第6話 アレンディナ、皇帝陛下に謁見
「そなたも息災でなによりだ、アレンディナ」
ダンテーレ皇帝陛下の言葉に私は深々と頭を下げ礼を言いました。
「エストゥードでは大変だったようじゃな」
「はい、陛下や皆様から勧めていただいた殿方と良き関係が築けず申しわけなく思っております」
これは言葉通りの意味ではありませんわよ。
あなた方が勧めたろくでもない男のせいで、私はめちゃくちゃ苦労したじゃないの、どうしてくれるの、と、言う意味です。
もちろん帝国貴族の頂点に立つ皇帝陛下は察することができるので、複雑な表情を浮かべてらっしゃいますわね。
「エストゥード王太子の収穫祭でのことは報告を受けた。その後、そなたの父からも文書が届けられて考えたのだが、どうしてもわからぬ」
皇帝陛下は手持ち無沙汰にあごひげを撫でながらおっしゃいました。
「『わからぬ』とはなにがでしょうか?」
「これはどう考えてもわが帝国への宣戦布告ではないのか?」
「いえ、あの宣言はヴァカロ殿の独断でなされたことゆえ、エストゥードの総意ではないと父親の国王様もおっしゃっておりました」
「しかし、跡継ぎの王太子じゃぞ。その者が帝国の決めた婚約に対して、あのように大勢の人間が集う場で破棄する宣言をしたのだ。これは帝国との今までの取り決めを破棄するとの意思表示とみてもさしつかえないのではないのか?」
「お待ちください!そこまで大げさなことではなく、そもそも国王様の方は……」
「うむ、エストゥードでは王家の親子同士で政治的対立でもあるのか?」
「そう言ったことでは……」
どう説明すればいいのでしょう?
おそらくヴァカロ様は考え無しにただ私をやりこめたかっただけでしょう。
馬鹿の考えをまじめに思考する者にわからせるのは骨が折れます。
「皇帝陛下、この件について、軍事行動など大げさなことは必要ございません。私に任せていただければ、新年のパーティの際にも、帝国の恥をそそいでご覧入れましょう」
私の申し出に皇帝は、ふむ、と、考えを巡らせておられました。
「そなたがそれでいいなら、新年のパーティまで待とうかの。エストゥードを見張らせておるが、特に目立った動きはないようだしの」
「はい、例年通り、かの王家の者たちも帝都に招待しパーティに出席させてくださいませ」
「あい、わかった。そなたに任せる。ただそれ以上は、帝国がメンツをつぶされたことに腹を立てている者たちを抑えることはできぬからの。そなたとて、あのような仕打ちを受けてかの地に情けをかける理由があるのか?」
「エストゥードの民は温かく迎えてくれましたゆえ」
そう申し上げて私は退出しました。
はあ、とにかく、意見を受け入れてもらえてよかったわ。
謁見の間から退出し、ほっとしながら歩いていた私にまたまた厄介な方が……。
「やあ、アレンディア、久しぶり」
「皇太子殿下もお変わりなく」
「その、君の周辺がいろいろと騒がしいようだが……?」
「皇太子殿下にまでご心配していただけるとは!」
わざとらしく感動の意を伝えました。
「だから僕は反対したんだ、アレンディナの降嫁を!」
「まあ、皇太子殿下には先見の明がおありですのね。私や皇帝陛下も予見できなかったヴァカロ様の残念なお人柄を、帝都に評判が広まっていないうちからご存じだったなんて!」
盛大な皮肉を言ってやりました。
「いや、そういう意味じゃ……」
「それでは私はこれにて」
華麗にお辞儀をしたのち、そそくさと皇太子殿下から離れていきました。
マリアンネ様の結婚が決まった後、皇太子殿下の妃には私とプレトンシュのリヴァル様しか候補がいませんでした。
巷のうわさじゃ、皇太子殿下は私の方に気持ちを寄せているなんてことも言われておりました。
だからプレトンシュ公爵は焦って、私の降嫁を提案したのでしょう。
本当に私のことが好きなら、私の結婚の話が議題に上がったときに皇帝陛下に進言すればよかったのよ。
それはしなかったくせに、いまになって好意なんだか、同情なんだか、よくわからない態度を見せられても対応に困りますわね。
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