第30話 店と家
朝になって外に出ると、テントの側に植物の蔦で編んだカゴとその中に朝露に濡れた黄色と緑の柑橘系フルーツと眠り草がわさっと置いてあった。
俺が眠り草を集めていたのを知っているのはミレナとジェラルドくらいなはず。
まさか──ゴン、いや、ミレナ、お前だったのか?
昨日の夜の気配の正体は。
どうりでミラが飛び出さないし、戦闘態勢にならないと思った。
俺は魔法の鞄からペットボトルの炭酸水を出して飲んだ。
軽くコンビニで買った小さな四角いチーズを一個だけ食べてから、テントを片付けた。
後はテント側に置かれてたフルーツや眠り草を魔法の鞄に入れて、カゴだけ手持ちして森を歩いた。
ジェラルドの大きな木の家を目指して。
森の中を進みつつ、途中で大きなツルリとしたバナナに似た葉っぱを見つけた。
その茎をナタで切り落としカゴに敷いて、それから薬草や木の実を収穫し、カゴに入れた。
葉があれば小さな木の実もカゴの隙間から落ちないから。
木の家を着いたら庭にはジェラルドがいた。
朝一の野菜を摘んでいるようだ。
「ジェラルド! おはよう!」
「おかえり、ショータ、山菜集めをしてたのか?」
「ここに来る途中にあるものをな。ところで俺のテント前にフルーツと眠り草をカゴに入れて置いてたのはジェラルドじゃないよな?」
「お前のテントがあれば普通に声をかけるよ、俺じゃない」
「だよなぁ」
木の家の中に入ってから、本格的に朝食にすることにした。
俺は魔法の鞄からカゴノ中にあった果実を取り出した。
「ところでこの緑の丸い果実はカボスに見えるけど、酸っぱい系かな?」
「ああ、酸っぱいよ、そっちの丸く黄色い果実は甘い」
「なるほど、酸味があるならレモンみたいに使えそうだ」
「今日は何を食べるんだ?」
「今日は故郷で買ってきた物があるから、ローストビーフとサラダ」
サラダにはジェラルドの家の野菜、ドレッシングはおそらくはミレナがくれたカボスっぽい果物。
「この肉、なにやら贅沢な味だな、美味しい」
「そうか、美味しいなら良かった」
* * *
それから絵を描いたり売ったり、薬草を積んだりしつつ、数日経って、女騎士の伯爵令嬢が屋敷に来いと言っていた日になった。
ジェラルドはお嬢様と顔を合わせたくないみたいで、俺は一人で屋敷に向かった。
トートバッグにミラは入ってるけど。
すぐにお前の店に案内すると言って、お嬢様は馬車を走らせた。
「ここよ、二階建ての屋根裏付き、屋根裏は荷物を置き場に出来るわ」
こいつは三角屋根の可愛いお店!
「ありがとうございます! こんな立派なお店を!」
「元はカフェだったのだけど、老夫婦が引退したから売りに出ていたの」
「なるほど!」
「一階でカフェ、二階で雑貨を売れるようになさい」
「か、かしこまりました!」
二階に住める訳じゃないのか!?
「心配しないで、すぐ裏手に小さな家があるからそこに住みなさい」
「はっ! ありがたき幸せでございます!」
家がすぐ裏手に! ありがたい!!
案内して貰うと、家庭菜園も出来そうな庭付きだった。
洗濯物を干すスペースを確保してもまだ畑のスペースは取れる。
超ラッキー!
お嬢様は小さなと言ったけど、十分に広い。
貴族感覚だと小さいのだろうが。
俺はもうすぐ死ぬのかというくらいの幸運に少し怖くなった。
我ながら小市民!!
俺はまだ残していたチョコレートをお嬢様にお礼として渡した。
パッケージがそのままだけど、仕方ない。
「アーモンド入りのチョコレートです。今度はケーキをお持ちします」
「これも見知らぬ文字が書いてあるけど、お前の持ってくるものは美味しいから、鑑定鏡をお父様から借りて、後でいただくわね」
「はい!」
「掃除などは己でやってちょうだい。開店準備ができたらすぐに知らせるように」
「かしこまりました!」
そう言うとお嬢様はこの2軒の土地と家の権利書と鍵の入った封筒を俺に渡し、馬車に乗って帰って行った。
俺は権利書の入った封筒を抱きしめながら、小走りで店と自宅を一通り見てまわり、満足した。
多少のホコリなどはあるけど、そんなに大掛かりで手間のかかる掃除はいらなそうだ。
とりあえずこの家をジェラルドに教えたいので、荷馬車に乗った。
荷台の荷物の隙間に入れてもらっている訳だ。
行き先の都合で荷馬車を乗り継ぎ、森の入口がある村まで俺も伝書鳩がほしいなと思いつつ移動をしていたら、森まで行かずとも村にジェラルドがいた!
市場で買い物をしていたのだ。
「おーい! ジェラルド!」
俺の声に反応してジェラルドが振り返った。
俺達はそこで合流できた。
「おお、ついに家が決まったか! どうだった?」
「とても立派なお店と家だった!
掃除して店の二階部分に雑貨を置く棚とかを置くといい感じになりそうだった、いつでも遊びに来てくれよ!」
「じゃあ今から掃除を手伝いに行こうか」
「え、いいのか?」
「あ、でもショータが移動疲れしてたら明日でいいけどな」
「……行こうか! まだ動ける!」
「じゃあ行くか」
ふと、視線を感じた。
フードを被った女性が木の陰からこちらを伺っていた。
フードから狐色の髪が見えてる。
「おい、ミレナだろ! 薬草と果物をくれたのは! ありがとう! 掃除が終わったら家に招待してやるからな!」
「……私の家も知らないくせにどうすんのよ!」
「あ、そうだった」
「掃除を手伝ってあげるから、私も連れて行きなさいよ!」
これが……ツンデレ?
「わかった! じゃあ一緒に行こう!」
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