第51話 帰り道で
「すごい国ねここ」
帰り道で悠里は周囲の店を見ながらそう言った。
「匂いで大麻が判る女子高生は問題だなあ」
和樹は苦笑しながらそう言った。
今はまだ合法ではないが、オランダは大麻にも寛容な国である。寛容というか蔓延と言うべきなのかも知れないが。レストランを出て通りを歩いていたら、悠里が何か変な匂いがするねと言い、しばらく考えてそれが何だか判ったのだ。
「夜遊びしてる時に一度だけ吸わされた事がある」
悠里は正直に言った。半分は興味だったがもう半分は断りきれなかったのだ。そしてその一度の吸引で悠里は失神した。もし周りに人が居なかったらどうなってた事か。
「もう絶対にやりたくない」
幸いなことに悠里は大麻にはハマらなかった。
「それはよかった」
和樹は言った。あまり身体に良くないことはするべきではない。
「そん時に思いっきり胸もまれたんだよ!何が心臓マッサージだ!」
スプリッツァーで少し酔っ払っているのか悠里は語気強くそう言った。
「あらまあ」
和樹は苦笑してそういうしかなかった。
「くやしくないの?彼女が胸もまれたんだよ?」
酔った勢いなのかジト目で和樹を睨む悠里だった。和樹が何か言うより早く悠里は言葉を重ねた。
「あたしなんかどうなってもいいんか!」
いかん思ったより酒が悪い。まあまだ16歳の少女が4杯も飲んだのだ。ちょっと飲ませすぎたか。止めるべきだった。
「そんなことないよ」
和樹は優しくそう言って悠里を抱きしめた。とたんに悠里が静かになる。
「君は僕の大切な人だよ」
和樹は悠里の耳元で優しくそう囁いた。こういう時はイヤその頃はまだ知り合ってなかったし、などという正しく無粋な事は言うべきではないのだ。
「悠里」
和樹はそう言って悠里と唇を重ねた。いつものキスではなくフレンチキスである。
一般的に誤解されているが、フレンチキスとはいわゆるディープ・キスの事である。今まで和樹は気を使ってそういう事をしてこなかったが、酔っ払った悠里をなだめるためと、ようやく本格的なバカンスという意識が働き、ついに一歩踏み切ったのだ。
「…………」
悠里は和樹の両腕を掴み、和樹の情熱に応えてくれた。唇が離れてもお互いに口からはみ出た舌から唾が糸を引いた。
「悠里」
和樹は優しく、しかし真剣な顔で悠里を呼んだ。
「好きだよ」
その言葉で二人はまた唇を重ね、舌をからめた。
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