第57話 お金が無いの! その8

 私は泣くのも忘れてお札とエルウッドさんをせわしなく交互に見る。


「えっ、あっ、えっ、コレ!?!?」


「これだけあれば、『デポ吉』返さなくても大丈夫だろ」とぶっきらぼうにエルウッドさん。


「どっどっどっど、どうしたんですか、このお金!?!?」まさかとは思うけれど、なんか悪い事しちゃったの!?!?


 その途端私の背筋にぞわぞわーっと寒気が走る。今日は朝っぱらから冷や汗をかいたり寒気が走ったりサファイヤの自律神経はてんやわんやですよ!!


「バカタレ、勘違いすんな。まっとうな、俺が稼いだ金だ!コレは」と。


 でっ、でっ、でも、一体どうやって。


 私は目の前に置かれた札束を手に持つと、どうやら20万円前後のお金があることが分かった。


 すると……「はーい、初めましてお嬢さんー」と隣の席に座っている人からいきなり話しかけられた。


 えっ、えええ!?!?見るとそこには、白い民族衣装にターバンを巻いた……例のシンさんとかいう人とそのお供の人達がいた。あらやだ、全然気が付かなかった。


 そして、「私の名前は、カマル・シンいいまーす。お嬢さん、以後お見知りおきをー」そう言って私の前で手を合わせて恭しくお辞儀をした。


「あっ、どうも、初めまして。サファイヤ・ローレンスと言います」私はあわてておしぼりで鼻水を拭き取り、どうにかこうにか体裁を保つ。


 さらに、「私の名前は、ノール・トゥリパティといいます。よろしくね」とニッコリ笑うサリーを着たとっても綺麗な女の人。


 そして、「私の名前は、モハン・チャンダと言います。初めまして」と口ひげを生やした筋肉モリモリの男の人。


「あっ、どうも、初めまして」


 ってか、えーっと、この人たちって……「前の職場で知り合った人だ」とエルウッドさん。


 前の人達って、例のスノードラゴンの時の?


 すると、「おじょうさんも『グランド デポ』のスキルを持っている人ですかー?」とシンさん。


「あっ、はい、ええ、まあ」と言うと、


「『グランド デポ』いいですよねー。私のパーティーにもここにいるノールが使えるのですよ」とシンさんはそう言うとノールさんを紹介してくれた。


「あっ、どうも」


 そうして私達は一通り挨拶を済ませると、あまり時間が無いという事でいきなり核心の話になる。


 そして……「おい、サファイヤ、ここ、金の換金できるぞ」とエルウッドさん。


「えっ…………ええええええええー、一体どこでですか?」と私。


「『ブックデポ』あるじゃないですか?」とシンさん。


「はい、ありますね」


「その奥に『ハードデポ』あるのご存じですか?」と。


「はい?」


「ですから、『ブックデポ』の奥にある『ハードデポ』で貴金属の取り扱いをしてくれるのですよ」


「あらまっ!!」


「私も『ブラックデポカード』もってますので、それで身分証明もできまして、今日の相場だと1グラム8,400円で引き取ってもらえますよ」とノールさんはにっこりとスマイル。


「金貨も?」


 私はそう言うと、向こうの世界で流通している1000マニー金貨を取り出した。


「「「もちろん」」」とカマルさんとノールさんとモハンさん。


 あらまっ!!サファイヤびっくし。


「そうなんだよ、俺も最初は信用できなくて、じゃあ、俺の持っている金貨、こっちの現金に換金してくれるか?って聞いたら、もちろんです」って。とカマルさんを指さすエルウッドさん。


「ええ、ユーレシアの金貨は非常に品質の良い金貨ですねー。円でいいのなら、私が喜んで換金しますよー」とカマルさん。


「まあ、俺はこっちの身分証明書を持ってないんで、シンに頼んだら二つ返事でOKしてくれてな……」とエルウッドさん。


「ユーレシアの金貨でしたら、ここの『ハード・デポ』よりもいいレートで交換しますよ」とそう言ってウインクをするカマルさん。悪い人じゃなさそうだ。なんとなくだけど……


 そして……「お嬢さん、金融取引はとってもリスキーね。素人が手を出したら大やけどしますよー」と。


「……はい」


「というわけで、資金の目途は経ったからもう『仮想通貨』とか『先物』とかは止めとけ」とエルウッドさん。


「……はい」


「そもそも、その本を書いた人間は今どうなってるんだ?」とレモン協同組合の愉快な仲間たち』と指さしてエルウッドさん。


「……さぁ、きっと大金持ちになってるんじゃないですか」と。そういや、気にしたこともなかった。そうだ。きっと今頃、大金持ちになって幸せに暮らしてるのだろう。えーっと、著者が『伴部 達也』ぽちぽちぽち……「えーっと、出資法違反で懲役10年食らってますねーって……ええええええええー」


「だろうなー」と険しい顔してエルウッドさん。


「たっ、たっ、たまたまですよ。たまたま」


「じゃあ、もう一冊の本は?」


「えーっと、『世界通貨の円楽であなたも家族も幸せに』ですね」ぽちぽちぽち……「……………」


「おいっ、どした?」とエルウッドさん。


「えーっと、こちらの方は出資法違反に詐欺罪が付いて懲役18年食らってます」


「はぁー………」と深いため息をつくエルウッドさん。


「じゃあ、その『億り人……』は?」


 ぽちぽちぽち……「こちらも所得税法違反で実刑食らってます」


「じゃあ、秒速は?」


「はいはい、羽沢さんですね(ポチポチポチ……)あっ、この人は捕まってないですよ。ただ……」


「ただ……なんだ?」


「この本書いた後に派手に破産されてらっしゃいますね……」


「はぁー……」頭を抱え込んでため息をつくエルウッドさん。あっれー、おかしいなー、みんな不幸になってるぞー。


「どうせ、そんなこったろうとおもったよ」とどうにかそう言うと、気を取り直すようにコーヒーをグビリと飲むエルウッドさん。


 すると、「じゃあ、私達、そろそろ時間なのでここらへんで失礼します。またこちらでお会い出来たらお話ししましょうね。……あと、金を換金するなら『ハードデポ』じゃなくて私達にお声がけしてください。毎朝、だいたいこの『サバンナコーヒ』にいますので」そう言って、シンさんはまた、両手をあわせて恭しくお辞儀した。


「あっ、はい、その際はお世話になります」と私。


「じゃあねー」とノールさん。「今度はゆっくりお話ししましょう」とモハンさん。


 そう言うと、インドラの人達は帰っていった。


 ……気まずい沈黙が流れる。


 そして、「まあ、良かったじゃねーか、勉強代になったと思えば」とエルウッドさん。


「……はい」


「とりあえず、その金、口座に入れて、その後、『ハードデポ』とやらに行って確認すれば今日はもういい時間だろ」と店内の時計を見ながらエルウッドさん。


 時計を見ると確かにここに来て1時間半が経過していた。


「……はい」


「じゃあ、その残ったコーヒーさっさと飲んじまって行こう」とエルウッドさん。


 それでも、私はどうしてもエルウッドさんにお願いしたいこと一つがあったので尋ねてみることにした。


「あのー……エルウッドさん、ありがとうございます」


「気にすんな」


 そう言うと、コーヒーを飲むエルウッドさん。どことなく照れくさそうに見えるのは私の気のせいかな。


「それでですね、ちょっとお願いが一つあるんですけど……」


「なんだ?サファイヤ?」と首を傾げるエルウッドさん。


「あのですね……もし、良かったらなんですが、資金の心配がなくなったという事なので、このお金を使って『仮想通貨』でもう一勝負ってのは、いかがですかね……」と私はエルウッドさんに差し出された札束を握りしめて聞いてみた。


 直後、「こんの、バカチンがぁぁぁぁぁ!!!」とエルウッドさんのゲンコツが私の脳天に落っこちた。

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