第38話 仕入れから戻った

 俺は通販で買った物の到着を待つため、五日ほど日本に滞在していた。

 洗濯などの家事もしつつ、色々と仕入れをした。

 五日目の昼間に雑貨屋さんでオルゴール、そして屋台で焼き鳥も買った。


 焼き鳥はお土産でオルゴールは店の飾り兼BGMだ!


 押し入れから大樹を経由し、人目を避けるために早朝に戻ると、大樹の側に降り立つその時に、



「お帰り」

「うわ! ミレナ! 何してんだお前!」

「迎えに来てやったのよ! 三日経っても戻らないから」

「私もいます」



 あ! ドールのミラまで! 

 日本は安全なのでミラはこっちに置いて来たんだった。


 そして近くにミレナのものらしきテントまであった!

 わざわざ数日間もテントで張り込みを!?

 初夏の朝だし、寒くはないだろうが。



「た、ただいま」

「お土産……」


 狐娘が犬のように尻尾を振っている!

 期待に満ちた目で!

 いち早くお土産が欲しくてこんなとこで待ってたのか!?

 


「はいはい、でもジェラルドがまだいないんだよな」

「なんでエルフがいないとお土産が出せないのよ」

「だって食べ物は皆で食べたほうが、あ! レースのリボン付きの髪ゴムをやるよ!」


 俺は魔法の鞄から出したヘアアクセサリーをミレナに渡した。


「綺麗」


 ミレナは早速もらった白いリボン付きの髪ゴムでポニーテールを作った。


「髪上げるのいいじゃん、夏らしくて」

「えへへ」



 ミレナが照れ笑いをしてる。

 かわいい反応もたまにする。


 俺はキャンプ用のミニテーブルと椅子をミレナのテント近くに設置した。



 テーブルの上にりんごとオレンジジュースを用意し、更にコンビニのサンドイッチを朝食用に出した。


 見た目も綺麗なフルーツサンドをミレナにやったら、とても綺麗だとはしゃいでいた。



「これ、食べるのがもったいないくらい綺麗」

「食べないともったいないくらい美味しいかもしれんぞ」

「た、食べるわ!」


「さて、俺はツナとハムチーズと卵のミックスサンドだ、やはり卵から、うめぇ~」

「この人間、ヤギみたいな声を出して……あ、甘い、美味しい」



 食後しばらくしてキャンプセットやテントを片付け、移動スクロールを使おうとしたら、ミレナが寄りたい場所があると行ったので、徒歩でそこまで行った。


 道すがら水牛とすれ違う。

 近くの人が畑を耕す為に飼っているやつだろう。

 のどかな田舎の風景だ。


 川っぺりまで来たら、眼の前の木に大きな果実がぶら下がっていた。黄色いのと緑色のとある。


 サイズ的に俺の手のひらより大きいからザボン並みかな。


 ミレナがつま先立ちで黄色い果実に手を飛ばしてる、が、届かない。

 俺は手に持っていた鞄を二つ地面に降ろした。


「そこの黄色いのを取ればいいんだな?」

「そう!」


 五個ほど黄色い果実だけ収穫し、ミレナに渡した。

 緑色のも放っておけばそのうち熟れるだろう。

 ミレナは果実を二つ俺に返してくれたので、魔法の鞄に入れた。



 川ではアヒルや鴨達が煌めく陽光の下を悠々と泳いでいた。

 夏の川っぺりは爽やかでいいな。



「もう移動スクロールを使ってもいいわよ」

「ああ、魔法を発動させるから俺の体の一部を掴んでおけ、一応」

「え、ええ」


 俺は鞄を3つも持ってるから手は繋げない。

 ミレナは俺の左腕を掴んだ。


 俺が移動スクロールを手と口でビリっと破ると、魔法は正しく発動し、あらかじめ印をつけた場所まで転移した。


 店の裏手の所に魔法陣を描いた板が置いてある。

 そこから俺達は出てきた。


 しかし発動の為には破るって使い方がもったい気がするのだが、一度使うと使えなくなる仕様だから仕方ないのか。


「お、ショータお帰り」

「ただいま、ジェラルド!」

「狐もどこに行ったかと思えば一緒か」

「迎えに行ったのよ!」


「ジェラルドは、もう朝食を食べたのか?」

「ああ、簡単に豆スープとパンを」

「済んだんだな、じゃあ昼に一緒に焼き鳥を食べよう。さしあたって店の棚に商品を補充してから」

「ああ」



 ジェラルドがそう言って白いシャツを腕まくりした瞬間に思い出す。



「あ、ごめん、先にソーラーパネルを設置しよう」


 俺は風呂敷のような魔法陣の描かれた敷布を広げてソーラーパネルなどの大きな品を取り出した。



「何よそれ」

「このパネルで太陽の光を集めてそれをエネルギー源にして動かしたいものを動かすんだ」

「ふーん、魔石に魔力を注入するみたいなものかしら」

「まあ、多分そんなもん」


 ソーラーパネルの設置が終わってから店の方に行ったが、ティッシュって嵩張るんだよな。

 店の屋根裏と、ミレナの魔法の鞄にもティッシュの在庫を入れて貰った。

 どうせすぐに売れるけど。


 店の裏手に我々の家の方にもティッシュとトイレットペーパーとキッチンペーパーをいくつか置いておく。

 これらは生活必需品だし。


 簡易的なマネキンも今回は買ってきたので、雑貨屋の店内に設置した。

 そして、それに通販で買っておいた水着を着せた。


「それが今回売る新しい下着? 小花柄がかわいいけどあの繊細なレースはついてないのね」

「下着も仕入れてるけどこれは水着だよ。

これからせっかく本格的な夏が来るんだし」

「水着?」


 ミレナの疑問に答えるため説明をする。


「服を着たまま泳ぐと危険だし、俺の世界では水場で泳ぐ時は皆こういう水着を着る。あ、女子はな! 男はもっと短いズボンみたいな形のものだけど」

「ほとんど下着じゃない」


 俺がマネキンに着せてるのはビキニだったせいか、ミレナがジト目で見てくる。



「素材が違うんだ! 布面積が下着に゙近いけど」

「まあ、このままで着るのが恥ずかしいなら、水に入る前はラッシュガード、上着を羽織ったりしてだな」


「貴族のお嬢様がこんなの買うかしら?」

「貴族のお嬢様だって暑い夏は水に入って涼しく過ごしたいはずだ」

「まあ、いいわ、売れなくても知らないわよ」

「まあ、売り物は他にもあるしな! あ、店内に綺麗な音楽が流れるようにオルゴールも買ってきたぞ」


 メリーゴーランドのような見た目で馬がくるくる回るオルゴールを俺は鞄から取り出した。

 ネジを回してやると綺麗な曲が流れ出す。



「ふーん、それは綺麗でかわいいじゃないの」



 俺がミレナに説明している最中もジェラルドとミラは黙々と商品を棚に陳列してくれている。



「ジェラルド、商品が売り切れたら海か川に遊びに行こうぜ、俺達用の水着もちゃんとあるし」

「ああ、いいぞ」

「ちょっと待って、私は?」

「ミレナの水着も一応用意してあるけど、恥ずかしいんだろ?」

「むむ……」


 俺が一応ミレナ用に渡した水着は黒いビキニだった。

 セクシー系だが、似合う気がしたんだ。



「黒……」

「え? 花柄がいいなら売り物のと取り替えてもいいぞ? 花柄に黄色にオレンジ、赤に青に金色まである」


「金色は目立ち過ぎないか?」


 ジェラルドが首を傾げた。


「金色はセクシーだから男に見せつけるなら効果的だ、きっとモテる!」

「だいぶハレンチではないか?」

「うーん、俺がゴールドの水着がセクシーで好きなんだが、水商売の女の子にあげたほうがいいかなぁ」

「まあ、最終的に決めるのは客だな」

「確かに」


 俺がジェラルドの言葉に頷くと、


「貴族のお嬢様なんて既に婚約者がいるでしょうに……」


 ミレナがそんな事をポツリと言った。


「ああ、そういやそうか! 婚約者なー!」


 婚約破棄から始まるラノベや漫画、いっぱいあったなぁ、などと俺は日本の作品を思い浮かべた。

 あ、令嬢と言えば収納魔法の布は使用後返却だったわ! 貴重品だし、すぐ返却に行こう。
















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