第22話 ブラウスの恐怖

もちろん悠里は初デートでブランド品を買ってもらおうとするほど強欲な少女ではない。第一そんなの目立ってしょうがないし。一方で彼女は元芸能人なので、そういう物を見る目は同世代の少女より肥えている。


「あ、これかわいい……」

ふと白いブラウスに目が留まった。そして悠里はその意味にも気が付いた。


「うんいいね」

和樹もあっさりそういうが、悠里は和樹の腕を掴んで足早にその店舗の前を去った。


「あれ?」

和樹は意外そうに悠里に引っ張られる。


「いいの」

悠里はそう言ってエスカレーター前まで和樹を引っ張った。


悠里は知っていた。こんなに高級なブランド店舗がひしめく中で、一目でいいと思わせる商品がどれほどの値段がするのかを。


「プレゼントは嬉しいけど高すぎるのはやめて」

そういうところは極めて現実的な悠里であった。


「か……悠里は真面目だね」

和樹はやっと悠里を名前で呼んだ。


そして悠里は、このデパートに来るまでの和樹の紳士的な態度と、でもこの場違いなショッピングに連れてきた間抜けぶりと、たった今腕を掴んだ事と、ようやく自分を名前で呼んでくれた事で、急速に二人の距離が縮まったように感じた。

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