第4話 ノヴィリエナ公爵家の話し合い
帝国には他国と違う独特の結婚観と皇位継承のやり方があります。
他国では王の血統が途絶えないために一夫多妻制を推奨するところが多いですが、わが帝国では神殿の教えを守り一夫一妻制が厳密に守られています。
もちろん、愛人を持つ貴族は男女を問わずいますが、神殿が認めた正式な結婚で生まれた子しか家督を相続する権利がないのです。
そしてそれは皇帝の位でも一緒です。
それでは一夫多妻制より生まれてくる子の数は少なくなるでしょう。
だからこそ正式な結婚でできた子は大切にされ、臣籍降下する際も皇位継承権のある公爵となるのです。
公爵家の者は男女を問わず皆皇位継承権がありますが、属領や他国の貴族と結婚するとそれを失います。
これは、別に他国や属領の者を排斥しようとしているのではなく、特定の国や地域を皇帝が差別することがないようにするための配慮と言われております。
フラティール公爵が属領のホアナ様を娶られたのは、皇位継承はもうあきらめたからでしょう。
家門の序列で言うと第五位ですからね。
おそらく次の代では侯爵となられるのでしょう。
「『五番手』の家のホアナと言い、あの属領は帝国の序列などわかってないのではないか?」
兄は言いました。
かつてホアナ様が私に扇を叩きつけたこと。
それをもってヴァカロ様が私に『反省』を促したこと。
すでに父や兄には手紙で知らせていますが、そのことについて言っているのでしょう。
『五番手』などとそんな意地の悪い言い方をする方ではないのに、あの件では私以上に腹を立てているように見えます。
「まさかホアナ殿は帝国の序列について知らなかったのではあるまいな?」
父が首をかしげながら言いました。
「たしかにホアナ様の振る舞いは弟嫁をしつけてあげるといった認識のもとなされた感じでした。ヴァカロ様も同じだったような……」
姉の方が年長、弟の嫁格下、ホアナ様の頭の中はもしかしてこのような形だったのでしょうか?
皇位継承権は失うものの、嫁いでも帝国内での私の序列は変わらないというのに!
「公爵家に嫁いで三年は立っておるぞ、まさか!」
考えられないという表情を父がしました。
「ご両親の国王夫妻は理解しておられたと思います。エストゥードについてからはこちらが恐縮するくらい気を使っていただきましたから」
そうです。
単に私が帝国の上位者であったからというだけでなく、根が親切な方々で、できるだけ早く私がかの地になれるよういろいろ気を使っていただきました。
ですから私も、エストゥードの気候や文化、そして特産品など一生懸命勉強し、民と触れ合う機会のある視察を州都の近隣だけでしたが引き受けたのです。
本来なら、年老いてきた両親に変わり、王太子殿下がそろそろ代わりを勤めねばならないはずです。
しかし、ヴァカロ様はそれを面倒くさがり、王宮から動こうとされないので私が代わりに出かけたのです。
そして、姉であるホアナ様達の訪問に対する対応も、まったく何もせず、もてなしが行き届かなかった責任を、ヴァカロ様の代わりに視察に出かけていた私に押し付けるとは!
もちろんそのいきさつも父や兄に手紙で知らせております。
「あの姉弟が、もてなしの件でアレンディナに責任をかぶせ叱責したなんて、序列がなくてもとんでもない話じゃないか? 頭の出来が残念にもほどがあるぞ」
兄がその件についても言及しました。
「たしかに思考力に難があるとしか言いようがない。プレトンシュめ、よくもこんな事故物件を!」
父も忌々しげにつぶやきました。
「アレンディナほどではないが、見た目だけはよかったですからね、あの姉弟は……」
兄もため息をつきました。
ヴァカロ様の見た目の良さだけではなく、地政学的にもエストゥードは重要な地域でした。
海がある半島に出るための重要拠点であり、平和裏に領土に加えることができたのは帝国にとって大きな収穫でした。だからこそ、その王家との婚姻は重要だとプレトンシュ公爵に言われれば、反論することができなかったのです。
「だが、これだけのやらかしを繰り返せば、婚約解消を願い出るのは可能であろう」
確かにそうです。
序列を無視した身内の振る舞いをとがめることをせず、婚約者を無視して他の女性と交際し、そしてあのパーティ会場での宣言。
父は皇帝陛下に上奏文をまとめ、それを早馬で帝都に送ることにしました。
そして、一日休憩をとった後、父と一緒に私は帝都に戻ります。
兄は収穫シーズンがまだ終わっていないので、残って領地の監督です。
一緒に帰れないことを残念がっていましたけどね。
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