第61話 買い物と小さな親孝行。

 飛び込み騒ぎの後は何事もなく帰ることができた。

 用心棒のジェラルドとミレナの二人は楽で良かったと喜んでいた。さもありなん。


 船から降りて皆で屋台の串焼きを食べて、それから馬車の停留所で馬車を待ち、やっと来た馬車に乗って途中で仮眠をとりつつ家に着いた。


「さて、仕事しないとなぁ」



 画像編集と画像につける小説を考えないと。

 作画の労力がほぼ省ける分は楽が出来るが。


 俺がせっせと自室で作業をしていると、ミラが部屋に入って来た。

 手に持っているお皿にはカットされたスターフルーツがのせてあった。



「ミラ、自分の分をカットしたのか?」

「はい、マスターに食べて欲しくて」

「そうか、ありがとう」



 自分で食べられないから俺にくれたのか。

 俺はせめてと思って、食べる前に星の形をしている可愛いスターフルーツをスマホのカメラで撮影した。

 日本に帰った時にポストカードにするとかプリントアウトして残せるようにしようか。


 ふと、思い出して海神の帳面を開き、カバンではなく、亜空間収納の風呂敷タイプを描いてみた。



「で、出来た!!」


 すっげー得した!!


 伯爵様はオークションで高値で買ったそうなのに申し訳ない。

 これで日本に戻った時の仕入れも捗る!

 伯爵令嬢にはもう借りなくても大丈夫だと知らせるために伝書鳩を飛ばしておく。


 ブレスレットで通信可能なのは仲間内だけだから。



 しばらく仕事をしながら満月を待ち、その日の朝。


「また、七日くらいあちらで仕入れ頑張るかもしれないが、皆、留守場を頼むぞ」

「ワフ!」

「はい」


「七日もかかるの?」

「通販もするかもしれないから」

「ふーん」


「気をつけてな、無事に戻れよ」

「ありがとうジェラルド」



 また満月の夜に巨樹の元に来た。

 なんとミレナとミラとラッキーが見送りに来てくれた。

 案外気にしてくれてるんだな、ミレナも。



「じゃあ行ってくるな、ミレナ、ミラとラッキーを頼むぞ」

「分かってるわ」

「マスター、お気をつけて……」


 ミラが少し、いやだいぶ寂しそうだ。


「ああ」

 


 そう言って俺は未練を断ち切るように大樹に手を触れた。



「「行ってらっしゃい」」

「ワフ!」



 なんだか少しこそばゆい気分になって、俺はミレナ達に見送られながら日本に帰った。

 押入れから這い出て、背筋を伸ばすように伸びをする。



「ふー、戻った! そして売上げ確認」



 パソコンの前に移動し、椅子に座ってパソコンを立ち上げる為に電源をポチッとな。

 パソコンが立ち上がる間にスマホの電源を入れ、たまっていたメッセージを受け取る。


 俺が知人に必要なメッセージに返信をすると返事が遅すぎる未読無視が多いのは何でかと聞かれる。


 電波の届かないくそ田舎や海外にいたと言い訳を返信する。 

 パソコンが立ち上がったので同人誌販売サイトにアクセスした。



「……うん、まだちゃんと売れてるな。良かった」


 売上げの確認をし、新しい作品の登録と、ネットサイトにて必要な商品を通販でポチポチとする。

 顕微鏡、あちらに帰る前に届いてくれよ。


 その後にスターフルーツの写真と、花粉の写真をポストカードにプリントし、スターフルーツは光沢のある紙にもプリントした。

 光沢紙のプリント方は星型にくり抜いて、ミニトレイに乗せ、自分の引き出しにそっと入れた。


 後、忘れてはいけないものが鼻炎薬、定番のティッシュ類。


 ドラッグストアとコンビニなら夜でも開いてるから、ひとまずはシャワーを浴びた。


 服を着替えて急いで髪を乾かしだが、まだ生乾きのままだけどはやる気持ちがあって外に出た。

 風呂上がりでも夏なので寒くない。


 宅配ボックスから通販等の箱を引き取り、魔法の風呂敷にささっと入れた。


 そして原付きバイクでドラッグストアとコンビニに行き、買い出しをした。


 翌日、実家の母の元へ帰り、玄関口でタラサで買ったお土産の真珠のネックレスをあげた。

 そして気がついたが、親父の分が何も無いな。


「まー、どうしたの、いきなり!」


 息子の珍しい行動に母親が驚いている。

 いつもありがとうの気持ち?

 自立前に散々お世話になってきたから? 

 

 姉貴はよく、男の子はカブトムシだと思う事にしてると言っていた。

 あまりにもアホで手がかり、注意してもすぐなにかやらかすから。


 育児お疲れ様、殺さなくてえらい。


 ……ともかく母相手に今更すぎるセリフも照れくさいので適当に言い訳を。


「真珠の安い海外に行ったから、お土産だよ、この後はすぐ姉貴のとこにも届けに行く」

「あら、忙しないわね」

「なんだ、翔太、帰ってきたのか」


「ちょっとお土産渡しに寄っただけだよ、親父の分は何も思いつかないからお小遣いで、はい」


 俺は財布から三万円を出して親父に渡した。  

 雑ですまないが、金貰って嫌な人はいないだろ。


「おお、なんだ、ついに息子からお小遣いが貰えたぞ、母さん!」

「翔太の仕事、調子いいのね?」

「まあね!」 


 どんな仕事かとか詳しく聞かれたくないので急いで退散し、次は結婚して実家を出ている姉のいる家に向かった。




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