第32話 休憩中

 さて、軽く埃を払って、俺は疲れた体をソファに預けて休憩モードに突入。


 ウエットティッシュをポケットから出してテーブルを拭き、その上には魔法の鞄から簡単に食えるものをいくつか出した。


 ペットボトルの飲み物のオレンジジュースと麦茶を三本ずつ。

 食べ物は菓子パン、惣菜パン、とおにぎりをそれぞれ三つずつ置いた。


 菓子パンはメロンパンとチョココロネ、惣菜パンはピザっぽいパンとマヨコーンというハイカロリー祭り。


 おにぎりは明太子、昆布、梅、ツナ、鮭がある。


「二人共、好きなのを飲んだり食べたりするといいぞ、あ、そこの濡れたティッシュ、柔らかい紙で手を拭いてから」 


「はーい」

「わかった」

「お、この紙はしっとりとしてて柔らかいな」

「贅沢品じゃないの?」

「俺の故郷じゃ普通だよ、使い捨て終わったらゴミバコな」

「「……!!」」


 普通は手を洗うか濡れた布巾を使うのだろう二人は一瞬カルチャーショックを受けていた。


 しかし、すぐに興味は飲みものと食べ物に移ったようだ。


「私、飲み物はこのオレンジ色ので、パンはこれを食べてみよ」


 ミレナが選んだのはオレンジジュースとチョココロネだった。

 チョコの存在にいち早く気がついたのか。

 目ざといな。俺はくすりと小さく笑った。



「むう、この蓋はどうやって開けるの!?」

「貸してみ、ここはひねるんだ。右、時計まわりに回すように、閉めるときは逆回転」

「「へー」」


 俺は手首を時計まわりに回す仕草を見せてから、 実際にオレンジジュースのキャップを開けてみせた。

 ジェラルドもオレンジジュースを手にして、俺の見様見真似でペットボトルのキャップを開けた。

 パンはピザパンを選んだようだ。


「甘っ! このパン甘いわ! ……あ、飛び出る!」


チョココロネのチョコが反対側から漏れ出すのを慌てて手で抑えるミレナ。


「柔らかいチョコが入ってるからな、気をつけろよ」


 俺はウエットテッシュをまた一枚とってミレナに渡そうとしたが、ミレナは手のひらをペロっと舐めた。

 もったいないから舐めたのか。

 淑女としては失格だが、まあ、食べ物は大事よな。

 ここは楽しく食べてもらう為にマナーは見逃す事にした。



「……チョコ美味しい……パンもふんわり柔らかいし」


「俺の選んだこのパンはしっかりとした味がついてるな」

「ピザパンな、ジェラルドには味が濃すぎた?」

「いや、食える、大丈夫だ」


 俺は麦茶と明太子おにぎりを手にした。

 軽く食事をしつつ、考えごとをする。



 カフェをやるとすると、冷蔵庫や照明などの問題がある。


 魔法の鞄は本人しか開けないように魔法の登録があった。言霊を使うのと血でやるのと二種あった。


 譲渡の際の再登録時は譲る人と一緒にやらないといけないらしい。

 盗難防止の為。

 でも血のやつでやってたら殺してから血を奪う事も可能だから、音声による言霊のほうが多い。


 魔道具が万が一目が飛び出るほど高価なら、ソーラーパネルとポータブル電源でも買って持ち込むか?

 照明はひとまず電池のLEDで凌ぐかな、それか

 日中だけ営業ならランプでどうにかなるかな。


 あ、そうだ、洗濯機!

 手洗いが怠いがどうしようか。

 パンツだけでも洗いたいし小さいの買うか?

 コンパクト折りたたみ洗濯機って簡易なやつもあったよな。

 赤ちゃんの衣類や下着小物を洗えるとかいうやつ。

 値段は三千円くらいだった気がする。

 ユー◯ューバーが使っていて値段を調べた事がある。


 繁盛しまくってからならランドリーメイドを雇う手もあるが過酷な仕事よな、手が荒れるし。

 夏はともかく冬とかは寒さもある。


 服とか入らないサイズは月一の仕入れの時にコインランドリーにつっこんで洗うも出来るかな。

 お値段のいい衣装ならクリーニング屋だけど。


 クリーニングと言えば最近はネット予約でキャシュレス決済のコインランドリーがあるよな。

 コインいらないけど。


 月が変わって満月になって日本に戻ったらソッコー洗濯予約して洗濯中に買い物しよう。


 などと考えていたら急にミレナが叫んだ。



「!! 酸っぱい!!」


 ミレナがまじで酸っぱい! って顔をしてる。

 眉根を寄せて、尻尾もブワッと逆立ってておもろい。



「あ、ミレナお前、梅干しおにぎりを食ったんだな、それは酸っぱいけど腐ってないから飲み込んで大丈夫だ、そういう食べ物なんだ」


「特殊な味なら先に言いなさいよぉ……っ!」

「ごめん、ごめん、ほら、おにぎりにはオレンジジュースよりお茶が合うぞ」


 俺は麦茶の蓋を開けてミレナに渡した。


 ミレナはまだ渋そうな顔でお茶を受け取って、勢いよく飲んだ。


「ぷはぁ、ハア、ハア」


 梅干しがそんなにショッキングか?


「俺も挑んで見るか」

 ジェラルドも梅干しおにぎりを手にした。

 おっと、チャレンジャーだな。


「真ん中の赤いのが酸っぱいぞ」

「ああ」

「今頃注意して……」


 ミレナが俺を責めてくるがスルーした。

 ジェラルドの反応を見守る!

 エルフが梅干しおにぎりを食べた!


「……先に酸っぱいと分っていればどうと言うこともないな、普通に美味いぞ」

「えー、つまんない! 悶えると思ったのに!」


 俺もエルフが酸っぱい顔をしているのに興味はあったが、今日もジェラルドの美貌は崩れなかった。


「ははは、残念だったな、狐の」

「む〜」


「そういや店の二階の雑貨屋さんだが、ミレナも新しいパーティ探しが上手くいってないなら、俺の店を手伝ってくれないか? 空き部屋も三つはあるし、住み込みも可能」


 ミレナの耳と尻尾がピン! と、立った。



「なんで二階の雑貨屋の方なの?」

「それは俺も可愛い女の子を看板娘にしてたカフェは素敵だと思うが、二階には女性用の美しい下着も売るからさ、男の俺の接客では嫌だと思う女性も多いだろうし」


「美しい下着?」

「あー、こういうのだよ」


 俺は百円ショップのサッカー台にあった、無料の通販雑誌を貰って来たやつを魔法の鞄から出し、下着のページを開いて見せた。


「こういうやつな」

「!! 綺麗!!」

「だろう、貴族の令嬢もその手の美しいレースに目がないからな、で、二階の売り子やって見る気になったか?」

「わ、私にもくれるなら、やってあげてもいいわよ」

「いいぞ」

「本当!?」


 俺は今度は現物を鞄から出した。


「既にあるんじゃないの!」

「請われもしないうちから、恋人でも嫁でもない女性相手に下着やるよとは、流石に言えないからさ」

「どうやってつけるの? これ、下はわかるけど上は」

「え?」


 じゃあ今はノーブラだってことか!?


 えーと、ちょっと待てよ、なんかスマホに動画無かったか?

 いや、ブラをつけるシーンの動画などは保存した記憶はないな。

 揺らしてるとこしかない。


 仕方ない、くそ恥ずかしいが自分で実演解説をしたほうが早い……、



「まずこうやって、ブラを手にして少し前かがみになり……胸を寄せるように、こう、脇に肉が流れないように、前の方にだな、そんでブラを胸に当てて後ろのホックを止める、が、俺には止まらん! 幅が足りない!」


「くっ、あはははっ! す、すまん、耐えようとし、し、たんだが、ま、真面目に女性の下着の付け方を教えてるのが、お、面白くて!」


 笑うジェラルド。


「ぷ、く……っ、アハハハ!」


 ついにミレナまで笑いだした!


「お前が訊くから解説したんだぞ! ミレナ! ……くっ、ハハハッ」

   



 結局俺まで一緒に笑ってしまった。

 爆笑して腹が痛い!


 しばらくして、「下のカフェのウェイターも必要だな」と、俺が漏らすと、

「じゃあ下は俺が手伝ってやるよ、ひと月に一回はたまにギルドで仕事を受けないと冒険者資格が剥奪されるから、なんか簡単な依頼を受ける時に休みをもらうが」


「本当か!? 休みはもちろんとってくれ!

 美形エルフのウェイターなんてお嬢様方が喜ぶだろうな! ありがたいよ!」

「えーじゃあ二階は私一人なの?」

「あ、さみしいのか? じゃあもう一人女性の店員さんを募集するか」

「女が増えるの!? それは嫌!」


 自分のテリトリーに同性の女がいるのは嫌なのか?


「え、じゃあ男の人を」

「むー」


 ミレナがそれも不服そうな顔をした。


「男も嫌なのかよ、どうしろと」

「既に既婚者、年配の女性ならどうなんだ? 狐娘は若い女が嫌なんじゃないか?」

「あー、主婦か、しかしさしあたっては、えーと」


 会話途中で俺の服の裾をくいくいと引っぱる存在がいた。

 下に。

 ドールのミラだ。


「基本的にはマスターの護衛で側にいますが、私ならたまに上を見に行けます」

「なるほど、ミラか! ミレナも小さなお人形さんなら許してくれるよな!?」

「分かったわ、お人形なら」


 そんな訳で下のカフェの厨房と会計に俺、ウェイターがジェラルド、二階の雑貨屋さんにミレナ、それとたまにミラで決定した。



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