第106話 派手な演出

 暗闇の中になにか恐ろしい魔物でもいるかと思えば、ただの入り組んだ迷路だったが、俺はついに出口に辿りついた!


 俺を捉えた者達の姿が見えた。

 カナタもいた!


「おお! 出て来たぞ!」

「ではこちらが本物か!」

「翔太!」



 カナタが無事で良かった!



「まさか聖国の聖女が偽物でこちらがほんも……うっ眩しい!」

「眩しい!」


 失礼だな、まるで俺が禿げてるみたいに、俺を見て目を細めて、この連中。

 俺の後ろに後光でも差してんの?

 そして、俺の目の端にも輝きがちらついた。

 上からか?


 なんと空を見上げると青い龍の鱗が輝いていた。



「うわ! 龍だ!」

「空から龍が!」

「あの長い体は海龍!!」


 そう、人々が言うように空を見上げたら、某日本のアニメのアレみたいに龍の背に乗ってミレナとジェラルドが飛んで来ていたのだ!

 神々しい! まるで神の遣いのようだ!


「おおっ、奇跡か、神の遣い!?」


 男が海龍に気を取られた。

 カナタは自分を捕まえていた男の腕を振り払って俺の方に駆けてきた。

 それを見て俺も走った!



「こっちよ!」


 ミレナが海龍に乗ったまま、低空に来て手を伸ばして来た!

 ジェラルドもカナタに手を伸ばした。


 俺がミレナの手を取るとふわりと魔法のように体が浮いて、彼女の方に引き寄せられて海龍の背中に乗り、カナタもジェラルドの手につかまり、同じように背に乗った。

 それとミラが糸でやつらに奪われてた魔法のカバンとかの荷物を回収してくれた!

 GJ!


「こっちもカナタを確保した!」

「よし! ひとまず帰宅よ!」


「え、あいつらはほっといていいのか!?」

「ショータが本物の聖者判定でたなら、殺すことないからいいんじゃないの!?」

「聖女の方はどうなるんだ? 殺されたりしないか!?」

「他人の事を心配してる場合!? 勝手に逃げるか本物なら神様が保護するんじゃないの!?」


 俺は声を張り上げた。


「聖女にも酷いことをするなよ! 天罰がくだるぞ!」


 一応聖女の保護も呼びかけておいた。

 会った事もないから本物かどうかも分からないけど。



「ところでこのままあの家に帰っても大丈夫か!? 地元で大騒ぎにならないか!?」

 俺が気になって仕方ないことを大空の中で叫ぶと、ジェラルドが


「賢者の家なら結界で守られている、俺の家に行こう。海龍、行き先変更だ」

『では例の森に行けばいいのだな?』

「ああ、頼む」


 何故か海龍と普通に会話するジェラルド。

 流石エルフ、凄い。


 * *


『では、さらばだ』



 海龍が森の中の開けた川付近にまで来てから、俺達を降ろしてくれた。


「背中に乗せてくださってありがとうございました!」

「「「ありがとうございました!!」」」



 海龍は巨体を上昇させ、やがて雲に到達する頃見えなくなった。



「にしてもまだ戦争が起こった訳じゃないのに、神々しい演出の為にミレナは貴重な海龍呼び出しのチケット的な鱗を使って良かったのか?」



 俺はミレナにそう問うた。



「あそこは使い所だったと思うわ! だって偽物の聖者の方は殺すって話だったんでしょう?」

「そもそも俺を試したあの男達はどこの国の人かな? わざと特徴的な服は着てなかったと思うけど。

 ただの旅の傭兵っぽくてさ」

 

 俺が首を傾げると、ジェラルドが周囲をキョロキョロと見渡しつつ口を開いた。


「聖国訛りのやつがいたぞ、スパイじゃないか? 自国の聖女を本物って言いたいなら偽聖者の方は始末したいってのはある気がする」

「なるほど、聖国のやつらかあ」


「ワフ!」

「あ!」


「どうした、ラッキーとジェラルド!?」

「卵発見!」


 ジェラルドの言うとおり、草むらの中にアヒルの卵が五個あった。

 あそこ巣なのか。



「4個だけ貰っていくか」

「ベーコンエッグが食べたいわね」


 ジェラルドは卵を四個回収し、ミレナは卵を見て食欲を刺激されたらしい。


「……ショータを助けた功績と緊急事態であることから、狐娘も俺の家に入る事を許可する」

「はー、それはありがとうございますぅ。でもまるで王様みたいな言い方ですこと」


 ミレナが唇を尖らせながらお礼を嫌味っぽく言っている。


「ハイエルフなんてそもそも森の王様みたいなものだよな!」



 フォローになってるかなってないか分からないような事を言う俺。



「とにかく卵も手に入れたし、家に向かおう」

「そういや俺も夏ならそこの川に飛び込んだんだけど、風呂に入りたいんだよ、急ごう」


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