第122話 急なモフモフ

「あ! 忘れてた!」


 店に商品を陳列してる時に、俺は急に思い出した。


「何をだ?」

「俺は折りたたみ自転車を買って来たんだよ!」

「ジテンシャって何よ?」

「街でルルエが盗まれないかとか、ちょっとした買い物中に街中の狭い場所で待たせるのが不憫でさ、乗り物の自転車っていう物を買ったんだ」

 

 それと田舎の自然豊かな場所ならルルエでいいんだけどと、ジェラルドとミレナに簡単に心情を吐露したが、


「翔太、見せた方が早いと思うよ」

「それはそうだな、皆、動きやすい服で表に出よう」

「そもそも僕は今日は荷物を運んでるから動きやすい服を着てるよ」

「私も平気よ」

「俺も」



 そういやカナタもミレナもパンツルックだった。

 ミレナは俺があげたジーンズの後ろに尻尾用の穴を開けて履いていたし。


「じゃあいいか、ジーンズは丈夫な部類だ」



 俺達は店の前の平らな道で風呂敷から自転車を出した。



「これが自転車だ、お店とかでちょっと買い物をする時に役に立つかと思うぞ」

「それで、これの代金はいくら払えばいいんだ?」


 ジェラルドが払う気でいたらしい。


「大丈夫! 御土産だから無料だよ!」


「そうか、ありがとう」

「へー、ありがと、それでコレはどう使うの?」


「こうして、乗る!」



 俺は自転車にまたがってシャーっと走って見せた。



「ふうん、なるほどね」

「初めてだとたいていバランス取れずに転ぶから最初は俺が後ろの荷台を掴んででやるから」

「へー」


 俺が自転車から降りて荷台を掴んで見せたが、ミレナは軽く考えていそうだった。



「あ、じゃあ僕はジェラルドさんの荷台を掴んでサポートするよ」

「そうか? ありがとうカナタ」


「じゃあミレナ、そこの黒いサドルにとりあえずまたがってみてくれ」

「えーと、こうしてここを握る……」


 ミレナがサドルに乗ってハンドルを握ったら、尻尾が荷台を掴む俺の顔に当って……急なモフモフ供給!



「えーと、そう、ハンドルを握って、そこの下に止まりたい時、ブレーキって機能もついてるから、止まる時にぎゅっと握ってな!」


 ……モッフ! いや、尻尾に気を取られてる場合じゃあない!


「足を地面につけて止めるんじゃないの?」

「毎回そんな事してたら靴底死ぬぞ」



「カナタ! こうか〜?」

「そうです〜、ジェラルドさん、その調子〜上手!」


 気がつくとあちらは既にゆっくりだが走りだしてた。


「んー、簡単じゃない?」


 ジェラルドの様子をチラ見して、そう言いつつ軽く漕ぎ始めたミレナ。



「そう思うかー? じゃあ、ちょっと手を離してみるぞ」

「ええ、いいわー」


 しかし少し進んだ先で、ガシャーン!!


「痛ぁっ!」


 ミレナが転けた!! やはり手を離すのはまだ早すぎたようだ。



「ほら、簡単に見えて慣れるまではバランスがなぁ」

「く、屈辱!」

「でもコケながら練習するもんだから」

「うー服汚れたぁ」



 ミレナは立ち上がってジーンズについた砂を払ってる。



「怪我したか? 大丈夫か?」

「少し手を擦りむいたくらいよ」

「手をだせ、洗おう、そんでもう諦めるか?」

「やだ、もう一度やるから今度はずっと後ろ支えてて!」


 負けず嫌いだ。 


 俺は懐に入れた魔法の風呂敷から出したペットボトルの水でミレナの手を洗わせ、絆創膏を貼った。


 そしてその負けず嫌いのガッツで神楽舞も頼むと思ったし、でも怪我はなるべくしてほしくない。

 やはりこのタイミングで自転車はやめておけばよかったかな?


 と、思いつつも、せっかくやる気になってるからしばしミレナの自転車の練習に付き合った。


 気がつくとジェラルドはもう普通に一人で自転車に乗れていた。


「エルフ自転車を乗りこなすの早いな!」


 カナタに見守られつつジェラルドは自転車で軽快に走ってる。



「くっ、エルフに負けるなんて!」

「まぁ、まぁ、ミレナには神楽舞の練習もあるから無理するなよ」

「あれはゆっくり動いてるだけだから大丈夫よ! 難しいって事はないわ、動きさえ覚えたら」


「頑張ってくれ、大地の平和の為に」

「それはショータが頑張ってよ!」

「えー、じゃあ二人で頑張ろうぜ」


 こんなおじさんが一人で背負うには荷が重くない?


「私はソフトクリー厶の為にやるのよ!」

「あ、はい」



 そうだ、ミレナはソフトクリー厶に釣られてたんだった。



「明日は自転車で孤児院に行って子供達に温かい毛布と服を届けようかと思ったけど、誰か運び屋を呼ぶか」

「ちょっと、店の仕事があるでしょ! 貴族の令嬢達が孤児より後回しなの!? ってキレるわよ! 商業ギルドの運び屋を呼んだら?」


「そうなんだよ、店があるんだ。皆ティッシュと綺麗なレースとかを待ってるだろうし」


「じゃあ商業ギルドには鳥を飛ばしたらいい」


 自転車でシャーっと走りつつ突然現れるジェラルド。


「そうだな、ぴーちゃん!」


 ぴーちゃんは普段は見えない時空にいて、名前を呼ぶと頭上に魔法陣が出現し、そこからスッと現れる。


「ピィ!」


 ぴーちゃんが来てくれて俺は手紙を書き、商業ギルドに運び手を呼んで貰った。


 今は魔法の風呂敷の中で場所を取らないが、俺が行けないと毛布がかなり嵩張るから荷馬車をと頼んでおいた。


 店の方は明日開店と言いたいところだが、やはりカフェの方の作り置きパンケーキの仕込み時間をもらおう。

 魔法の風呂敷に入れたら作り立てと同じ状態で保存出来るし。



 そして店の前の黒板にチョークで明後日開店予定と書いていたら、背後から声が聞こえた。


「やっと明後日から!? お嬢様に連絡だ!」



 走り出すどこかのお屋敷の使用人らしき男性。

 他にも近所の人が慌ただしく鳩を飛ばし始めた。

 インターネットのない世界って大変だよなと思った。

 鳩はかわいいけどな!











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