第57話 さらに翌朝
さらに翌朝、悠里はようやく本格的に目が覚めた。
サイドテーブルにあるペットボトルの水を一口飲み、トイレに行って用を足し、そこでかなり身体が汗臭い事にようやく気が付いて、バスへ行ってシャワーを浴びた。シャワーから出るととりあえずバスローブに身を包み、サイドテーブルにある今開けたペットボトルとサンドウィッチをひとつつまんでテラスに出る。
悠里はテラスの椅子に座ってしばらく呆然としていたが、ようやく「昨夜」の事を思い出した。本当は一昨日の夜なのだが、悠里は丸一日寝てたのでその認識がない。
──つかれたというか
うまく言えないが、幼い頃、一生懸命覚えたダンスを本番でやりきった時に似た感覚に思えた。痛いとか気持ちいいとかではなく、本当に全力を尽くしたというか。
──でもよかったな
悠里は素直にそう思った。満たされるとか包まれるとかいろいろ聞いていたけど、それも含めて、こっちも全力で応えたというか、全力を引き出されたというか。ふと悠里はある事を思い出しておかしくなった。行為中に感じた事である。
──お願いしてるみたい
和樹は優しくも必死で悠里を抱いた。悠里の身体中を撫でまわし、舐めまわし、そうして身体を重ねて優しくも激しく悠里を揺さぶった。その時ふと見た和樹の表情が、まるで悠里に必死に何かを懇願しているように見えたのだ。
──まあそういう事なんだね
そう、あれが「セックス」なのだ。いやらしい意味でそう思ったのではない。それは交歓ではあるが、和樹が言った通り、本当に子供を作るための行為なのである。和樹の表情は、あれは男として必死に自分の種を女に託そうとしていた顔なのである。
──よしそこまでいうなら
産んでやろうじゃない。いや和樹の子供が欲しい。
このオランダ旅行でなんとなく悟った事だが、多分和樹が言った事──神の子というのも本当なのだろう。それがどういう意味だかは判らない。ただ私は彼とずっと一緒には居れないだろう。いつか私が先に死に、彼は永遠に生きていくのかも知れない。
それでも多分和樹は私が死ぬまでずっとそばに居てくれると思う。それでいい。それで充分だ。限りある人生を和樹と一緒に居たい──
「って、和樹どこいった?」
思わず声に出してしまう悠里だった。前述の通り、彼女は昨日一日中寝ていたのでその間の記憶がほぼない。従って彼女の最後の記憶では和樹と一緒にベッドに沈み込むように寝たはずなのである。あれ?
初体験を済ませ、乙女から女性になった悠里は、しかし元気いっぱいの女子高生であることには変わらず、詩的で耽美的な考えなどすぐに忘れ去って、現実の彼氏がどこへ行ったのかきょろきょろと探し回るのであった。
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