第11話 悪い子には処刑

「なんだよこの興奮。これが神か?」


「うーん。期待してるんじゃないか?」


「期待って……」


 ハクアの処刑が決まった。


 せっかくデスゲームは終わっているのだし、魔物達にも見てもらいたいが……。


 そうだ。


「さ、行こうぜ」


「嫌だよ。こんなダンジョンの中、ウロウロしてたまるか」


 だが、処刑場へ連れて行こうとする俺の手を、ハクアは無礼にも叩いてきた。


「……。バックアップの癖に人殺しに成り下がったお前に、ピッタリの処刑を与えてやるよ」


「お、おい。やめ! 離せ!」







 準備完了。


「ほら、お前一人で支えてみろよ。バックアップだろ。縁の下の力持ちってやつだ。ピッタリじゃないか」


「ふざ、けるな。もう、支えてる。なんだこれ。大岩の上に魔物って、ふざけてるのか」


「ふざけてないさ。真剣だよ」


 ハクアの言葉通り、今ハクアは、魔物が大量に乗った大岩を支えている。


 もちろん比喩ではなく物理的にだ。


 しかし、バックアップと言いつつも、それなりに力はあるらしい。


 大岩だけで一軒家ほどの大きさはある。その上に数え切れない程の魔物が乗っているのだ。


 ベテランと言われるだけあり、バックアップしかできないという訳ではないらしい。


 そうでなきゃ、俺に剣を突き刺すなんて事もできなかっただろうからな。


「なあお前、バックアップが好きなんだろ? だったら、魔物のバックアップをしといてくれよ」


「無茶言うな。なんだこの量は」


「お前が倒した魔物の量、かな?」


「……。何で、何で僕が、魔物なんかを支えなくちゃならないんだよ」


「じゃあいいよ。手を離せば」


「え?」


「岩を投げれば楽になれるよ? そんなに嫌なら、さっきパーティメンバーにやったみたいに、自分の役割を投げ出しちゃえばいいじゃん」


「ふんっ! わざわざそうやって言うってことは、どうせそれは罠なんだろ? 騙されないぞ」


「好きにすればいいさ。ま、諦めないなら、このまま続くだけだけどね」


 どこまで保つか見ものだが、この様子だと、処刑って事を忘れてるみたいだな。






 三十分経過。


「さっきも言ったが、いつ投げ出したっていいんだぞ?」


「本当だな?」


「え、なに? もう投げ出すの? へばるの早くない?」


「じょ、冗談だ。いつ終わるのか、それを確認しただけだ」


「終わりを確認するセリフには聞こえなかったけどぉ?」


「うるさい!」


 強がりって感じだが、今のところ余裕が見える。


 時間経過で少し慣れてきたのか、始めた時より、会話がスムーズな気がする。


「無理するなよ?」


「へっ。お前こそ、早々に逃げ出すなよ?」






 一時間経過。


「ねぇ。映えないんだけど」


「……」


「プルプルしてきてるよ? もう無理なんじゃない?」


「……」


「黙ってちゃつまんないよ? ま、顔真っ赤にしてるのは面白いけど」


 流石に慣れても限界が来たらしく、さっきから返事が返ってこない。


 黒子に徹してるって事だろうか。


「ふんー! ふんー!」


「え? なになに? 人間なら人の言葉話してほしいんだけど?」


「…………」


「またダンマリかよ」


 三十分までは俺の言葉に返す余裕もあったみたいだが、どうやらもうその余裕は無くなってきたらしい。


 このまま耐え切れずに潰れるか、それとも支え切るか、はたまた途中で投げ出してしまうか。


「終わりが楽しみになってきたなぁ」


「おわ、らねぇ!」


「喋れんじゃん! どう? 今、どんな気持ち?」


「……」


「また無視かよ!」






 三時間経過。


「もう無理!」


「あー! 投げ出した! 投げ出しちゃった!」


 ハクアは俺に乗せられ、今まで支えていた大岩を放り投げた。


「はあ、はあ、はあ。支えている時は死ぬかと思ったが、簡単に投げられたな。で、これのどこが処刑だったんだ?」


「お前、俺がいつ終わったって言ったよ」


「は?」


「俺は確かに投げてもいいって言ったが、それで終わりとは言ってないよな」


「……」


 ハクアの額に冷や汗が浮かぶ。


 ちょいちょいと、俺がハクアの後ろを指さすと、ハクアは恐る恐る振り向いた。


 その先には、支えられていた魔物達が、怒り心頭といった様子で唸っていた。


「おいおい。どうしてこっち向いてんだよ。それに、なんだこの雰囲気。さっきまで動いてなかったはずだろ」


「いやいや、そりゃそうじゃん。さっきまでは支えてくれてたから、感謝して支えられてたんだよ。でも、それを投げ出しちゃあねぇ?」


「なら、支えられてた分僕の事を支えろよ! 待て、こっちくんな!」


「彼らはかつて、誰かを支えてたんじゃないかな? だから、今度は支えられる側になった。どこかで聞いたような論理だろ? って、もう聞こえてないか。残念でしたー」


 頭が良さそうな立ち回りをしていたが、俺の考えの裏を読む余裕はなかったか。


 まあ、小さな体をみんなで分けてるから、不満も募りそうだけど、ご飯自体はダンジョンの中にもいっぱいあるからね。


 人間にさえ荒らされなければ、彼らが人間から身を守るために、力をつける必要はないんだし。


「さ、終わり終わり」


「良かったのか? これでは、今回のクリアはゼロだが」


「いいのいいの。ほら」


:人間の反応を見ているのは面白いな

:自らがしでかした過ちを他の形で伝えるとは、深い

:察することができれば、どうすればいいのか気づけたものを……。やはり、足りぬか


「あれなら多分出なくてもいいんだと思う」


「そうだな。ワタシとしても、魔物の現状を伝えられればそれでいい。それに、魔物達が、以前よりものびのびと生活できているのが嬉しい」


「それは良かった。今回のことで、俺も、魔物に懐かれる方だって気づけたし、収穫だったわ」


 まあでも、まさか人間の俺が、魔物に懐かれるとは思ってなかったけどなぁ。


「次はとうとうだろう?」


「ああ」


「ワタシ今なら、楽に誘い出せるぞ」


「ありがたい。力の感覚がわかってきた頃だしな。っと、その前に、デスゲームが終わったんだ。しっかり貰えるものは貰っておかないとな」


「そうしよう」

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