違和感の正体

一色 サラ

孤独の違和感

 実宵みよいは会社の帰り道に、ポツンとイベントなどが貼られている掲示板に目に入った。「生きづらさの女子会の集まり」と書かれて、心の声を聴きませんかと問いかけるような言葉が書かれている。それをスマホを向けて写真を撮った。


2日後の土曜日、事前予約なしの参加無料だ。実宵自身、生きづらさという言葉から逃げていた。でもやっぱりヒントぐらいはほしい。行かない理由など、いくらでも思いついてしまう。頭を軽くして、電車に乗った。揺られること30分、徒歩10分でキツツナ市民会館についた。


 入口に愛想笑いのおばさんが、紙に「年齢とどこから来たのかと書いてほしい」と言われ、言われるがまま、名前と住んでいる市を書いた。会場に入ると年齢層が高く、実宵の30代くらいの年齢層はそんなにいない感じがした。仲のいい人たちではない。すべての人が警戒しているような空気が流れている。何人かは話しているが、親子連れのような50代と20代~30代の組み合わせだ。ここまで、親連れてくるんだと、気持ちが萎えるような気分になった。実宵は一番後ろの席に座った。徐々に人が集まり20人が室内と覆っている。女子会と言いながら、男性の姿もあった。誰も説明もないが、たぶん心が女性だという人かもしれない。


「こんばんは、本日はたくさんの人に集まっていただき...」

 主催者の女性が、話を始める。最初に30分ほどは体験者の話、そのあとはグループごとに20分ほど2.3回のディスカッションをするという2時間程度の構成であることを説明している。

 主催者が体験者として、スマホを片手に立って、生い立ちから話が始まった。「高校でなじめず、大学の提出物を完成できず、期限に提出できなかったことが多く退学した」など生きづらい人生の話が流れて行く。「この会に参加して、色んな人と関わり前に進もうと思えた」という内容だった。


 休憩を挟んで、テーマごとに分かれてグループごとにディスカッションだった。帰りたい気持ちと、どこかでディスカッションを目的に来たのではないのかと思い始めた。単純にただ座って人の話を聞くような講演会に参加したかったわけではない。

 

テーマごとにグループごとにディスカッションする。年齢、仕事、人間関係などのテーマに分かれて話をする。

人間関係のグループに座ってしまった。自己紹介をして、何に悩んでいるかを話していく。松田という50代の人が話し始めた。 「私はずっといつも1人で、これからも1人でいいと思ってます。仕事が終わって仕事帰りに誰からも誘われないんです。まあ仕事上良好な関係でいたいので、忘年会に行くんですか。それかも誰からも誘われたことはないです。誘っても大丈夫という気持ちなんですけど。」

 1人でいいと言いながら、誰かに誘ってほしい。自分からは誘わない。矛盾を感じる内容だ。忘年会などに参加したからと言って、誘われるわけではないのではと違和感が浮かんでくる。

「そうなんですか、大変ですね。すごく頑張ってると思います」

同じようなに50代のカナブンと名乗る人が言った。でも違和感がある。実宵は聞いてみた。

「松田さんと、連絡先交換しないんですか?」

「そういう話ではなくて」

やっぱり、変に違和感が残ってしまう。共感はしている。ああ、この人達って、松田の同僚と同じなんだ。同じ職場に居ても松田とは仲良くはしないということだ。

「自分勝手ですね」

ポロリと実宵は言ってしまった。

「まあ、若いから」

「そうね。若い人には分からないのよ。」

 35歳って、若いのかな。50代からしたら若いのだろうが、なんか嫌な感じがする。

「年齢のせいなんですか」

 なんだろうこの人たちは何だろう、気持ち悪いと思ってしまった。

「私たちとは考えの次元が違うみたいで」

 すべて、実宵の責任にはしようする。この人たちは全部自分のやっていることが間違っているなんて微塵も感じていないのだろう。

 「あっ、そうですか。帰ります。」

全部を人の責任してくるこの空気に耐え兼ねなくなり、逃げるように会館を出た。

生きづらさ会の違和感は、偽りの関係性、嘘の集まり。自分よがり人達の集まりだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

違和感の正体 一色 サラ @Saku89make

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る