第166話 森の中の彼らとオマケの幼馴染冒険者パーティー

 森の入り口付近に来たら他の冒険者集団みたいなのがいた。

 数は十人ほど。


 それを茂みの向こうからこっそり見たジェラルドは美しい眉を顰めた。


「どうかしたのか?」


 俺はジェラルドの耳元でこっそりそう尋ねた。


「まだ入り口付近ならいいのだが、招かれてない者が奥まで入ろうとすると、ここは迷いの森になるんだ。奥にエルフの里があるから」

「迷いの森……迷子になるのは困るな」


「お前達は俺の同行者だから結界を無事に抜けられるだろう」

「そうなんだ、じゃあ、あの人達は?」

「たまにエルフの女を攫おうとする悪い奴がいるから、入るタイミングをずらして後を着けられないように行くぞ」

「ああ、なるほど、了解」


 あかの他人だが、悪いやつだと困るからかかわらないしよう、ジェラルドの仲間に迷惑をかけたくない。


 スノードロップの群生地はエルフの里の近くにあるって言ってたしな。

 あいつらが美しいエルフをさらう悪者だったら困る。


 ジェラルドは耳が隠れるように深めのフードを被ったし、鼻から下もその美貌を隠すように覆った。

 少しは暖かくなってきたけどまだ寒さの残る季節なので暑苦しくはないのが幸い。


 あえて火を炊かずに奴らが先に森に入るのを見てから入る事にした。

 俺とカナタは服も地味な色のものを着て、野菜ジュースとアンパンを食べてから森に入った。


「俺が先行するからついて来い」


 皆、無言で頷いた。


 ジェラルドの背中について森を歩いた。

 たまに猿か鳥のような動物の声がする。


 しばらく移動してるとキジのような鳥がいて、ミレナが太腿のベルトに仕込んでいた刃物を抜いて投げてサクッと仕留めた。

 流石シーフだ、なかなかやるな……。


「ここで捌いてると血の匂いで獣が寄ってくるかも」


 鳥の足を掴んで手にぶら下げたまま、ミレナは周囲を警戒しつつそう言った。


「ミレナ、俺の魔法の風呂敷ならでかいの入るから入れておこうか?」

「じゃあお願い」



 しばらく歩いて暗くなってからキャンプをした。

 翌朝も昼も火を使わないコンビニ飯とかで食事をし、極力静かに歩いていたら、川のせせらぎ音が聞こえてきた。



「よし、あの川の側で休憩するか」

「比較的見晴らしのいいとこで休んで大丈夫なの?」


 ミレナがジェラルドに問うた。


「奴らの気配は遠いから、今頃迷ってるか引き返したかしてるだろ」

「あら、実は私達、もうエルフの結界を抜けてたの?」

「まあな」



「知らなかった……じゃあ俺達はもう火とかも使って大丈夫なのかな?」


 そろそろ湯気のたつ温かいスープとか味噌汁とか飲みたい。


「ああ」


 やった! ジェラルドのお許しが出た!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 オマケ「幼馴染パーティー」

 幼馴染パーティーの小話です。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 一方その頃、翔太の女性三人の護送依頼を受けた幼馴染の三人組のパーティー。


 幌馬車にてゴブリン被害にあった女性を乗せて護送中。


「しかしあの依頼人の男の人、変わってたな」

「何が?」


「あのゴブリンの巣にいた女性達三人共と何の関係もなく、わざわざ馬車呼んで自腹で依頼料も払ってんだぞ。女性達に元気になったら金返せとも言わないし」


「いや、あの状況で心ボロボロの女性にそのうち金払えとか言う人いないでしょ」

「回収の見込みないのになぁ、普通はゴブリンから助けた段階でもうやれることはやったってスルーするんじゃね?」

「えー、あんた、私達がゴブリンに攫われても見捨てるの?」


「いや、お前達は幼馴染で仲間なんだから当然助けるさ、でもあの人は赤の他人を助けてるから変わってるなって、俺達の分まで食料もくれたし。あ! この見たこともないツルツルの袋に入ったパン! 柔らかくて凄くうめぇ」


 もぐもぐ。


「ほんとにこのパン柔らかくて美味しい! あーねー、女性達にだけ渡して私達の分を省くと申し訳なくなる性格なんでしょうね」

「はー、お人好しすぎる。俺は合理的に考えるから不思議でならんよ」



 馬車はある静かな村に入った。

 周囲にあるものと言えば畑といった、絵に描いたような田舎。



「あ、修道院が見えたわよ」

「おう」



 幼馴染パーティーは無事に女性達を修道院まで送り届けた。

 修道院に着くと、修道女が出てきた。


「俺達ができるのはここまでだ、後はよろしくお願いします、シスター」

「分かりました」


「あの女性達に話しかけても近くに家族も知り合いもいないって言ってたし、修道院に届けるしかないよな?」


「そうねぇ、たいていあのような目にあった女性達は修道院でお世話されるから……私達はやれることはやったと思うわ」

「よし、これで依頼完了!」


「あの、もし、女性達を助けたのはどのような方でしたか?」


 一人のシスターが幼馴染パーティーに話しかけた。


「ああ、依頼者の人ね」

「犬と男性エルフと狐っ娘と、大人しそうな人間の女性を連れた杖を持つ、三十代くらいの優しげな男性でしたよ、ショータとか言われてました」

「なるほど、あの方……」

「え? あの人、有名な方だったんですか?」 


「その特徴に当てはまるのは当代の聖者様ですよ」

「「「えーーっっ!?」」」


 幼馴染三人は、思わず声をあげた。


「やっべ! あの人、めちゃくちゃ徳が高いことすると思ったら聖者様だった!」

「サインもらっておけばよかったわ!」

「聖者のサインてなんだよ! 握手お願いすればよかった!」

「ねぇ、このりんご聖者様から貰った! パンは美味しくて全部食べちゃったけど!」



 三人の冒険者はしばらく大騒ぎして、自慢をしまくったと言う……。


 終。














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