第3話 宿屋アニータにて その1
うちのパーティーが使わしてもらっている宿屋アニータに戻ってきた私は、自分の部屋に戻ってベッドに腰かけるとやっと一息つけた。
今日も朝からダンジョンに入ってモンスター征伐。
仕事が終わったら、書類を申請してパーティーの報酬を受け取り、消耗品の手配をして、やっとご飯にありつけられたと思ったら、そのまま深夜まで反省会。もう、気の休まる暇がありゃしない。
明日も朝からモンスター征伐。私一体何やってんだろうと深いため息をついた。
3カ月ほど前にこの町のはずれの森で野垂れ死にしそうなところをエルウッドさん達のパーティーに拾われてからというもの、本当に気も体も休まる暇が無いのだ。
その上、情けないことに、それ以前の記憶があやふやなのだ。
最初に見つけてくれたノエルさんの話によると、ボロキレのようなドレスを身にまとい、泥と誇りまみれになって森の中の道端に倒れていたとのことだ。
ノエルさんが私を見つけた時、てっきり盗賊か野犬にでも襲われた死体かなんかかと思ったみたいだ。
次に私に気が付いたナジームさんは「面倒ごとに巻き込まれるのは厄介ですね」とそのまま見て見ぬふりをして通り過ぎようとしたところで、「さすがに僧侶としてそりゃねーだろ」とエルウッドさんとベイルさんに突っ込まれ渋々拾ってくれたんだってさ。オイッ!!
エルウッドさん達に拾われた私は、すぐに町の医者に診てもらったところ、目立った外傷はなかったが、脱水症状が酷かったらしく、そのまま一晩病院のベッドで寝かされて気付いた時には「私は誰、ここは何処」状態だったのだ。
本来ならそこから身元調べなんかをいろいろすることになるのだが、幸い(?)なことに私の荷物の中に、実家の家紋の付いた手鏡があったおかげで、その日のうちにすぐに身元が分かったのだ。どうやら結構有名な家紋らしい。
その有名な家紋のお陰で、どうやら私は、実家で何かをやらかして、勘当された身分であるというところまでその日のうちに分かってしまったのだ。トホホ。
いや、ホントに何をやらかしたのか全く身に覚えが無いのですけど……プライバシーとか個人情報の取り扱いって知ってますか!?!?
記憶の片隅にはかすかに、何やら立派なお屋敷と、ずいぶんと豪勢なパーティーのイメージが断片的にあるのだけど、それが今の私と全く結びつかない。
しかも、ご丁寧なことにナジームさんがわざわざ私の実家がある城下町まで行って両親といろいろと話し合ってくれたところ、(誰も頼んでないんですけど!!)何やら私は常日頃からの生活態度が相当酷かったらしく、学校を始め各方面からのクレームが結構入っていたらしい……のだ。
その上、そのことに愛想をつかした私の婚約者からも、婚約披露のパーティーの真っ最中にみんなの前で婚約解消を宣言され、しかもその婚約者というのが、私の父親の仕事先の随分とお偉い上司だったらしく、堪忍袋の緒が切れた私の父親からも婚約解消と同時に勘当も突きつけられ、その日のうちに実家から着の身着のままでおっぽり出された……らしいのである。(ナジームさん談)
ナジームさんの言うところでは、どうやら、両親をはじめ私の親戚一同が今でも相当怒っているらしく、当分の間は実家のある城下町には近寄らない方がいいよという有難いアドバイスまでいただけることとなった。
本当にどうもありがとうございます。
でも、私、そこまで調べてくれだなんてお願いしてないですからね。ナジームさん。
そんな感じで、食べるものも住む場所も失った私は晴れてこのパーティーの一員となったのでした。チャンチャン。
もっとも、幸いなことにうちの家系は白魔法師の家系であるらしく、私の持ち物には白魔法の教本やら道具屋らがあったのだ。試しに白魔法を唱えたところ、さしたる修業をした記憶が無いのにも関わらず、初級回復魔法の『ヒーラー』が唱えられた。
その上、エルウッドさんのパーティーに白魔法を唱えられる人がいなかったというのも大きかったらしい。
そんな感じで大したケガもなく、単なる空腹と脱水症状で行き倒れとなった私は、体力が回復するなり、すぐさまモンスター討伐に駆り出されるようになったのだ。
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