第9話 第二回デスゲーム 決着

 タカラシも、ようやく探索者らしく魔物を警戒しつつ移動するようになったか。


 そうだよ。恐れるのなら正しく恐れろって話だ。ダンジョンは遠足で来るような場所じゃないんだよ。


 さて、ハクアが見えてきたな。何やら笑っている様子だが、何か考えでも整理してたのか?


 ん? あれは……。


「ハクア。今、一人か?」


「見ればわかるだろ」


「そう、だよな……」


「何の用だよ」


「それは……」


 タカラシは、俺を一度睨みつけると、困ったように視線を泳がせた。


「さっさと言えよ」


「そうそう。どうせいずれ知る事になるんださ。それともあれか? 気づくまでは隠しておきたいって事か?」


「余計なこと言うな! ハクア、驚かないで聞いてくれ。……トモオが、死んだ」


「……。は……?」


 タカラシの言葉を聞くと、ハクアの顔が一気に険しくなった。


「なんだ? 自分で殺して白状しにきたのか? この人殺し。仲間との約束も破った挙句、平気で手にかけるなんてな」


「違う。そうじゃない。自爆だ。そこの壁は折り返しになってるんだ。それで……。だから、破壊しようとすると危ないって知らせに来たんだ」


「知ってて止めなかったのか? そいつの、協力者だから」


「へー? そんな風に考えるのか」


 タカラシは、一瞬、何を言っているのか理解できなかったらしく、キョトンと瞬きを繰り返した。


「アイツのあの反応、本当にそうなのか?」


 改めてハクアに問われると、タカラシは、首が取れるんじゃないかという勢いで首を横に振った。


「違う! 俺は協力者じゃない! 協力すべき時に何言ってるんだ!」


「なら、協力者じゃないって証拠がどこにある。偉そうに指図するなよ。お前はもう、リーダーでもなんでもないからな。こそこそカノンさんと付き合ってた、ただのクズ野郎だ。その癖、カノンさんのために死ねなかった意気地なしの卑怯者だ!」


「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ!」


「あるよ! 大アリだ。おい、ゲームマスター。一対一になったらどうなる?」


「そうか、そういうことか! 二人なら、もう殺し合う必要はないってことか!」


「お前には聞いてない」


「いいねいいね。片やデスゲームを誤認し、片や正しく認識してるってところか。そうだよ。一対一ならもちろん続くよ。これは、一人になるまで続くデスゲームだからな。生き残ったとか言ってる奴、一人だったろ」


 衝撃の告白、そう思っているのは、タカラシの方だけらしい。


 ハクアはまるで、俺の言葉を切望していたかのように、ニヤリと笑った。


「おいおい! それじゃただの殺し合いじゃねぇかよ!」


「まあな。ハナから一方的に殺される存在だった俺達からすりゃ、生き残れる可能性があるってだけ、優しいと思うけどなぁ?」


「なんだよそれ、お前、人間じゃないのかよ」


「人間だよ。だが、今思えば、人間だって思われてなかったのかもしれないけどな」


 まあ、元の俺なんて、もうどこにもいないがな。


「決着をつけよう。タカラシ」


「おい。落ち着けハクア。まさか、本気じゃないよな?」


「元から俺達の仲は良くなかった。そうだろ?」


「そんなこと……」


「ないって言えるのか?」


「……」


「そういうことだよ。いずれ何かの拍子に、壊れるような関係だったんだ。それが今になっただけ。なら、終わらせるだけだ。これ、お前なら何かわかるだろ?」


「……! いつの間に……。まさか、俺がここに来るまでの間に……!」


 ハクアが取り出したのは、俺が没収したものと同じ、遠距離用と思われる武器。


 俺達が来た時に隠した代物だろう。


 しかし、推定威力からして、俺の視界が奪われる可能性を考慮して、念の為奪っておいたが、完成品は一つだったはずだ。


 ということは、トモオの方に行っている間に、完成させたらしいな。


「先に僕の方に来られてたら危なかった。運ぶ都合、二つ目以降は、その場での組み立てというルールで運用してたからな。だが、向こうに行ってくれていて助かったよ。それに、同じバックアップだったから、トモオを巻き込むのは気が引けたが、自爆したってんなら、もう気にする事は何もない」


 男一人でもやっとという様子で、ハクアはタカラシに武器を向けた。


 すると、すぐにエネルギーが溜まり出した。


 台風のように、その場に立っていることも困難な暴風が吹き荒れ始めた。


 俺はドMじゃないんで、チャージが溜まる前に、当たらないところに避けさせてもらおうかな。


「よ、よせ。やめろ。そ、そうだ。ゲームマスターに撃てるだろ? だから」


「チームで対応する前にパーティが崩壊したんだ。たった二人で協力したとして、勝てっこない」


「ハクアはそこのリーダーより賢いねぇ」


「ま、待て。落ち着け。話をしよう。確かに、俺がこそこそ付き合ってたのは悪かった。謝る。な? だから、やり直そう」


「無理だよ! お前とはもうこれ以上やっていけない。カノンさんとの関係を知った時点で、僕はもう、お前を信用できない」


「やめ、やめてくれ! こんなのあいつの思う壺だろ。なあ!」


「黙れぇ! 一人でいい思いしてた奴がとやかく言うなよ。どうせ、僕達のいないところで、僕達を馬鹿にしてたんだろ! うわあああああ!」


「やめっ」


 タカラシ最後の悲鳴が言い終わる前に、チャージを終えたハクアは発射した。


 その瞬間、高密度のエネルギーが、タカラシめがけて真っ直ぐ放射された。


 地面が抉れ、大岩には穴が空き、そして、タカラシは塵一つとして残らなかった。


「おっそろしー」


「はあ、はあ、はあ。やったぞ。これで、僕一人だ。お望み通り、最後の一人になるまでやったぞ」


「マジかよ。本当にやりやがった。相変わらずよくやるよなぁ。二度目だけど感心するわ」


 しかし、色々と言ってた割には、スッキリしない顔してんなぁ。

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