、危ないだろ」


 なるほど、ここはまだ村ではないのだな。

 確かに周囲に家などが見えないな。

 沼の周りはほとんど背の高い常緑樹が生い茂っていて奥は見通しがきかない。



「だって暇だったから! ジェラルドだって一人でお外に出たじゃない!」


 ビオラちゃんは見た目は小学生くらいの少女なんだが、実際には何歳か分からん、エルフだから。


 しかし泥まみれでもかわいいな、この子。

 流石エルフ!!


「俺は大人の男だからいいんだ」

「ふーんだ」


 女の子が頬を膨らませて拗ねた!! かわいい!!


「ショータ、ぷるぷる体が震えているが、どうした? 寒いのか?」

「初めて小さい女の子のエルフを見て感動してる!」


「ああ、このくらいの年齡だと里から出れないからな、絶対拉致されるから」

「かわいいからな。危険だ。俺でも分かる」


「それよりジェラルド、暇なら穴掘り手伝ってよ、もう一つ穴を掘るから」

「嫌だ、泥まみれになる」

「えーっ」

「俺で良ければ手伝います!」


 よっしゃ、立候補だ!


「え、ニンゲン、いいの?」

「はい!」


 俺は元気よく挙手した。

 ちょっとくらい寄り道してもいいよな!?



「子供か……仕方ないな」


 ジェラルドがため息をついて俺にあきれた。


「私は手伝わないわよ、服と体が汚れるから」



 女性のミレナはそうだろうな。家も多いとシャワーも風呂も使えない。



「えっと、僕は……」

「カナタはカメラマンを頼む!」

「あ、カメラを回すんだね。分かった」

「ワフ!」


「あ! ラッキーはだめよ! 泥まみれになるから!」


 ガシッ!


「ワフゥ……」


 ミレナが俺に向かって駆け出したラッキーを連れ戻す。

 ちなみにミラとユミコさんは今、リュックの中で静かに寝てる。


「じゃあ俺は先に里に挨拶だけしてくるからな」

「わかったー」

「はーい!! ジェラルド行ってらっしゃい!」


 ビオラちゃんの後に俺が返事してジェラルドを見送った。


「ショータ! 私はここで休憩してるからね!」

「おう!」


 ミレナは休憩宣言をしてからそのへんの木に登り、枝の上で横になって昼寝の体制を取った。


 カナタはカメラを構えてカメラマンをしてくれる。


 俺は上着を脱いで腕まくりしてからスコップを魔法のカバンから出して、赤土の泥を掘った。

 水辺で粘土質の土は柔らかいから硬くない分、掘るのは楽な方だ。



「ビオラちゃん、ここではどんな魚が捕れるのかな?」

「草を食べる魚とかナマズ」

「あー、なるほどね、捕れたら食べるの?」

「私は食べないけど、大人の男が人里に行く時に売りに行く」


 別に食べたりはしないのか。


「あなた、ほしければあげる」


 ビエラちゃんが顔を上げ、俺を見て言った。


「ありがとう、外には危険がいっぱいだから俺が買い取るよ。そういや森のはずれで十人くらいの冒険者風の奴らがいたし、ただの魔獣狩りならいいけどエルフがいるのを知って攫いに来た可能性もある」


「ふーん」

「ほんとに危ないから、あまり一人で遊ばない方がいいよ」

「だって退屈なんだもん」


 長生きしてるし、成長遅くて、テレビやマンガやゲームなどの娯楽のない里ならば確かに退屈かもな。

「この後は多分、俺達はスノードロップの群生地へ向かうんだけど、その前に少しだけアニメを見せてあげようか? 人間の作った物語で良ければ」


「アニメ?」

「人の描いた絵が動いて、喋るんだよ、演劇を見るみたいに見れる」

「ふうん? いいよー」



 ビオラちゃんはよく分かってないって顔をしてるけど、めちゃくちゃかわいいなー。

 サラサラロングのプラチナブロンドをツインテールにした緑の瞳のエルフの女の子。

 画面映え力がありすぎる。


 私の戦闘力は二万ですって言われたら、せやな。って素直に答えてしまいそう。


 俺は姪っ子に話すようにエルフの少女と会話しつつ、穴を掘った。













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