第26話 実家のお人形

 

 また満月の日に大樹から日本に移動した俺は押し入れから這い出し、パソコンの前に移動。


 ゲーミングチェアに座り、早速売り上げのチェックだ。


 前回ネットのショップで販売したコスプレ風エロ画像集のシナリオ付きも、ファンタジー背景資料素材集も売れ行き好調だった。

 よしよし! 新たな資金ゲット!


 そしてコンビニでコンドームやお土産を買ってから、翌朝は電車で地元の親の住んでいる実家に帰った。


 その家は二階建ての普通の家で、庭にはオカンの趣味の家庭菜園がある。

 夏野菜の緑の葉や茎が伸びて育ってきている。

 収穫ももうすぐってとこか。


 父は知り合いの家に遊びに行っていて、顔は見れなかったが母は在宅中だった。



「あんた帰るなら連絡くらいしなさいよ、食事の用意とかあるでしょ」

「ちょっといるもの取りに戻っただけだし、あるもんでいいよ。

 なければその辺のコンビニで買うし」

「もー!」



 それからオカンにいつ結婚するの? いい人いないの?

 とか痛い事を言われ、俺は慌てて階段を駆け上がり、二階にある自分の部屋に逃げ込んだ。


 部屋の中をぐるりと見回すと、俺が一人暮らしになっても出でいったままの状態を維持してくれてるようだった。



 クローゼットのドールを久しぶりに出した。


「長くかまってなくてごめんな」


 今日は新しい服を買ってやるからな。

 しばらく自分の部屋で売れそうな物を物色していたら、


「ご飯よ!」


 久しぶりに実家の母のご飯よ! のコールを聞いた。


 実家の母が作ってくれたのはラーメンだった。


 自家製チャーシューともやしとワカメときくらげ入りのラーメンを美味しく食べた。



「相変わらずチャーシューは美味え」

「予め帰るって言ってくれたら好物の餃子でも作ってやったのに」

「チャーシューも好きだからいいよ」


「まったくもう。

 あ、翔太、あんたせっかく帰ってきたなら帰る前に脱衣所の電球を替えてちょうだい。

 最近は腕が上まで上がらないの」



 四十肩とか五十肩みたいなアレか。



「ああ、分かったよ、替えとく」



 食後にチカチカする脱衣所の電球を取り替え、その後でまた一人暮らしの街に帰った。



 そして街中の家電店で動画を撮れるカメラを買い、それからドールショップに向かった。

 そこで新しいドールのドレスを買った。

 フリルにレースに華やかな装飾がついていて、まるで貴族のお嬢様のような華麗なドレスだ。


 これを貴族のお嬢様に売れば、きっと俺より可愛がってくれるはず!


 一人暮らしの家に帰ってドールを着せ替えて、ひとまずリュックに入れた。


 後は一人暮らしで不眠症の友人宅に遊びに行ってもいいかスマホで連絡をとる。


 眠り草の茶を飲ませる為に彼の家まで遊びに行った。

 友人は前に見た時より痩せててげっそりしてた。


「今からおまえに寝付きのよくなるお茶を飲ませてやりたいんだが、飲むか?」

「寝れるなら何でもいいよ、ありがとうショータ」


 体調不良で休職中ゆえ、いつ寝てもいいけど最近は睡眠薬もあまり効かないと言っていた。


 お茶は予め作って水筒に容れてきて、飲ませてみた。


 しばらく雑談していたら、眠そうな顔になっている。つまり瞼が重そうでトロンとしてる。



「せっかく眠気が来たようだし、用事あるからこの辺で帰るよ」

「ありがとう、またな」



 また仕入れた荷物を抱えて押し入れから異世界に移動し、ジェラルドの木の家に迎えてもらった。



 そして……んん?

 夜中に……物音がする。

 俺は今夜もジェラルドの家の長椅子をベッドにして寝ていたんだが、カバンのある方向からガサゴソ音がする。


 ジェラルドが水でも飲みに一階の台所に来てるのかと思ったら、違った!!


 夜中に動いていたもの、それは俺が日本から持ってきた、長く押し入れに寝かせておいたドールだった!

 リュックに入れてたはずがどうやってか、出てた。



「ホラーやんけ!! なんで動いてる!?」


 怪奇現象には大声が効くらしいから、俺は思わず叫んだ。


「私を売ろうとしたのね、マスター」


 ヒッ!! 怒ってる!!


「ご、ごめんな、押し入れに入れっぱなしより、可愛がってくれる女の子に引き取って貰った方が君にとってもいいかと思って!」


「夜中に何を騷いでるかと思えば」


 二階から階段を使い、ジェラルドが降りてきた。


「ごめんジェラルド! 人形が動いたあげく喋ってるんだ!」

「ここは賢者の作った魔法の家だから、魔力に満ちているんだ。人型の物を置くとそういう事もあるだろう」


「マジで!? 別に呪いの人形とかじゃなくても

 動くのか!? 先に言ってほしかった!」

「俺もまさか男のショータがそんなに精巧な人形を持ってるとは思っていなかった」


「球体関節人形はポーズつけられるからデッサンモデルにって昔買ってたんだ!」

「それで、どうするんだ?」


 こんな生きて動いてるみたいな状態で人に渡せないし、お焚き上げも無理そう!


「どこにもやらないで、私はマスターの役に立つから」


 ドールはキラキラの瞳でこっちを見てる。

 俺が元からキラキラのドールアイをはめ込んでるせいだが。



「え、どうやって!?」

「戦闘」

「戦闘!?」

「用心棒になる」


「ほう、戦闘能力があるのか」


 しかし、お人形さんがナイフとか持って振り回したら

 絵面がかなりホラーではなかろうか?



「今なら魔法が使える気がするの」

「どんなのか知らないが、家の中で魔法はやめてくれ」


 ジェラルドがすかさずドールを制止した。


「外で必要な時に使う、ところでマスター、私に名前を」

「つけてやれよ、ショータ」



 お、お人形の用心棒が急に爆誕して、さらに名前を!?



「そ、そんな急に」

「ひどい……」

「わあ! ごめん! じゃあ、えっと、ミラ!」

「私、ミラ」



 そう、急に動き出してミラクル過ぎるからミラ!


 俺に名前をもらったミラは嬉しそうに笑った。


 メイクされた顔は固定されていたはずのドールなのに、なぜ表情まで変わるのか?

 …………俺はもはや考えるのをやめた。

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