第10話 リヴァルとのティータイム(前編)

 ヤレヤレ、どうしてそんなことでもめるのかしら?


 帝都の新年の宴にて、兄エルナンドが次代の皇帝となることが発表されました。


 しかしその道筋において、皇帝陛下と父の公爵の意見が一致せずもめているのです、はあ……。


 兄が即位するのは決定事項ですが、そのために皇帝の養子になって即位するのか、それとも、系譜が皇弟であるノヴィリエナ公爵のものとなってから即位するのかが問題だそうです。


 どっちでも兄が即位することは一緒じゃないですか。


 でも、それによって元皇太子のイスマイルの待遇が変わってくるのですね。


 エルナンドが現皇帝の養子になればイスマイルは皇弟となるので、臣籍降下してもその家門は皇位継承第一位の、帝都にて最も高貴な存在となります。

 これが、いったん現皇帝が自分の弟のノヴィリエナ公爵に皇帝の系譜を譲り渡したうえで兄が即位すると事情が変わってきます。


 母方の血筋を合わせれば、二位のプレトンシュや三位のトリアングルにも、より高貴な血の入った息子や息女が存在いたしまして、ゆえに単に位を退いた元皇帝の息子というだけでは、母の身分が低かったイスマイルは序列においてかなり下の地位になってしまうのです。


 

 別にお兄様が皇帝の養子になっても、こちらに損はないのだから、皇帝陛下の願いをかなえて差し上げればいいのに、お父さまったら意地になっちゃって……。


「私は別にノヴィリエナの家門が第二位になっても気にしないのにね」

 

 兄が継げなくなったのでノヴィリエナの家は娘の私が婿を取り継ぐことになります。


 父としてはその件だけでなく、私のエストゥードの降嫁に皇帝が賛成票を投じたことを根に持っているのです。

 まだイスマイル様が皇太子だった当時は皇位継承一位のノヴィリエナは皇帝にとって最大警戒対象。

 私を妃にという話もあったのですが、そうしたところで私が兄の方に肩入れし、イスマイル様を追いやるかもしれないと疑いをもたれていたのです。

 だから皇帝陛下は私を属州の王族に降嫁させようとしたのですね。

 



「アレンディナ様、そろそろお支度を」


 侍女が声をかけました。


 そうでした、今日はそれとは別件で頭の痛いことが……。


 皇位継承第二位でノヴィリエナとは犬猿の仲のプレトンシュのリヴァルから招待状を受け取っていたのです。


 二人きりのお茶会、いったい何を話すのでしょうか?


 私がエストゥードにいた当時、伝え聞いた噂によると、リヴァルはかなり皇太子のイスマイルに誘いをかけ自分の存在を誇示していたらしいです。

 婚約も時間の問題と言われていたようなので、彼が序列第何位になるかはリヴァルにとっても重要事項なのでしょう。

 父を説得してとか頼まれるのかしら?



「来てくださってうれしいわ、アレンディナ!」


 満面の笑みでお迎えくださいました。


 イスマイル様をめぐって火花を……。

 散らした覚えはないのですが、外野はそう見ていたので、なんとなくぎくしゃくしてしまった頃もありましたが、なんだかマリアンネも加えて三人で一緒にいたころのようです。


「それにしても、新年の宴の時のあなたの宣言と立ち回り、面白かったですわ!」


 それを蒸し返しますか!


 皆さま、お兄様の即位の件で、私のヴァカロ様に対する扇ペシペシと婚約解消宣言は、すっかり忘れられていたと思ったのに……。

 

 いや、ほんと、忘れてくださいませよ。


 婚約解消したことだけ覚えていて、あのパーティでの振る舞いは忘れていただきたいです。


 私だってやりたくてやったわけではないのですから。


「えっと、リヴァル様……」


「様はいらないわ、昔のようにお互い名前呼びで行きたいわ」


 含みのあるような微笑を彼女は私に向けました。


 さてさて、どんな話が飛び出すのでしょうか?

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