転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
プロローグ
ある朝普通に目覚めると、そこは見慣れない天井だった。
まだ寝ぼけた頭で
「ありきたりな小説の出だしみたいだな」
なんてことを思いながら体を起こすと、どうやらそこは牢屋のような場所らしい。
人間混乱が一周すると落ち着くもので、目が覚めてもそれほど混乱することはなかったが、はてさてこれはどうしたことだろう。
当然俺にさらわれる心当たりはない。
というかそんな心当たりあるやつのほうが少ないだろう。
昨日は普通に仕事を切り上げて定時にちゃっかり帰宅して、家で飯食って風呂入ってゲームして寝た、だけのはずだ。
別に懐かしの黒歴史、中2時代のノートを参考に魔法陣を書いたりしてないし、俺の秘めたる力もとっくに失われている。
つまり一番現実的なのは夢の異世界転生なんかじゃなく、単純にさらわれたということになるわけだ。
「にしても、こんな絵に書いたようなファンタジー牢屋が現代日本にあるのか?」
岩をそのまま削った壁、やたら太い鉄格子、ライトじゃなくてろうそくの明かり、それが今の俺の周りだった。
モフッ
「?」
とりあえず立ち上がって鉄格子の方に向かおうと、俺が手をついたそこは、なんだかモフモフしていた。
「なんだこれ? 動物?」
なんとなく懐かしいモフモフ加減からして、うさぎだろうか?
かつて飼っていたうさぎを思い出しながら”それ”を撫で回していると。
「い、いつまで撫でる気だ! この変態!」
「うおっ しゃべった!」
突然喋って飛び上がった”それ”から、俺は思わず手を引っ込める。
飛び上がったひょうしに明かりのもとに現れたその姿は予想通りうさぎだった。
「しゃべるくらいなんでもないだろう。それよりも、だ! お前黙っていれば好き放題撫でおって。お前に礼儀というものはないのか」
「いやすまん、なかなか素晴らしいモフモフ具合だったもんで」
「そ、そうか。まあ、そう言われると悪い気はしないが…」
「じゃあもうちょっとだけ―――」
「いいわけないだろ変態! 近寄るな手を上げるな撫でる仕草をするなー」
「ちぇー」
「全く、油断も隙もない……それよりお前、いつからそこにいた? 何をしてこんなところに入れられたのだ?」
「え? あー、いつからいるんだろうな、俺? あと、誓って言うがこんなところに入れられるようなことはしてないぞ。ついで言うと俺の知ってるうさぎはしゃべらないんだが…」
「何もわからないのか。もしかして記憶喪失か? うさぎがしゃべることもわからんのだから記憶喪失でもおかしくはないが」
呆れ気味に鼻をピクピクさせるうさぎ。
うさぎに声帯はないはずなのだが、果たしてどこから声を出しているのだろうか?
「いや記憶ならはっきりしてるぞ? 昨日は仕事に行って家に帰って夕飯を食べて風呂に入ってゲームして寝ただけだ。ちなみに俺は如月真也だ」
今さら名乗っていないことを思い出した真也は、思い出したように名前を付け加えた。
「げいむ、というのはよくわからんが、それ以外はだいたいわかった。それにしてもシンヤとは変わった名前だな」
「そうか? 俺としてはしゃべるうさぎよりは変わってないと思うけどなあ」
しゃべるうさぎに変などと言われるほど変な名前だとは思ったことがないのだが、そんなに変な名前だろうか?
「いや、
「そりゃあまあ、女の名前じゃないからな。俺男だし」
「え?」
「え?」
二人(1人と1羽?)の間に沈黙が流れる。
先に沈黙を破ったのはうさぎだった。
「落ち着いて聞けよ? シンヤ、今のお前はどう見ても女だ」
「……?」
真顔(正直表情の変化がわからないが声のトーンからしてそうだろう)で言ううさぎに、真也はゆっくりと自分の体を見下ろす。
そこにはなかなかに立派な双丘があり、真也の立派な息子(自己評価)がない体があった。
「なるほど、なかなかにいい女じゃないか」
始めて触るのが自分の胸になるとは思わなかったがとりあえず胸を持ち上げたり落としたりしながら、真也は落ち着いた様子だ。
「その、なんだ、驚かないのか?」
むしろうさぎのほうが驚いて戸惑っていた。
それにしてもこの一瞬で真也がもともと男であることを理解したとは、頭のいいうさぎである。
「驚いて何か変わるのか? いやこうじゃないか―――驚いてなにか変わるの、うさぎさん?」
「うむ、なかなかうまいものだ。まあ、私から見ればさっきまでが男の演技に見えていたわけだが」
「いい感じ? じゃあこれでいくね。ついでに名前も変えよう。そうだなあ……マヤ、でいいかな」
真也の読み方を変えただけだが、まあいいだろう。
「わかった、これからはそう呼ばせてもらおう、改めてよろしくな、マヤ」
「そういえばうさぎさん、あなたの名前は?」
「? そんなものはないぞ?」
「不便じゃないの?」
「我々は匂いでお互いを区別できるからな」
「なるほど、でもそれ、私は無理なんだけど」
「だろうな」
「だよね。じゃあさ、名前つけていい?」
「まあ、仕方あるまい。いつまでもうさぎさんなどと呼ばれてもややこしいしな」
「やった。じゃあねー、マッシュで」
「ふむ、聞いたことのない響きだが、悪くない」
名前を受け入れたと同時に、うさぎもといマッシュは体にかすかな魔力の流れを感じた。
(おや、これは――)
「うん、よろしくねマッシュ。それで、なんでマッシュは捕まってるの? まあ私もだけど」
うさぎがしゃべったり、なんか女になっていたりで忘れていたが、なんで真也、改めマヤはこんなところにいるのだろうか。
「マヤがなぜここにいるのかは私にもわからんが、少なくともここがどこかはわかる」
「まあ、それは私もなんとなくわかる。牢屋でしょ、ここ」
マヤの知ってる牢屋、刑務所とは違うが、まあどう見てもここは牢屋だろう。
「ああ、そのとおりだ」
予想通りの答えに、マヤはうなずく。
「じゃあ、マッシュは悪いうさぎさんなんだ」
「なっ!? 失礼な! 私は決して悪いことなどしていない!」
前足をバタバタさせて怒るマッシュだが、マヤから見ればただかわいいだけである。
「悪い事した人はみんなそう言うんだよ。さあ、お姉さんに言ってごらん。何したのかな?」
マヤはしゃがんでマッシュと同じ目線になると、ほほえみながら言った。
「優しく語りかけるな! 私は家族が貴族にさらわれて、それを取り戻しに行ったら捕まったのだ。決してやましいことなどしていない」
可愛いうさぎでしかない見た目の割に重ための理由に、マヤはちょっと真面目な表情になる。
「あら、それはかわいそうに。でもそれで正面から乗り込んだらそりゃあまあ牢屋だよねー」
「じゃあどうすればよかったというのだ?」
「そうだなあ、それは――っとその前に、とりあえずここから出てから考えない?」
「それは同感だが、どうやってでるのだ? 出れるなら私もとっくに出ているが?」
「だよねー。でもマッシュさー、アナウサギでしょ? 穴ほって逃げられないの」
「それはもう試したが、ここの地面は固くてな…いや待てよ、今の私ならいけるかもしれん」
残念そうに話していたマッシュだったが、途中でなにか思いついたようだ。
マッシュはマヤの前で両前足をつくと、ぐっと前足に力をこめた。
ぼこぉお!
「うわっ!」
大きな音とともに小さな前足からは信じられないほど大きく地面がえぐれた。
「うむ、やはりか。おいマヤ、見張りに気づかれないうちに逃げるぞ!」
「え、あ、うん?」
こうして、マヤとマッシュの冒険は始まった。
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