第112話 聖女の噂

 カフェを開店してみたらやはり女性からは見栄えのかわいいアイス付きワッフルやメロンクリームソーダのオーダーが入る。


 しかし男性連れで男性の方が甘いのを避けてハンバーグ&エビフライ弁当などを頼むとエビフライ一本だけちょうだい的な事を言う女性がいる。


 エビフライは二本だけしか入ってないから一本譲るのは断腸の思い! みたいな男性を何人も見た。


 結局、相手は女性だし、おねだりされたら譲る人がほとんどだけど気の毒なのでエビフライを注文出来るメニューを増やすべきかと思わなくもない。



 営業が終わってまかないを食べながらスタッフミーティング中。

 雑貨は王都でほぼ売ったので皆、今回はカフェで働いていた。



「いっそエビフライとマカロニサラダとバゲットのセットでも出そうか?」


「エビフライとかメニューに追加して大丈夫? 揚げるの面倒じゃない?」

「期間限定とかなら、あるいは。あと元々三日か五日しか営業してないし」


「そう? 翔太がいいならいいけど」


「ところでそろそろこちらのメニューを真似する店が出て来ると思うが」


 ジェラルドは心配してくれたようだけど、俺は日々忙しくするより休みに旅行とかしたい。

 目指せスローライフに異世界漫遊! なのである。

 いや、そのうち浄化の作業も頼まれるんだろうけど。



「よその店が真似して客が分散するならそれでもいいけど」

「いいのか、客を取られても」

「雑貨屋で儲けてるし、あとは投資した劇場の売上も入ってきている」


「あ、推しの女優がいる劇場とかいうやつ?」

「ああ、カナタも気になるなら休みに入ったら見に行くか?」

「ありがとう! 行きたい!けど先に孤児院だよね」

「まあ、それはそうだな」



 三日ほどのカフェ営業を終えて俺達はまず市場で肉野菜などの買い出しをして、孤児院に向かった。


 アポ無しも大丈夫かな? と、思ったけど炊き出しは歓迎された。

 孤児院の敷地内にてシチューと柔らかいパンとフルーツを振る舞った。



「シチュー美味しい! お肉も入ってる!」

「わあ! このパンすごく柔らかいね!」

「白いパンだ! 黒じゃない! すげー!」

「このぶどう甘くて美味しい!」



 はしゃぐ子供達の、笑顔が眩しい。

 ただのシチューや柔らかく白いパンでこんなに喜んでくれるとはな。

 アニメに出てきた盲目のおばーさんを思い出す。


「ありがとう、おじさん! あたしの宝物あげるね」


「ん? ありがとう」


 孤児の少女が己のポケットから出してくれたのは、かわいいどんぐり三つだった。

 ほっこりした。


 後は……


「これから寒くなると思うので、これで毛布でも買ってください」

「まあ、ありがとうございます!」


 毛布代にしてくれと現金を渡した。

 やはり、多少の現金もあった方が便利だよな。

 ピンハネされないように祈ろう。

 あまり人を疑いたくはないが、世の中は善人ばかりではない。


 俺はポケットに入れたつるりとしたどんぐりの感触を確かめた後に、今度は裏起毛の下着やフリースの服でも仕入れて来て配布しようと思った。



 後は神殿に少し寄って寄付もしたけど、せっかくなので神殿にて少しお祈りして、ゴスペルも聴いた。

 厳かな気分になるなぁ。



 この後はカナタとミレナを連れて劇場へ向かってジェラルドだけギルドの仕事へ向かった。

 

 まず、物販コーナーを見て、ブロマイドは売れてるかチェック。


「おお、完売も出ているな」

「ああっ! ショータ様! いらしてくださったんですね! 実は看板役者のブロマイドが売り切れているんです」


「流石看板なだけあるな、新しく補充しないとだ」

「ぜひお願いします!」


「了解しました。今日は劇を見に来ただけなんだけど、ブロマイド用の撮影もしておこうか? 公演中に魔道具で記録してもかまわないかな?」

「はい、もちろん」


 俺はカメラを便宜上、魔道具と言っている。


 通常は公演の最中に撮影など許されない行為だが、俺は劇団の為の売り物を作るから許された。



「でもフラッシュとかは焚けないんじゃない?」

「それはそうだけど、舞台がやや暗くても多少は画像加工でどうにかなるだろ、なるべく明るいシーンを選ぶし」


「お席は特別席を用意させていただきますね」

「撮影するから可能なら正面からで普通に見やすい席を」

「承知いたしました」


 劇を撮影しつつ鑑賞した後で推しの女優のいる楽屋に挨拶に行けることになった。

 おっとりしたお姉さん系の娘で胸も大きい。


 そこでこんな話を女優から聴いた。 

 なんてことはない雑談の最中、



「え、聖国の聖女に会ったことがあるんですか?」

「はい、貴方のような黒髪でした」

「聖女って言うからオレはなんとなく金髪か銀髪をイメージしていましたよ」


「いいえ、夜の闇のような黒髪でしたよ」


 ドクンと、何故か俺の心臓が跳ねた。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る