第108話 聖者のお出迎え

 朝日によって賢者の家の庭も秋らしく、オレンジ色に染まっていた。

 とても綺麗だ。

 清々しい森の空気を吸いながらあの暗い洞窟を無事抜けられて本当に良かったと思った。


 せっかくなので大地の女神の神殿付近で集めた落ち葉で焚き火をして焼き芋を作った。


「この芋はホクホクしてて甘くて美味しいわね」

「こんなに甘い芋は初めてだ」

「やっぱり秋は焼き芋だねぇー」

「皆、気に入ったようで良かった、おかわりもあるぞ」


「やったわ」

「いただこう」

「せっかくだから僕もあと一個だけ食べようかな」


 焼き芋はホクホクとしてるし、甘くて美味しかった。

 大地の女神様にもこの味が届くといいな。


 変な奴らに洞窟に放り込まれたり色々あったが秋らしいイベントもやれて良かった。


 * *


 伯爵家にぴーちゃんで連絡をとっておいたらややして返信があった。

 森を出て最寄りの村まで出て来て欲しいと要望があったので皆で移動することにした。


 それで皆して大樹の前まで行って待機していると、突然目の前の地面に魔法陣が現れて光ると、騎士たちが現れた。


 でも最前列の中心に見知った顔があったから敵ではなく、伯爵家からのお迎えだと分かった。

 騎士たちが一斉に俺の前で片膝をついた。

 その中でただ一人だけ立っていたのは、


「カロリーン様……」

「まさか貴方が聖者だったなんてね、このカロリーン·フォン·ラールが直々に迎えに来たわよ」


「迎え?」


 一人の男性騎士がスッと立ち上がって俺に歩み寄って来て、書簡を手渡して来た。


「こちら、国王陛下からの書簡です」

「国王陛下から!?」


 俺は思わずカロリーン様の顔を見た。


「我が国が聖者降臨の地となりました。

 喜ばしいことですので王都にて陛下と謁見奉り、その後にお披露目パーティーを開催します。

 これより転移スクロールで伯爵邸までご一緒願いますわ」


 凛とした雰囲気でカロリーン様が衝撃の事実を告げた。

 俺は国王陛下の書簡を震える手で開いて見た。

 俺の聖者判定は王室の占い師に確かに普通の星の生まれではないと出たらしいので、国王陛下からの書簡にも確かにお披露目パーティをする的な事が書いてあった。



 大変なことになってしまった。


 その後、皆で転移スクロールの瞬間移動でラール伯爵邸の広い敷地内に着いた。


 周囲はギリシャのパルテノン神殿の遺跡の柱のような物が建っていて、その中心に魔法陣があり、俺達はその中心に移動していたのだ。


 地球の遺跡と違い、こちらの柱は美しく、壊れたりはしていない。

 なんだかドキドキする。


 そして黒い燕尾服の執事によって俺達は伯爵様の待つサロンへ通された。

 神官が一人同席していた。


 そこでの会話内容はやはり王都でお披露目パーティーがあるのでその準備をして欲しいという事だった。


 俺は神官の手により恭しく渡された白い衣装に目をやった。

 俺には聖者の正装としてローマのトーガみたいな服を用意されていたわけだ。

 

「あの、他の皆の衣装とかは? あ、同行して貰っても構わないですか?」

「お仲間の衣装もこの私が用意しているから大丈夫ですわ」


* *


 とりあえず伯爵邸の中で俺達はパーティー用の衣装合わせとなった。

 それぞれ着替えた皆がサロンに集まった。


「わあ、こんなドレス初めて着ました」



 ミ、ミレナがしおらしく丁寧な喋り方をしていて別人のようだ!

 そんな喋り方もできたんだな! よかった!


 ミレナも令嬢が着る美しいドレスを着ていると、本物の令嬢のようだ。

 ジェラルドの礼服姿は言うまでもなくかっこいい。

 彼は冒険者だけあって、エルフとはいえ、なかなか肩幅もあるが腰はぐっと引き締まり、バランスのいい筋肉がついていて、本当にかっこいい。

 かっこいいが何回も出るくらいかっこいい。


 問題はカナタであるが、礼服とドレスどちらでも好きな方を選んでいいとお嬢様に言われて、最初は国王の前に出るのだし、礼服を選ぼうとしたらしいけど、せっかく豪華なドレスを着るチャンスだろうとミレナに言われて、結局ドレスを着せられている。


 でも普通に似合っている。男の娘、すごい。


「翔太は古代ローマかギリシャの人みたいな衣装だね」

「笑ってくれてもいいぞ、まるでコスプレだ」

「それを言うと僕の方がアレだよ……」

「ところで何か感想はないの? 私に」

「綺麗だ、とても似合ってる」


 俺は乙女ゲームで晴れ着の初詣イベントもこなした男だ、ヒーローの反応も覚えてるから何を言えばいいかはだいたい分かる。


「本当にミレナさん、綺麗だね、本物の貴族令嬢みたいだ」

「ふふん、二人もなかなか似合ってるわよ」


 ミレナはドヤ顔である。


「もう元の服に着替えてもいいのか?」


 ジェラルドが側に控えてる執事に振り返って訊いた。


「あ、ジェラルドちょい待って、撮影させて欲しい! すごくカッコいいから、あ、いつもかっこいいけど」



 俺が魔法の鞄からカメラを出すと、ミラがすかさずカメラを受け取り、構えてくれた。

 流石である。

 ちなみにラッキーは別室で待機させられている。

 毛がつくと困るって言うから。


 

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