第71話 夏のお祭り
「夜中に騒がしいと思ったら、そんな事になっていたのか」
「すまんな、まさかああなるとは」
俺は家に帰ってから、翌朝、夜中の騒動の件をジェラルドに報告した。
「全裸にしただけで見逃すなんてショータは甘すぎると思うけどね」
「だけどあまり過剰に制裁して恨みをかうと、店やお前達に後々何かあると困し、ほら問題ない商品にありもしない不備をでっちあげて噂を流したりとかさ。とにかくミラは無事だったし、あの日は仕事で戦力にはなってくれてたし、トータルであんまり損はしてないっていうか」
「まあ、お前がそれでいいならいいが」
* *
狐男カイによるミラの誘拐事件の後も、何事もなかったように日常は続く。
朝からダチョウに似たルルエと、犬のラッキーの餌を用意して、自分達のご飯も作って食べる。
カフェ営業も始まるからしっかりと食べなくては。
カフェの営業分のメニューであるが、数日間はフルーツポンチやクリームソーダを出したり、パンケーキと甘いのが苦手な人用にハンバーガーとポテトのセットを用意することになった。
新鮮フルーツならこちらの世界でも色々買えるし、フルーツポンチはカットフルーツにサイダーを混ぜて綺麗な器に入れて出せばいいから簡単。
四日ほどそんなメニューで回して、サイダーの在庫も無くなり、またも一旦閉めることになった。
「皆、お疲れ様!!」
俺は店のテーブルの上に料理と飲み物を並べた。
仲間へのねぎらいの為にビールと唐揚げとポテトと野菜スティックとチーズとバゲットなどを用意したのだ。
「お疲れ様ぁ、はー、冷えたお酒が美味しいわ」
「ふう、次の満月の仕入れまでまた休みの時期に入るな。俺はたまに冒険者ギルドの仕事などもいれるが」
「俺はひとまずは錬金術師さんに会わないとだから、ジェラルド、伝書鳩を飛ばしてくれるかな?」
「ああ」
ジェラルドが庭に出て鳥を呼んでくれたので、俺は鳥の足にくくりつける手紙を用意した。
「ショータ、錬金術師さんてどんな人なの?」
「えっと……黒髪で賢そうな人だな」
「ふーん」
あえて女性だとは言ってない、なんとなく。
鳥を飛ばしたらしばらくして戻ってきた。
あちらからの手紙を確認したら、四日後に会うことになった。
わりと早いな。
さて、それまではどうしようかな。
と、思っていたら、ミレナが一枚のチラシを出して来た。
「これはどう? 錬金術師と合うまで少し時間あるでしょ?」
俺は手にしたチラシを読んでみた。
「川魚のつかみ取り祭り? へー、浅瀬の囲いに集めた魚を手掴みで……」
「そうよ、肉の方が嬉しいけど、水に入ってバシャバシャやるの、夏らしいお祭りじゃない? そう遠くの開催地じゃないし、行けると思う」
「悪くないな、行ってみよう。ジェラルドはどうする?」
「今回は畑の様子を見に森の家に戻ったり、知り合いに会いに行くからまた次回があればな」
「そっか、じゃあ今回はミレナとミラとラッキーとで行ってくるな」
「ああ」
「あ、ジェラルド、賢者の家に預けてる人形に何か変化あったら教えてくれるかな?」
「もちろんだ」
そんな訳で、俺は後日、魚のつかみ取り祭りの会場となる、清流に来た。
快晴! いい天気で良かった!
かなり盛況な雰囲気だ。人が多い。
参加者は家族連れやらカップルなどが目立つ。
今日の俺の服装はめちゃくちゃ濡れるだろうから、下は水着を履いて挑む。
ミレナは上は俺があげた速乾性のTシャツを着て、下はショートパンツスタイルなんだが、その下は黒のビキニの水着を着ているみたいだ。
上の方の横紐だけちらっとはみ出て見えるから分かる。
セクシーだ。
これに後ろに専用の穴が空いてて、尻尾まで出てるわけだ。
これで前かがみになって魚を掴み取りするんだな。
尻尾をフリフリさせながら。
とりま自分の頭にカメラをセットしておく。
万が一、後で怒られたら消せばいいよな?
俺はただ祭りの様子を記録するだけなんだし!
「ミラもこれで祭りの様子を撮っておいてくれ、後でジェラルドも見られるように」
「はい、マスター」
ミラにも予備のカメラを預けておいた。
「ねー! 狐族の君、可愛いね! あと服装が珍しくね? その布地薄くない? 高いやつ?」
あ、やはりまたミレナが男にナンパされている。
ちょうど参加者達が川の側に集まってるところで。
「この服が高いかはよくわからないけど珍しい物よ、貰い物」
「え、それってもしや男がくれたりしてる?」
「そうよ、そこにいるわ」
そう言ってミレナは俺を指差した。
「え? あれ? 普通のおじさんじゃん?」
普通のおじさんで悪かったな!
「俺の方が若いし体力もあるよ」
謎のアピールをするナンパ男。
でもあいつ若くて体格もいいけど、顎が割れてるな。いわゆるケツアゴってやつだ。
「若さと体力だけでは勝てないと思うわ」
「腕利きの商人ってことかな?」
「そうね、貴族のお嬢様方が仕入れた商品に夢中になるくらいのね」
「な、なんだって!? お貴族様が!?」
「そうよ」
何故か自分がドヤるミレナだった。
そして、
「これより魚の掴み祭りを開催します! 参加者の皆さん、楽しんで下さいね!」
爽やかな青空の下、祭りの開催を知らせる声が響いた。
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