第三部
第105話 試練の洞窟
日本ではちょっとした火事騒ぎはあったが、無事に押し入れから異世界に戻った。
テント泊で夜明けを待った。
コンビニおにぎりと漬物とインスタント味噌汁を食べて異世界の家に帰ることにした。
折りたたみ自転車で早速試運転がてらしばらくサイクリングで移動したが、大樹の村付近は田舎なせいもあって無駄に注目を浴びたので、しばらくして自転車を降りて荷馬車に乗り替えて移動した。
街に入ったら何やら騒がしかった。
とある集団がこちらに向かって駆け寄ってきた。
「いたぞ、あそこだ!」
!?
「お前が聖者と名乗る者か!?」
男達は人相描きのようなものを手にしていた。
「いいえ! 全く名乗ってません! 聖者じゃありません! 人違いです!」
「とりあえず本物かどうか調べなくては!」
俺は男達に何故か捕まった!
「待ってください! 彼はただの雑貨商です! 聖者ではありません!」
カナタがそう言って俺をかばおうとするも、
「そいつも人質になるから連れていけ」
「待て! カナタは、そいつは全く関係ない!」
「いったい僕たちをどこに連れて行くつもりですか!?」
「黙ってついてこい!」
カナタまで捕まった! 理不尽!
「ちょっとおかしくないか? 俺は違うけどあんたら本物の聖者相手にこんな手荒な感じで連行するのか!? 聖者とは尊い存在では!?」
「聖国に本物の聖女が現れたならこちらにいる聖者の方は偽物のはずだ!
紛らわしいのがいたら世の中が混乱する!」
え!? つまり聖女が現れたなら聖者らしき者は強制排除か!? そんな横暴な!
どちらも大事にしろよ!
「はあ!? 俺は聖者を名乗ってないし、違うって言ってる!」
「どちらかが偽物だ! 偽物の方は死んでもらう!」
「そんな馬鹿な!」
あれよあれよという間に移動用魔法のスクロールで、謎の洞窟前まで連れて来られた。
そして魔法のカバンを没収された。
「松明は持ってないか?」
「はい! 火の魔石もありません!」
「ところで上着の内ポケットの帳面と布は」
「やめろ! それに触るな! 神罰が下るぞ!」
「なに!?」
「それは神様から俺が授かったものだ!」
「神から授かったとか、お前はやはり聖者を語る者だな! 語るに落ちたとはこの事!」
しまった!!
「まあ、紙と布くらいなら持たせておくか」
神罰の言葉にビビっだのか、風呂敷が亜空間収納の布とは気がつかなかったようだ!
布はポケットに戻された。
「お前にはこの試練の洞窟に入ってもらう」
「試練の洞窟!?」
「中は蟻の巣のようにとんでもなく入り組んで道が多いが、出口は一つだ。お前が本物の聖者なら神のお導きで正しい出口までの道を進めるだろう」
「な、なんだって?」
「翔太!」
「お前の仲間は出口で我々と待つ、見事その暗闇の洞窟を、松明もランプも火の魔石もなしに進んでみるといい!」
カナタを人質に取られた。
仕方ない、やるしか。
「お前達、俺にこんなことをして後で後悔をするぞ」
俺は精一杯凄んでみた。
「四日経っても戻らねば我々はお前を偽物とする」
「暗闇で迷子になって死ねって言いたいのか?」
「その翔太は伯爵様の庇護下にある商人だ! 無礼だぞ!」
カナタが叫んだ。
「今は国の大事なのだ、諦めろ」
「はあ!? 国の大事と聖者と聖女がなんの関係があるんですか!!」
「本物の聖女か聖者を擁する国こそが上に立つのだ!」
「わけがわからないよ! 国に上とか下とか!」
俺も分からないし、カナタも混乱して叫んでる。
「とりあえず俺がちゃんと洞窟に入るから俺の友達に手荒な真似はするな! 天罰が恐ろしければ!」
本物の聖者じゃなければ殺されるならもう本物のふりをするしかなくないか!?
「じゃあ早く入れ」
俺は暗闇の洞窟へ入った。
しばらくして、もう監視の目も届かないだろうと、亜空間収納の風呂敷からヘッドライトを出した。
灯りがついて心底ホッとした。
ずっと暗闇の中だったら発狂するわ。
俺はただの装身具と勘違いされたブレスレットでジェラルドとミレナに連絡をとり、事情を話した。
『まさか聖国に聖女が現れたから翔太が偽物扱いされてるの!?』
「聖国のことは知らんがそうなのか?」
『そう言えば聖女が現れたという噂は先日俺も聞いたぞ』
「俺は偽物だったら殺されるらしいからもう聖者のフリするしかなくなった」
『私が助けに行くわ』
ミレナ! そこまで心配してくれるとは!
「俺の仲間と思われたカナタが捕まったからお前たちは無理せずに」
『何を言ってるのよ!』
『そうだぞ、水くさい』
ミレナもジェラルドも優しいな。
『あいつら目にもの見せてやるわ! まあ私に任せなさいよ、だからそっちはちゃんと泣かずに洞窟を抜けるのよ!』
『マスター! くじけずに前に進んでください! 助けに行きます!』
「ミラか、ありがとう……俺は今からぴーちゃんを呼び出して出口まで案内してもらうから」
『なるほど! マスター流石です!』
『なるほど! 魔法の伝書鳥か!』
『わりと賢いじゃないの』
「そうだ、外にいる仲間の誰かの元へ手紙を届けるていで案内してもらうのさ、出口まで」
『ワフ……』
ラッキーの出番が無くて悲しそうだ。
「じゃあラッキーは謎の洞窟の出口にいるはずのカナタのとこに仲間を案内してくれ、そんでカナタを助けてくれ」
『ワフ!』
そして通信を切った。
俺はぴーちゃんを呼び出し、その足に書いたメモを結んだ。
「外にいる仲間の元へ行きたい、案内できるかな?」
ぴーちゃんは頷いて俺の前を飛んだ。
神の帳面を使って出した神秘の鳥だし、この子に案内させるのはセーフだろ?
俺は魔法の風呂敷の中から、食事や寝袋も出せるから、休み休み長い洞窟の中を進んだ。
洞窟にはどう見ても人間の骨っていう感じのものがいくつも地面に転がっていて怖かった。
まさかこの人達も聖者か聖女判定の為にこの暗がりにぶち込まれたのか?
なんて……気の毒な。
俺には魔法の風呂敷に入れていたブリザーブドフラワーをお供えし、手を合わせて安らかにと祈る事しかできない。
あ、そうだ! 俺はスマホに語りかけた。
「ヘイ! SHIRA! レクイエムかけて!」
『分かりました』
俺は洞窟で孤独だった魂の為に、レクイエムをかけて貰った。
ライターを持っていても、穴の中では火葬なんて無理だし、ガスがあったら大変だ。
祈りながらレクイエムを流し、前に進んだ。
ぴーちゃんを先行させるとちょっとガス発見器代わりのカナリア役みたいでやや気が引けるけど、神秘の鳥だし、大丈夫だよな?
洞窟に入って三日くらい経った。
ここを無事に出たら風呂に入りたいな。
異世界生活、今までかなり快適で平和ボケしすぎてたかな?
分けのわからん文化や考え方があるもんだ。
聖者も聖女もいるならいるでどちらも大事にすべきだろうに。
「ピィ」
やがてぴーちゃんが小さく鳴いた頃、前方に明りが見えた! 出口だ!
俺はヘッドライトを魔法の風呂敷に隠した。
そしてついでにぴーちゃんもポケットに隠して、光を目指して歩いた。
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