第109話 王様と会った

 カナタが紫のドレス、ミレナが赤いドレス、そしてジェラルドが黒地に銀糸入りの礼服。

 俺は部分的に金糸の刺繍が入った古代ローマのトーガに似た白い衣装。

 これらを着てパーティーに参加することになる。


 ちなみに店の方は伯爵家から使いの者をやって、諸事情で休みますと看板に書いて貰ってる。



「これ、カナタのやつはレースのチョーカーで喉仏を隠せるってやるな」

「そうそう、喉仏が隠せるんだよ」

「せっかく紫のドレスだし、ぶどうの髪飾りかイヤリング着けてみるか? 秋感出るし」


 俺は魔法の風呂敷からぶどうのアクセサリーを取り出した。


「かわいいけど、翔太それ、なんで持ってるの?」

「これなー、雑貨屋で売ろうかと思ってて出し忘れてたやつ」

 

 可愛い子を飾り立てるのはぶっちゃけ楽しい。 



「ショータ、私には?」


 アクセサリーもお嬢様が用意してくれてるのが沢山あるのに?

 ま、いいか。


「えーと、ミレナのドレスは赤いし、この布バラの髪飾りはどうか、狐耳の下あたりに、レースとパールもついてて華やかだぞ」

「なかなかかわいいじゃない」


「翔太、それも出し忘れてたやつ?」

「なんとなくキープしてたやつ」

「そう、じゃあこれを使わせて貰うわね」



 と、色々確認できたところで一旦着替える。

 ミレナとカナタはこの後に微妙にドレスのサイズ調整などをするらしい。

 いや作業自体は針子さんがやるんだけどな。


 ちなみに安全の為にしばらくここに泊まらざるを得なくなってる。

 貴族の館は無駄に緊張する。


 もう部屋に籠もって動画編集でもしようかな。

 でもそれだと電池が少し心配だけど、伯爵邸にはソーラーパネルや発電機はないから。

 それかいっそ電気のいらない紙の本でも読むか?


 そう考えて、俺は部屋付きの執事さんに訊いてみた。



「本のある部屋はありますか、部屋で借りて読んでもいいやつを希望なんですが」

「はい、図書室へご案内します」



 俺は図書室で静かに勉強タイムに突入した。

 えーと、聖者と聖女関連のやつと魔法の本を勉強がてら読もう。



 しばし読書などして時間を潰すが、俺達はたまに王族への挨拶の仕方もカロリーン様に教えて貰ったりもした。


 お茶菓子にカロリー控えめのスイーツなども出した。

 ハイカロリーで太ってドレスのサイズが変わるといけないからな。

 太りにくい素材のようなのになかなか美味しいと好評だった。


 そうしてるうちにミレナ達のドレスの調整も終わった。

 今回のパーティーは急遽決まって皆様も衣装の準備が大変そうだな。



 * * *


 しばらくしてパーティの日がやってきた。

 俺達はまた転移スクロールで王都に来た。


 ちなみにラッキーは何故か俺の浄化の指輪の石の中に霊体として入れるらしく、コンパクトな形式で入ってしまっている。

 呼べば出てくるので便利だし、その説明は帳面の表紙に浮き出て判明した。

 マジで便利。



 王城の門の前では貴族達の馬車がそこを通過する為にずらりと並んでいる。

 門の奥に見えるのはでかくて豪華な城。



「あれが王様のいるお城なんだね」

「すげぇ華麗だなぁ」


 あ、聖者っぽい喋り方をすべきかな。


「お前達、じき城に入るぞ」

「「はーい」」


 俺とカナタはジェラルドに返事をして、スーハーと呼吸を整える。


 王様と謁見とか普通に緊張する。

 ちなみにミラはお包みに入れて俺が自分で抱いている。

 ミラが他人に預けられるのを嫌がったからだ。


 遠目からはまるで赤子を抱く聖母マリアのようだが、実際の所は胡散臭いドールおじさんである。


 もうどうにでもなれ!!

 俺はドールを抱っこして王様と謁見する史上初の聖者(笑)になる!



「あの、聖者様、その人形は?」


 馬車を通す際の検問的な事をしている門番にも突っ込まれた。



「私の護衛ですが何か?」 


 怪訝そうに突っ込まれても押し通る!


「人形が護衛を?」

「この人形は動くので」 

「動くんですか! それは怖…いえ、凄いですね」


 今、この人、怖いって言おうとしたな?

 まあ、気持ちは分からなくもないが悪霊憑きとかではないから安心してほしい。


 なんだかんだでついに王城に入った。


「ラール伯爵、及び伯爵令嬢ご入場です!」

「聖者様御一行、ご入場です!」

 

 ざわめく華やかなパーティ会場内。

 漫画やアニメや映画で見たような景色。

 貴族達が一斉にこちらを向いた。

 こっち見んな。

 恥ずかしいから。


 パーティ会場の門番みたいな人は客が入場する度声を張り上げるシステムらしいな。

 照れる。


 俺達はついに玉座に座る王様の前に来た。

 隣には王妃がいて、近くには王太子と王女もいるようで、美男美女が多い国だと思った。


「偉大なる国王陛下にご挨拶申し上げます」


 聖者でも平民だし頭を下げ、伯爵家で事前に習った挨拶をした。


「よくぞ参られた、歓迎しよう、我が国の聖者よ」


 威厳のある声が会場内に響いた。
















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