第24話 唐揚げと冷たいビール
「夜はミレナのお土産のチキンを使って料理するよ」
「じゃあお前は夕食時にまた来るといい」
つまりジェラルドの言いたいことは夕飯時まで外で働いてこいと言うことかな?
「分かったわよ!」
ジェラルドは自分の恋人以外の女が自分の家とかパーソナルスペースに長居するのを嫌うタイプなのかもな。
しかし男にモテるミレナにしてはプライドを傷つけられてそうだけど、きっとこれは食べに来るな。
美味しいものへの誘惑に勝てない的な意味で。
ミレナが肩をいからせ、ジェラルドの家の敷地内なら出て行った。
まあミレナも未婚の女性なんだったら、男ばかりのとこに長居するのは確かに将来的に困る可能性はあるからなぁ。
変な噂が流れた時に困る。
ここ、ミレナ以外にあまり来客を見ないけど。
「そうだ、ジェラルド、質問がある」
「なんだ?」
「伯爵令嬢のような金持ちの令嬢に売りたい物があるんだが、いきなり平民が屋敷に行っても通して貰えるものかな? まず手紙とか予約いる?」
「ショータの場合は既に食事を出してて顔見知りではあるから、門番にそう伝えたらどうだ?
いい物を手に入れたのでぜひ見ていただきたくとか、言ってな」
「じゃあその手で行くか、今から伯爵家に行ってもでも夕食までに帰れると思うか?」
「それは距離的に厳しいから明日にしたらどうだ?」
やっぱり空でも飛ばない限りは無理だな。
「分かった。夕食の時間まで俺はまた売り物の絵を描くよ、あるいは庭仕事で手伝える事があれば」
「庭仕事は俺だけで大丈夫だから絵を描いておくといい」
「了解」
ミレナはまた森で薬草摘みかな?
でも魔法の鞄なしではそんなにたくさんは持てないだろうし、一旦家に帰るのかな?
そしてジェラルドはまた庭仕事に戻り、俺はしばらく絵を描いてから、夕食の準備にとりかかった。
夕闇が迫る頃。
「来たわよ!」
また外からミレナの声が聞こえた。
パーティ解散してるらしいが、一人で何の仕事をしてたんだろう?
聞いてみよう。
「ミレナか、夕刻まで今度は何の仕事をしてきたんだ?」
「摘んだ薬草を薬草店に買い取って貰いに行ったわ」
「あー、なるほど、ギルドじゃなくてもそういう所でも買い取って貰えるんだな」
「ギルドの依頼ならギルドに納品だけど急に摘んだだけだもの」
「なるほど」
「夕食は何?」
そう言いつつミレナは庭にあるウッドデッキの丸いテーブルセットに向かい、椅子に座った。
ジェラルドも手を洗って席についた。
「今夜のメニューは唐揚げとバゲットだよ。バゲットにはクリームチーズがあるからそれを」
「カラアゲって?」
「ただの揚げ物料理だよ。旅行先でオリーブオイルも安かったし」
「ふーん、とりあえず美味しければいいわ」
どうやら唐揚げを知らないらしい。
俺は揚げたての唐揚げをテーブルの中央の大皿に盛ったし、三人分の皿にも唐揚げを取り分けて出しているし、バゲットも二枚ずつは皿に、残りはバスケットに入ってる。
万が一凄い勢いで食べて自分の分が無くなると悲しいので。
「この唐揚げ用スパイスをかけるとマジで美味い、でもこってり系が苦手ならレモンをかけてもいいぞ。
しかしまずはそのまま食べて、一個だけレモンをかけて自分がどちらを好むか探ればいい」
俺は半分に切ったレモンも二人の皿に入れて置いてる。
俺は唐揚げにレモンはいらない派なので、スライスレモンを水に入れてる。
「なるほど、ところで似た料理が二つあるが」
「鶏皮の唐揚げと身の唐揚げだよ、部位が違うだけ」
「なるほどね、ひとまずはいただくわ!」
それぞれ唐揚げをぱくりと一口食べた。
俺も好物の鶏皮の唐揚げを真っ先に食べた。
二人は皮ではなく大きい身の方を口に入れた。
うめぇ~!! 鶏皮やっぱりうめぇ~!
「んん……肉汁がじゅわっと……美味しいわ」
ミレナは口を押さえつつ感想を言ってくれた。
「ほー、外はカリッとしてるのに中は軟かいな、とてもいい味だが、せっかくだし、レモンもかけてみるか」
半分に切ったレモンも軽く絞って唐揚げにかけるジェラルドとミレナ。
そして実食。
「うん、悪くないがレモン汁がなくても十分に美味いな」
「レモンはなくても良いみたい、ショータもかけてないし、
あ、このなめらかなチーズも美味しい!」
「美味しい唐揚げスパイスがあるから俺もそれで十分なんだが、レモンをかけてさっぱりいただきたい人もいるから。あ、そのクリームチーズ、蜂蜜かけても美味しいぞ」
蜂蜜はジェラルドが出してくれて、バゲットにクリームチーズを乗せ、そしてその上に少し蜂蜜を垂らしてバゲットをいただく。
「むう、どれもこれも美味しいわ」
「唐揚げにはちょいにんにくも仕込みの段階で使ってるから、後で夜中にデートとかするなら歯をしっかり磨いて、更にりんごジュースでも飲んだ方がいいぞ」
獣人は鼻が利きそうだし。
「誰が誰とデートするのよ?」
「ミレナが男に凄くモテるらしいから、食後に会う約束でもしてたらと」
「別に!」
特に相手を決めてるわけでもないのか。
だから余計にいろんな男にから粉かけられてんじゃなかろうか?
まあ、ミレナのやることだし、俺がとやかく言うのもな。
「そういえばお前も魔法の鞄を買ったんだな?」
ジェラルドがさり気なく木箱の上に置かれたミレナの赤い鞄に注目した。
以前は見たことなかった鞄だ。
あれも魔法の鞄か。
「魔道具屋で鞄を見てたら偶然前のパーティのリーダーに会ったのよ。私がパーティを追い出された責任を感じたから、中古のやつだし、あまり容量は多くはないけど役に立つだろうってくれたの」
プレゼントか!
「ところでミレナのパーティは全員解散分裂じゃなかったのか?」
「私以外のメンツでまた固まったみたい、シーフも新しい人が入ってるって」
一人だけハブられてちょっと可哀想だな。
土魔法女のしわざか?
俺は興味本位でつっこんで訊いてみた。
「その新しいシーフって女か?」
「男だって、もーどうでもいいけど! 貰える物は貰っておくわ!」
「ともかく鞄は良かったな、高級品だし」
ジェラルドがそう言ったら、
「まあね、でも飲み屋あたりで私が少し働けば客のおっさんがもっといい新品を貢いでくれるとは思うけどぉ」
などと言うミレナ。
そ、そういうとこが敵を作るんじゃないかな?
あまり男を惑わず悪い女になるんじゃない。
「ミレナは夜の水商売の女じゃなくて冒険者なんだから、ひとまず中古でもいいと思うぞ、鞄の色も赤くてかわいし! 華やかなミレナに似合ってる」
「まあね、ありがと」
ミレナは俺の下手な褒め言葉でもまんざらではない表情だった。
「これ皮の方も美味しいな、エールに合う」
いつの間にかジェラルドはエールを飲んでいた!
「あ! 狡い!」
ミレナが叫んだが、家主だから別に狡くもないのでは?
「そういやビール、俺も買ってたわ、やるから落ち着け」
「ほんと!?」
魔法の鞄から日本で買って来たビールを三本出して、それぞれの前に一本ずつ置いた。
「ほら」
「冷たい!」
缶はよく冷えたままだった。
「冷えてる方が美味しいからな、どれ、ここをつまんで開けるんだよ」
俺はプシュっとプルタックを開けてみせた。
「へえ、こうか」
ジェラルドも見様見真似で自分が貰ったビールを開けて、一口飲んだ。
「わあ! なにこれ美味しい! こんなの飲んだら今まで私が飲んでた、あのぬるいエールは何だったのかしら!」
「喉越しがいいな、程よい苦みがまたいい」
「お気にめしてよかったよ」
「ショータ、これ残り飲んでいいぞ」
ジェラルドが飲み残しの、さっきまで飲んでたぬるいエールをくれた。ウケル。
そっちはもういいのかよ。
「鶏の皮もすっごく美味しい! でももうない!」
「皮の量は身より少ないから……すまんな」
俺は謝りつつ苦笑した。
もう二人共、日本のビールと唐揚げの方に夢中みたいだ。
この味を知って戻れなくなったらどうしような?
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