第19話 コート・ダジュール

アラン・ラブレはサマースーツに身を包んでラ・バスティード・ドゥ・ラマチュエルのプールサイドを訪れた。彼の主人がいまここに滞在しているのだ。


──いいところだけど

素晴らしいホテルだとは思うが、アランはもっと都会のホテルのほうが好きだった。もちろん何に困るわけではないだろうが、これは趣味の問題である。


ビーチベッドに寝そべる主人を見つけたので少し歩調を落として近づく。これは主人に気が付いてもらうための所作だ。別に声をかけてもいいのだが、それは些か無粋であるように思えた。


主人はアランに顔を向けるでもなく、サングラスを外すでもなく、声すらかけるでもなく、無言のままでアランに報告を促した。


「ネザーランドの動きが活発化しています」

アランがそう言っても主人は特に反応らしい反応を示さなかった。が、


「お祖父様からお説教されたほうがよさそうね」

それは独り言のようではあったが、サングラスを外してアランを見た事により命令に変わった。やれやれやっぱり俺が行くのか。めんどくせ。

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