第32話 バーでの会話

「確かにかわいい彼女だな」

アランは苦笑しつつそう言った。


「だろ?」

和樹はちょっと嬉しそうにそう言った。


「でもさすがにネザーランドはないだろう」

アランは案外常識的な事を言った。


「アニバに車で行くほうがしんどいよ」

そう言って和樹はジントニックをオーダーした。


ここはアランが宿泊してるホテルのバーである。県内最高級と言っていいホテルだ。このバーだって席料チャージだけで2500円もするので、今和樹が着ているムジクロのTシャツより高いことになる。悠里に知られたらまた怒られそ。


「そのファン・ソーメレンって何をしてるんだ?」

自分の孫らしいが何度考えても誰の系統だか全く判らない。


「表向きは送った資料の通りだが」

アランはデュベルを飲み干してからそう言った。


「裏で他の庶子とつながり過ぎてる」

デュベルをお代わりしながそう言うアランだった。


「どうでもいいけど相変わらずビールばかりだな」

和樹は関係ない話をした。


「ワインはテイスティングするものだ」

今は違うが長年ソムリエとして過ごした者の矜持である。


「しかし、未だに居るんだねえ……」

和樹は呆れるというより何か懐かしむような声でそう言った。


「劣等感こそが選民意識を育むのさ」

アランはそう言ってそのナントカというベルギービールを飲んだ。


「そうしたら僕が行くのは逆効果じゃないか?」

和樹は懸念を言った。そのファン・ソーメレンという男がどれほどの力を持っているかは判らないが、嗣子が野心家の庶子を説得するなんて逆効果に思える。


「誰が行っても逆効果だよ」

アランは笑いながらあっさりそう言った。


「だから面倒事は系統の長が収めてくれって話」

アランはそう言ってデュベルを飲み干した。


「長って」

和樹はやや眉根を寄せた。


「みんな勝手に決めるんだからなあ」

そう言って和樹はジントニックをちびりと飲んだ。

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