第36話 休み
「何を書いてるの?」
朝から黒板にチョークで文字入れをしてる俺にミレナが声をかけてきた。
「売り物仕入れの為、正式オープンは来月と書いた」
「ショータ、プレオープンで売り物が無くなったとか、どうするんだ?」
ジェラルドが野菜を抱えて現れた。
朝市で買い物に行ってたらしい。
「貴族の購買力がやばいんだよ、休みにするしかなくないか?」
「じゃあ今日は何をするの?」
「せっかく休みだしマッタリと温泉とか行きたいな、どこか近場に温かいお湯が湧き出てるとこを知らないか?」
「お湯じゃないけど俺の知り合いのやっているハーブの蒸し風呂ならあるぞ」
「薬草サウナかぁ、それもデトックスになるし、血流も良くなりそうだし、悪くないな」
俺は血流を気にする年頃である。
俺とジェラルドとミレナの三人は薬草サウナの体験できる場所へ向かった。
ドールのミラもトートバッグの中にいる。
森の中の広い湖の側にその場所はあった。
趣のある白い石壁の小屋が少し離れて二つ建っている。
男性用と女性用で分かれてるようだ。
しかし、俺達の他に客はいなかった。
「タマリンドの葉には潰瘍や赤子の汗疹や炎症を抑える効果もあり、バイマックルーは老化予防や美肌効果などでこのバイトゥーイは美味しいお茶にもなるし緑色の染料にもなります」
店主の男性が簡単に薬草の説明をしてくれた。
「ふむふむ、なるほど」
ハーブは地球のと同じものがある。
何故か名前まで同じなのも助かるな。
サウナの仕組みは釜の中に鍋があって薬草がグツグツ煮られ、蒸気が出てパイプを通過して部屋にいくというもの。
煮出した薬草の蒸気を使ってのスチームサウナだ。
地球のタイにも有名なハーブサウナがあったよな。
「今なら貸し切り状態ですよ、ゆっくりしていってください」
と、店主が言ってくれたし、そうしようと思う。
俺達は脱衣所で服を脱ぎ、腰に布を巻いて扉と次にカーテンをくぐってサウナに入った。
今度は水着を用意しようかな。
サウナ中は腰布でいいけど、この後湖にドボンするらしいから。
あ、一応ミレナにも水着を買うか。
ハブると多分拗ねるからな。
木製の簀の子のような椅子に座っていると、木の隙間から登ってくる蒸気に薬草の成分が混じっていて、レモングラスの爽やかな香りが、蒸気に乗って室内に広がってくる。
「あー、いい香りだな」
カチャリ。
しばらくジェラルドと二人でスチームサウナを満喫してると、サウナを覗きに来たやつがいる。
「きゃぁ~っ! 覗きぃ!」
俺はわざとらしい悲鳴を上げた。
むっわぁ〜〜っ!!と、熱された空気がミレナが開けた空間から外に漏れる。
「私だけハブられたんだけど」
「女性は仕方ないだろ! 男も半裸になるんだから、君は女性用に入りなさい」
「むー」
「むーじゃないから」
「早く扉を閉めろよ、薬草成分が逃げる」
いつもクールなジェラルドである。
狐とジェラルドがにらみ合う。
お前らリラックスしろ!
「あー、これはデトックスになるよな」
「デトックスって何よ」
「えと、体に貯まる毒素のようなものを出すことかな」
「いつ毒にやられたのよ!?」
「日々、生きてるだけで徐々に体に貯まるから普通に」
「えー」
「いつまで覗いてるんだ、このスケベな狐は」
「ふん!!」
ミレナが諦めて扉を閉めた。
淋しいのか。
次回用に水着を買ってきてやれば良かったかな?
いやしかし、蒸し風呂で汗だくの女子が目の前にいたら目の毒だ。
でも夏だし、海とか湖とか川遊びもいいだろう。
売り物が無くなったら休みになる店だし。
たまに水分補給にハーブティーなど、飲んでサウナを満喫した。
しばらくして、熱くなりすぎた体をクールダウンさせるため、湖に飛び込んだ。
西洋っぽい!!
この流れ西洋っぽい!!
せっかく異世界に来たんだし、日本以外の雰囲気が味わえてよきかなぁ~。
あ、やばい、腰布が取れた。
慌てて水に浮く腰布を取る俺。
しばらく湖で泳いで遊んだ。
少し放れ場所に竹で作られた衝立のような物があり、その向こうでバシャっと水音がした。
おそらくはミレナが湖に入ったんだろう。
水着がないとポロリしそうだが、大丈夫かな?
俺はさっき水中でボロンしたけど、まああっちは一人だから大丈夫かな。
「あっちの離れたところの小島にレストランが見えるだろ? この後は船に乗って小島に渡れば湖で取れた魚料理が食えるがどうする?」
「あー、食べる食べる」
現地料理も楽しみだ!
服を着てから俺はジェラルドと船に乗ってレストランに向かうことにした。
先にレストランに向かうとミラにミレナへの伝言を頼んだ。
湖を眺めながらお食事のできるレストランだが、
遠目でサウナから飛び出てはしゃぐ客も見えてしまうのではないか?
まあ、遠目ならセーフか?
俺はメニューを見た。
好物がある。
「あ、魚以外に豚の腸詰めもあるじゃん」
「魚が苦手な人もいるからな」
「とりあえずエールを頼むかな温いのが残念だが」
「氷が魔法の鞄に入ってるからエールに入れてみるか? 味が薄まると思うけど」
「入れてみよう」
豚の腸詰めと魚料理とエールを三人分頼んだ。
料理が届く頃にはミレナとミラも到着した。
ドールのミラはミレナの肩に乗っていた。
小さいから歩くと歩幅が違うせいだろう。
俺はエールの杯に氷をぶち込んだ。
これで少しは冷えるだろう。
三人で、エールの杯を軽くぶつけた。
「「「乾杯!」」」
「ところでなんの乾杯だったの?」
ノリと流れだよ。
「えーと、プレオープン完売御礼と休みにとか?」
「そうだ、売り物が無くなったんだ」
「休み早すぎて笑うわぁ」
翌日だからな。
魚料理はハーブを使って焼いてあるし、臭みもなくて良かった。
「うん、魚料理、美味しい」
「氷入りのエールもいける」
「腸詰めが美味しいわ」
美味しく楽しく食事をした。
しばらくして物を食べられないミラは俺の膝の上によじ登って来た。
傍から見たら変な趣味の男になる見えるかもしれないが、まあいいや。
俺は娘を抱っこする父親の気分だった。
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