第80話 ピーちゃん

 市場から家に戻ってから、ミラの着替えなどをしていたら、急に呼び鈴がなって慌てた俺はミラを抱えたまま玄関先に出てしまった。


 誰かと思えばまた憲兵が来た!


 ミラは猿助さんがくれたお花とフリル付きのカチューシャをつけて普通の愛らしいお人形のふりをしたまま俺に抱っこされている。


 憲兵はミラをチラッと見たが、特にそれについては言及しなかった。

 よかった。 

 でも変なドールおじさん認定はされたかも。



 憲兵の要件は今回はお叱り案件ではなかった。



「当方に報奨金をくださると?」

「危険薬物の入ったクッキー配布の件では、有益な情報をありがとうございました! 最近中毒者も出ていて各所で大変だったようですが、経路の特定にも大いに貢献してくださいましたので!」

「ああ、それはよかった」



 憲兵達はお金をくれて帰っていった。  

 も、もうけた。




「憲兵が来たようだったけど何だったの?」


 シャワーを浴びていたらしきミレナがまだ濡れたままの髪で出て来た。

 肩にタオルはかけているが。



「薬物混入クッキーの件で報奨金をもらったぞ」

「ああ、そう言えばそんな事もあったわね」

「ほうら、フェリ、金貨増えたぞ〜」



 俺はフェリの前に置いていたアクセサリートレイの上に、追い金貨をした。



「ショータ、またそんな所に金貨を」

「フェリを安心させてやらないと」



 ミレナが外を指差したので、窓際に目をやると鳥が来ていた。


「伝書鳥よ」



 俺は窓を開け、鳥を家に引き入れて足に括られた手紙を確認した。



「おおお」

「どうしたの?」


「錬金術師さんから、エリクサーの出どころについてどうしてもと追求されて聖者に近い人から預かったと話してしまったと」

「聖者ぁ? えちちな絵を売っているショータが?」

「それを考慮すると性者のほうが正解に近いのだがな! ハハハ!」


 ヤケクソになって俺は笑った。



「住まいも歓楽街に移した方が隠れるにはいいかもな」

「それだと仕事場の店が遠くなるぞ」


 ジェラルドが荷物を片付けてリビングに入ってきた。



「それなんだよなぁ」

「やめなさいよ、あんなガラの悪いとこに住もうとするのは。お人好しには似合わないから、カモられるわよ」


「そうか……でも俺の国には情は人の為ならずって言葉があり、人に親切にしておくとやがて自分に返ってくるという」

「もう! クレリックの説教みたいなのはいらないから」



 いかん、若者にうざがられた。

 反省。



「はは、そうだよな、俺には似合わないしな」

「えちちな絵でも描いてなさい」

「そうだった! 次の仕事の準備もあったな」



 そんな訳でインスピレーションを得るために、夜中にこっそり歓楽街へ来た俺。

 エロを描くにはエロい刺激と情報が欲しい訳で!!


 * *


「ほう、この店はコスプレでイメクラ的な事ができると」


「はい、女の子は女騎士風、女戦士風、巫女風、貴族の令嬢風、町娘風、人妻風など色々いますから、お好きな衣装の子を」


 女戦士と女騎士はくっ殺ができてしまうわけだ!

 しかしどうしても女騎士は伯爵令嬢を思い出してしまうので、今回は町娘風を選んだ。

 男のこちらが着る服は悪徳貴族風である。


 悪い貴族が可愛い町娘を見つけて無理やり手籠めにするイメージだ。

 いやー、悪いなぁ。


 とはいえ、これはあくまでごっこなので許して欲しい。


 また撮影交渉をし、オッケーを貰って撮影をした。

 ご協力、まことにありがとうございました!!


 娼館の方からはまたコンドー◯を仕入れて欲しいと言われた。

 俺は頑張って仕入れて来ますと言って、少しだけ遊んで朝帰りした。


 ゴムは……通販しよう。


 朝食の時間に、ベーコンにチーズを巻いてブラックペッパーを振りかけるやつを作って、買っておいたクロワッサンを食べた。


 美味しい。


「そう言えば酒場で聞いた話だが、神聖王国が聖者を探してるらしいぞ」

「し、知りません、俺は関係ないですし」

「そーよねー、普通聖者が朝帰りなんてねぇ、しないわよねぇ」



 ギロリと睨んでくるミレナが怖い!!

 俺の朝帰りがバレてるのかな?

 女性の香油の匂いでもついていたかな?


 き、気にしたら負けだ!

 俺のは仕事の取材だし!


 ミレナはプンプン怒りながらギルドの仕事をこなしてくると言って出かけた。

 よく考えたら俺は怒られる筋合いがないような。

 まあ、いいか。


 ところでやはり連絡手段として、仲間うちだけしかできないのは不便だ。

 電話がないなら自分で伝書鳥を持った方がいい気がしたので、海神の帳面で魔法の伝書鳥を生み出す事にした。


 デザインを考えた時にやはり可愛いくて綺麗な方がいいなって、幸せの青い鳥を描いてみた。

 ちまみに言葉を話せるタイプで必ずしも手紙をもたせる必要が無いタイプにした。



「俺の伝書鳥産まれたぁ!」

「名前はどうするんだ?」


 見守ってくれていたジェラルドが訊いてきた。


「えーと、ピーちゃん」

「小鳥を見ると全部ピーちゃん呼ばわりするやつを何人か知っている」

「あはは! 分かりやすくていいかと」



 俺に動物の名前の名付けセンスを期待しないでくれ。










 






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